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329話『往事茫茫』


水の中をぷかぷか浮いてるかのような寝起き直後のように頭が回らない感覚に意識が朧気になりながらアユムは自身が目を閉じている事に気づく、このまま目を閉じたままでいたいという気持ちが強かったが何故か分からないが目を開けなければならないような…そんな気がして海の底に落ちていく意識を引っ張り目を開く。











『大丈夫か歩?』


そんな声が聞こえゆっくりと目を開ける、視界の先にはコンクリートの床に小さな靴に小さな足…更にはよく自分の姿を見ると小学生の制服を着ている。


「(…なんだ…ここ…何処だ………なんで俺こんなちっちゃいんだ?)」


記憶が曖昧なせいでさっきまで何をしていたのかすら思い出せない、周囲を見ると並べられた椅子に天井には見慣れた蛍光灯…そして黒い服を着た人が大勢いた。

彼らは誰なのだろうか?その顔をよく見ようとしたが顔はまるで黒墨を浸らせた筆で塗り潰されたかのように誰か分からず老若男女程度しか分からない、そして自分が誰かの手を握っている事に気づき手にそって見上げるとそこには他の人々のように顔が塗り潰されているが今の歩より5〜6歳ほど歳が上の男のようで歩むと同じように学生服を着ており歩と目が合うとしゃがみこみ目線を合わせてくれる。


『疲れたろ?少し横になるか?』

『…いい』

『…そうか、お前は強いな』

「(…誰だろうこの人…勝手に俺の口動いてるし喋れないし…なんなんだ?)」


体を動かせる訳でもなく喋れる訳でもない…自分の口から出た声からして10歳くらいだろうか?ここはどこなのだろうかと周辺をよく見ると花が飾られており黒い服の人々の手にあるものが目に入る…それは…


「(…数珠?もしかしてここ…葬儀場か?)」


置かれた花はよく見れば日本の葬儀の時に置かれる供花であり雰囲気からしてどうやらここは葬儀場で間違いないだろうというのが分かる。


「(つまり俺は誰かの葬儀に来ていて…服装とか姿から昔の記憶か…?随分と嫌にリアルで覚えるもんだな…まるで本当にそこにいるかのようだ)」


過去の記憶が蘇り思い出すというのは誰しもがある事だが記憶を体験するような事が出来るほど記憶に残るとはそれほどこの葬儀が印象的だったのだろう、そう思いながら目線を合わせている目の前の男を見てふとある事に気づく。


「(…これ…もしかして兄貴か?)」


目の前の男の顔は黒く塗り潰されているため分からないがどことなくその雰囲気から自身の兄だと判明する。


「(なんで黒塗りされてるのか知らないけどなんか懐かしいな〜…かれこれ1年顔を見てない訳だし懐かしくもなるか…)」


あの洞窟へと転移してから約1年となろうとしている…どんなに家族と疎遠になろうと1年も顔も見ず話もしなければ懐かしさを感じるのが人というものだろう、そして目の前にいるのが兄なのならばとふとある事が頭に浮かぶ。


「(仲良かった人か親戚の葬儀の時の記憶か?まぁ確かに遠い親戚の爺ちゃんが亡くなったりしたら行ってたけどそんな行ったかなぁ…てかそんな記憶なんで今思い出してんだ俺?)」


何故この記憶を今?謎の記憶の体験に首を傾げながら一体誰の葬儀なのかを確認するため今見える範囲を最大限使ってギリギリ遺影を見ようとする。











そこには2つの遺影があった、ひとつは男でもうひとつは女…どちらも若くはなく40前後といったところだろうか。

何故かその男女の遺影だけ顔に黒塗りされておらずその顔がよく見える、これと言って特徴はないよくいる日本人の顔だ……


『…ッ……』

『どうした?』

『…あたまいたい…』

『……そうか………そうだよな』


突然視界が動き頭を刺すような痛みが走る、どうやら片手で頭を抑えてるようで少し俯いておりどうも記憶の頭痛が精神と言うべきか今の歩にもリンクしているらしい。


「(てか…なんだって今こんな記憶思い出してんだ…?俺何してたっけ…確か………あれ?)」


ここが遺影の男女の葬儀場であることは理解したが何故この記憶を見ているのか分からずさっきまで何をしていたのかを思い出そうとして………何をしていたのか分からなくなる。


