330話『神殺しの男』
初めて異物と遭遇した後のダジとの会話で見せられた映像の中にいた地に降り立った神を殺したという男、話では神々の使徒達との戦いで共倒れになりダジ達によって全て無に帰った…と聞いていた。
目の前にいる男…東雲一郎というこの日本人は話通りなら生きている筈がなくここにいるのは幽霊もしくは…
「(ヒスイとエンジョウと同じ感じ…なのか?)」
林道氷翠、沢村炎条、この2人は共に前文明にて転移してきた地球人であり多大な犠牲の上に神と同等の存在へとなった者である…そして異物と同じように今の文明まで残り現在はアユムが持つ薙刀とアギトが持つブレスレットに宿っている状態である。
もし東雲一郎が2人と同じ存在ならばこの白い空間に居るのも今の文明にまで残っているのも納得が出来る。
「…あれ?俺苗字名乗りましたっけ?」
「ん?あれ、名乗ってなかったかな?」
名乗ってはない、名前しか言ってない筈だが東雲はどうもアユムが冨谷という苗字である事を知っているらしい。
神殺しの男という方へ思考が引っ張られていたがアユムとは初対面という反応をしていたのにもかかわらず何か知っているようにも見える。
「(…あの反応…本当っぽかったんだよな…ただそうなると知ってるのがマジでなんなんだって話なんだよな…)」
アユムには目が合って話したあの反応が演技には見えず、そして何か知っているのも疑わしくこの男が何者なのか分からなくなっていた。
「…ところでここ何処です?なんで東雲さんがここに?」
何がともあれアユムの記憶では落ち武者の傷口から伸びた霧の手からキュウソを庇ったところで記憶が途切れている、もし死んだのならダジの元に行きそうなところに何故か似たような別の場所に来てしまっている…東雲しか話せる者もいないので話を振ると東雲は困ったように頬をかく。
「そりゃ僕はここにいるに決まってるだろう、ここは僕の精神の中なんだ」
「…東雲さんの精神の中?」
「そう、僕が君に侵食した事で精神が繋がって君がここに魂だけ来た」
「………………ん?」
「分かりにくかったかな?僕、ここでは表と言うべきかな?表の僕の体から…」
「ま、待って…待ってくれ…ちょっと…理解が追いつかない」
突然目の前の男の口から飛び出てきた言葉にアユムは頭を抱える。
「……ここは東雲さんの精神の中」
「うん」
「俺は東雲さんの精神の中に入った」
「うん」
「…侵食?けど…俺が意識失ったタイミング的にも………………なぁ東雲さん」
「あの落ち武者は…東雲さんなのか?」
「…そうだよ」
「…ッ!!」
話の流れからアユムは何となく気づいてはいた、だが脳が理解を拒み本人に聞き…確定してしまった。
意識を失ったのは落ち武者の傷口から溢れた黒い霧の手に触れられた瞬間、精神が繋がるという事が起こりうるのはそのタイミングしかなく…東雲一郎があの異形の落ち武者であるという事になる。
ただそうなるとひとつ疑問が発生する…アユムは落ち武者と化け物は『異物』であると考えている、落ち武者が東雲であり転移者であるなら化け物は何なのだろうか?もしかしたらあの化け物達は……
「ただ詳しく言えばあれは僕であって僕じゃない」
「…?それってどういう…」
「あれは言うなれば僕だった残りカス…肉体が世界に縛られ魂である僕は切り離された状態なんだ」
「……?………!!!」
別の考えに思考を奪われそうになりつつ一瞬東雲が何を言っているのか分からなかったが…突然ある光景が脳裏に浮かぶ、それは地下深くにある場所に奉られてるかのように閉じ込められていた…
「…ヒスイ…」
全身包帯に包まれほぼ死体と変わらない姿であったヒスイ…ではなく林道氷翠、あの時にアユムによってその人間の魂は解放されたが神の方である今のヒスイは残っている。
その状況に当て嵌めるなら今の東雲一郎の肉体と魂が別々なのも似たようなケースなのではないだろうか、1人でブツブツ考えていると聞こえたのか東雲はゆっくりと自分の顎に手を当てる。
「…ヒスイ……懐かしい名前だ」
「?知ってるんですか?」
「……あぁ…よく知ってる」
そう言ってどこか懐かしそうに遠くを見つめる、ヒスイもまた東雲と同じ転移者であり使徒達との戦争に参加していたのなら会っていたのかもしれない。
ヒスイも何か知っているのかもと考えていると東雲は顎に当てていた手を下ろしアユムの方を向く。
「…ところでアユムくん、ひとつ聞いてもいいかな」
「なんですか?」
「………君は何故この世界にいる?」
「…この世界に…ですか」
東雲の問に答えようと口を開き…少し考え言葉を選ぶ、何故ならアユムが転移した理由が少ししょうもなく…そして…
「……抽選で選ばれた…らしいです」
「……抽選?」
「……抽選…」
アユムの返答を聞いて東雲は肩透かしを食らったかのように首を傾げる、首を傾げたいのはアユムの方であり聞いた当初から変な理由ではあるとは考えていた。
「(改めて思うと手違いで殺されたレベルで酷い理由だな………これ…俺がキレられかねないぞ)」
冗談にも聞こえるが実際にダジから言われたのがそれである以上真実だが…相手によっては嘘を言われてると思われても仕方ないと恐る恐る東雲を見ると………東雲の目が少し開いていた。
「……それは違うな、アユムくん」
「…違う?」
少し開いている東雲の目は黒色で…光を飲み込みそうなほどに黒い。
「…ここで君と話した時…いや、君と目が合ったその瞬間から僕には分かった」
「あ、あの東雲さん…?」
突然雰囲気が変わり東雲はアユムに近づきアユムの両腕の二の腕を掴み…アユムと目線を合わせる。
「『君でなければならないんだ』」
「…俺でなければ?」
「あぁ…君が…この世界に来るのは決まってたんだ…!」
「ッ…!」
少しずつ声が大きくなっていき掴んでいる東雲の腕の力がどんどん強くなっていく、その目は更に見開かれ……
「そうか…僕が君とここで会うのも運命だったんだ!君にこの事を伝えるために!」
「お、落ち着いて…落ち着け!なんなんださっきから!」
「君は償わなければならないんだ!僕達の罪を!愚かな行いを!」
「罪…?」
その目は何処か正気ではなく東雲の目からは涙が流れ始める。
「あぁ…あの時からずっと…僕は…この時を待っていた…ずっと許されたかった…」
「待ってくれ…意味が分からない、あんたは一体…」
「…聞いてくれアユムくん、君には知る権利がある」
「……………」
その様子、言動から明らかに東雲一郎は狂っている…そう分かっていながらもアユムは何故か東雲のその狂った目を見てしまい耳を傾ける。
「僕達を導き…神々との戦いを仕向け…君がこの世界に来なければならない理由を作った者がいる……その名は…」
「まったく我の信者に何をしている」
「ッ!?」
突然目の前にいた東雲の体が崩れ始め地面に落ちる前に消え始める、急な事にアユムは何も出来ずただ見ていると…崩れていく東雲の後ろに誰かが立っている事に気づきその顔をよく見るとその顔に見覚えがあった。
「…ダジ様」
「こんなところで何油を売ってるんだアユム、困った者だ」
ニヤッと笑うその顔、アユムがこの世界に来た時初めて会った神でありこの世界にアユムを転移させた張本人でありアユムに転移させた理由を話した神…破壊神ダジが立っていた。