「(確か…キサラギさんのアニメ見て……そうだ今日面接で…いや面接はダメダメだったんだっけ?ベンチで休んでて…………アミーラ?)」


記憶が曖昧で少しずつ思い出そうと頭を捻っていく、会社の面接に行く為にスーツを着て出かけたまでは思い出せるがそれからが妙に思い出せず…ある名前が脳に浮かぶ。

何故その名前が出てきたのかそもそも誰なのか?思い浮かんだ名前に困惑していると…何処からか会話している声が聞こえ始める。


『聞いた?生き残ったのあの子だけだったらしいわ』

『警察は不慮の事故と言ってるらしいが…2度目ともなるとな』

『気味が悪い…言動もおかしかったし呪われてるんだわ』

『やめろ聞こえるだろ』

『いいのよどうせ引っ越していなくなるんだから…』

『…冨谷夫妻の前だ、この場くらいはそっとしていてやろう』

「(…冨谷夫妻?)」


聞こえてきた方角からどうやら参列者達からの会話らしく声を潜めてるが僅かに聞こえてしまっている、何の話かは分からなかったがひとつ気がかりな言葉に歩は引っかかっていた。


「(…そういえば父さん母さんは何処だ?子供だけ残してどっか行く人ではないし……)」


冨谷夫妻、参列者の中に親戚がいるのかと見るがどうもいる様子はなくだとすれば冨谷と呼ばれるからには歩の両親の事を指すのだろう。

だが周囲には歩と兄しかおらず両親の姿はない、記憶の中を掘り返し傍に居ないのはおかしいと思った歩はしばらく考え…ある考えに至り…視線をある方向へと向ける。


「(………あれ………父さんと母さん…?)」


視線の先には『遺影』がある、そこに写っているそれぞれには男と女の遺影が立てかけられており…何故気づかなかったのだろうか?歩にはその顔に『見覚えがある』。


「(けど…おかしい、なんで…父さんと母さんは普通に生きてて…確かに今は仕事の都合で父さんは母さんと一緒に別の土地に行って………あれ?…けど…朝面接行く時まで一緒に住んでて…)」


父親と母親の遺影が並んでいるという事はこの葬儀は両親の葬儀になる、しかしそうなるとおかしい部分が存在する…歩の記憶には両親は『生きている』のだ。

もしこの記憶が自分の昔の記憶ならばこの記憶は食い違っている事になる、一体何が起きているのか分からず混乱していると目線を合わせていた兄が肩を震わせながら急に小さい歩を抱き締める。

その抱き締める感触がダイレクトに伝わってきてかなりの力で抱き締めているのが分かる、苦しく痛いため文句を言おうと口を開きかけると…


『…大丈夫だ歩、お兄ちゃんがお前を絶対守ってやるからな』

『………じゅうらいにいちゃん』

「(…じゅうらい…『冨谷従来』、俺の兄貴…)」


耳元で鼻をすする音と声を殺しながら話す冨谷歩の兄である冨谷従来、ふと気づくと自分の目線が小さい自分から俯瞰して見る形になっており…黒く塗り潰されていた兄の顔がよく見えるようになっていた。


「(眼鏡かけた機械大好きな過保護な兄………けど…おかしい…何かが…おかしい……)」


泣いている兄の背中を叩いている自分を見ていると…視界の端で何かが揺らめく、それは黒い霧であり…その霧は人の手の形をしていた。

その霧はだんだんと広がっていき参列者を椅子を壁を覆い始める。


「(…そうだ…帰らなイト…モトノセカイ二…)」


少しずつ頭の中が整理されていく、まるで最初からそうだったかのように『帰らなければならない』という気持ちが強まっていく。

黒い霧はどんどん全てを覆っていき歩の足元からだんだん登ってくるように手が伸びてくる。


「(カエラナイト…カエリタイ…カエリ…タイ……)」

『カエロ…』


とうとう兄も小さな自分も霧に消え歩の足元から伸びた手は首まで覆い…何処からか声が聞こえてくる。


『カエロウ、モトノセカイニ…』

『カミヲコロセ…』

『イタイ…クルシイ…』

『ナンデワタシガコンナメニ…』

『シニタイ…』

『ダレカ…』

『オレタチガナニヲシタッテイウンダ…』

『タタカイタクナイ…』

『ミナゴロシニシロ…』

『ソウダ…コロセ…』

『ヤツラヲユルスナ…』

『セカイノタメダ…』

『コロセ…』

『コロセ…』

『コロセ…』

『コロセ…』

『コロセ…』

『コロセ…』

「『…ソウダ、カミヲコロセ』」


歩の体を覆う黒い霧の手が囁きかけてくる、そしてその声はだんだん歩の中に入り込みだんだんと脳が揺れ始め思考が鈍り始める。

元の世界に帰る為に『神を殺せ』そうすれば元の世界に帰れる、神をコロセ使徒ヲコロセ邪魔するモノを全テ殺セ帰ル為二コロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセ…


















『歩』

「………?」


ナニかと一体化しそうになったその瞬間、霧が晴れるかのように思考がスーッと鮮明になっていく…そして体に纏わりついていた黒い霧の手も風に流れていくように霧散していき覆っていた体は自由になる。

何が起きたのか?そう考えようとしたがそれよりも前に視界の中にいる『人物』に目を奪われていた、その人物とは…


「…アミーラ?」


ふと、記憶が蘇ってくる…アユムとほぼ運命共同体で異世界での唯一無二の相棒…そのアミーラが目の前にいた。

だが少し妙な所が多々存在している、アミーラは紫髪だが目の前の少女は黒髪で限りなく人間に近いアミーラと違って目の前の少女はまるで…


「……まさか……お前は…!」


突然何かの記憶が脳内を駆け巡りアユムは少女へ手を伸ばし…



パカッ



「パカ?」


急にこの場にふさわしくない音が聞こえ下を見ると…黒い霧が晴れたコンクリートの地面がまるでバラエティーの開く床のようにパカッと開いていた。

一瞬の静寂と思考停止に時間を取られアユムは自然と重力に引っ張られ下へと落ち始める。


「なんでこんな所にこんなのあるんだぁぁぁあああああああああ!!!!」


落ちていく体に遠ざかっていく少女へ向けて手を伸ばすが届くわけもなくアユムは抵抗する事も出来ずただただ落下していく。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



「……………ぁぁぁぁああああああ!!!ぶべっ!?」


どのくらい落ちたのか分からなくなった頃に突然地面?に顔面から落ちる、痛みはなく首が折れた様子もないが形だけでも首をさすりながら起き上がる。


「…何処だここ」


周囲を見ると一面真っ白の空間、何処かで見覚えがあり少し考え…


「…ダジ様の謁見の間か」


見覚えがあったこの場はどうも破壊神ダジの謁見の間…初期の何も無い白い空間とよく似ていた、疑問が晴れてスッキリしたアユムだったがスッキリしつつもまた新たな疑問が浮かび上がる。


「…なんで俺ここにいるんだ?」


ダジとの謁見の間に来る条件は意外とありまず何があったのかを頭を捻らせて思い出そうとする。


「確か……そうだロックさん達助けに行ってキュウソと…化け物か、戦って…落ち武者に出会って…………そうだ落ち武者のあの黒い霧!」


ポンッと手を叩いてようやく思い出す、落ち武者から出てきた黒い霧の手に触れられた瞬間からの記憶がなく今に至る…それが原因だと1人で納得する。


「………だとすると…俺死んだのか…?ダジ様の謁見の間ならそれしか考えられないけど…にしては何も無いなここ?俺の記憶から取り出した物で溢れてた筈なのに」


1度死亡した際に謁見の間に来た記憶があるためその線を疑ったが…ダジと最後に会った際の謁見の間はかなりごちゃごちゃ散らかっておりアユムの記憶から取り出した物でいっぱいであった。

だがここはかなり殺風景でありダジの謁見の間…とは考えにくかった、一体ここがなんなのか分からず周囲を見渡すと…






「あ」

「え?」





目が合ってしまった、そう…誰もいないと思っていたこの場に『人』がいた。

人なのかどうかは分からないがアユムが後ろを振り向くとそこにはアユムを見て困惑した目を向けている1人の青年…ボサボサの黒髪に黒メガネ、身長は高く175以上はあるだろうか?細過ぎて糸目になっておりどことなく趣味に没頭するタイプの人物に見える…服装は黒と白を基調とした現代風であり20歳前後に見えアユムとそう変わらないようにも見える。


「き、君なんでここに…どうやって…」

「あ、どうも初めまして」

「あ、これはご丁寧に…って違う!違うと思う!」


顔立ちから日本人だと気づきアユムは咄嗟に立ち上がって頭を下げながら片手を出し相手も同じく手を出して握手をしたが…日本人特有かどうかは分からないが初手握手コミニケーションを成功させた、相手はかなり驚いておりどうしたものかと考えていると…


「(…この人…何処かで見たような…?)」


目の前にいる男を見た瞬間からアユムはこの男を何処かで見たような気がしていた、だがそれが何処なのか思い出せずにいると男は咳払いをしつつ頭をかく。


「コホン…と、とにかく久しぶりの喋れる人だ…自己紹介から始めようか?」

「あ、じゃあ…俺アユムって言います…一応日本人です」

「見ていれば分かるよ…僕は…」


お互い日本人同士なのだと判明して少し安堵する、異世界に来てからというものアユムと同郷はユリしかおらず似たような空気の者と話すと何故だか安心していた…男も同じなのか少し強ばった顔が柔らかくなり少し微笑む。







「僕は『東雲一郎』って言うんだ、よろしく冨谷君」

「………ぁ」


突然、名乗ってない苗字を言われた事に驚い……てはいなかった、それよりもアユムはある事を思い出していた。

目の前にいるこの男をアユムは見た事がある…実際にではなく間接的に…


この男は『神を殺した男』だ、日本刀を持ち平和を呼びかけ地に降りてきた神を殺した。


『前文明の転移者だ』


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