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328話『つかの間の休息』


未だに雨が降り続けている中で息を切らしながら木の下へと入るとスズランは地面へ倒れるように仰向けになる。


「も…もう走れない…」

「スズラン大丈夫…?ごめんなさい私今この姿なのを忘れてて…」

「い、いいのヒストル…どの道…早く走らなきゃいけなかったから」


獣人化しているヒストルに手を引かれながら走ったスズランは肩で息をしつつも笑顔を見せ心配そうに見るヒストルの頭を撫でる。

そして遅れてサヨ、ダガリオ、リサ、アミーラ、最後に先頭を走り全員が入ったのを確認したロック達が中へ入ってくる。


「はぁ…はぁ…全員…いるか?」

「アミーラで最後じゃが…アユムとキュウソはまだ来る様子は無いの」

「あの場所から離脱する際に戦っている音が聞こえました、恐らくは」

「なんであのキュウソって野郎は残ったんだ?」

「さ、さぁ…いつの間にかいませんでしたよね…?」

「…何がともあれ皆休息を取ろう、アユムならすぐ戻ってくる」

「そうね…じゃあ私何か食べれるもの用意するわ」

「助かる…ロックさん達は少しこちらに」

「ん?なんじゃ?」


ひとまずは逃げ切れたのに安堵しダガリオ達は消耗した体力を回復させる為に各々楽な姿勢になる、雨とぬかるみよって通常よりもかなりキツいのもあってかサヨのような体力のない者達は息も絶え絶えになってしまっている…休むよう促しつつダガリオはロック達とアミーラとリサを呼び円になる。


「ロックさん念の為確認なんですがここに来てからあのようなものを見たりとかはありますか?」

「無い、未開拓地を調査するようになってからもあのようなのを見たのは初めてじゃ」

「俺らも無いな…他のパーティーを逃がしてから確かに十分に休めず見逃してた可能性はあるが…」

「あの様子だとあちらが気づいたら襲ってきてもおかしくはない、少なくとも無かったはずだ」

「…となるとやはりさっき現れたばかり…」

「…先程は聞きそびれたがお主らはあれを知っておったようじゃの、王都…噂ではしばし前に王都で何やら騒ぎがあったようじゃがそれが関係してるのか?」

「はい、私達は以前王都である者の陰謀で儀式が行われあの異形の化け物が現れ交戦した事があります」

「あん時も気持ち悪ぃのが相手だったが今回もとはな」

「…ただ、あの黒霧は見た事がない…そもそもあれは一体…」

「一応あのきめぇ奴らとは敵対してるっぽいけど味方だったりしねぇかな」

「それは…」

「それは無いだろう、あれは私達にも矛先を向ける」

「ッ!」


化け物と落ち武者が現れた事と王都に現れた化け物の共通点が何か無いかとダガリオは考えていると雨音に紛れ足音と知っている声が聞こえ顔を上げると…アユムを小脇に抱えているキュウソが立っていた。


「な、キュウソ!?それにアユム…どうしたんだ!」

「色々あってな、あの異形の体内から出た霧に触れてしまってから意識がない」

「ッ…おいサヨ!こっち来てくれ!何ちんたら水飲んでんだ!」

「ふぇ?!ど、どうし…アユムさん!?」

「アユム様!」


ちびちび水を飲んでいたサヨは急に呼ばれて水が入った水筒を落としそうになりつつもぐったりとしているアユムを見てすぐに駆けつけ更に騒ぎを聞きつけヒストルとスズランも集まってくる…キュウソはアユムをアミーラに渡しつつ血の椅子を用意して座る。


「よくここが分かったの」

「アユムくんに付いている精霊が快く教えてくれた」

『だーかーらー、精霊じゃないって』

「…息はあります、ですが…怪我もしてませんし何かある訳でもないのに起きる様子が…」

「……ヒスイ…何があったんだ?何故アユムは意識を失っている?」

『それは…』

「私から話そう…私の失態でもあるからな」


心拍と瞳孔を確認したサヨはアユムは至って健康であると同時に何故意識を失ったままなのか分からないでいた、何があったのか?ダガリオはヒスイへ聞くと座っていたキュウソがヒスイを遮り口を開く。


「君達が逃げた後、私とアユムくんはあの異形のもの共を全て倒した黒い霧を纏っていた者と戦おうとしていた…もっともアユムくんは途中立ち止まったが」

「立ち止まった?」

『一応何でかは分かってるけどまずは全部聞いてからの方がいいかも』

「……私は黒い霧を纏いし者と戦った、異常なまでの怪力…更にはあの左手が厄介だったがそれを気をつければ以外にも何とかなる相手だった………私は倒せると踏んで一気に攻め…竜の口へと飛び込んでしまった」


そう言うキュウソの顔はみるみるうちに青ざめていく。


「…あの黒い霧を纏いし者を切り裂いた瞬間、声が聞こえた」

「声…ですか」

「……悲鳴のような声だ、その声を聞いた瞬間私は何が起きたのかすら分からなくなった…理解をする前に切り裂いた傷口から無数の手のようなものが現れ私を掴もうとしてきた……そこをアユムくんが私を庇い…」

「………ヒスイ、アユムは何故立ち止まった?」

『えっとね…アユム自分の身体能力が上がってるって言って…あの化け物とか黒いモヤモヤーっとした落ち武者が『異物』だって言ってたの』

「異物?なんじゃそれは?」

「………アミーラ」

「えぇ、似てますね」

「………異物か…」


キュウソとヒスイの話を聞き首を傾げるロックを横目にダガリオはアミーラを見てある事を思い出す、異物…悲鳴のような音…そして手…どことなく『初めて異物と遭遇した時』によく似ていた。

異物…アユムが破壊神に破壊を命じられているものであり今までに出会った全てが人智を超えたものである、それが相手となればあの異様な強さと不気味さは納得が出来る。


「………ともあれ無事なら良かった…だが奴はどうした?」

『…それが…』

「今もこの地を闊歩してるだろう、アユムくんが倒れ戦うのは不可能と判断し私は逃走した」

「っつー事は…下手に動くとあいつと出くわす可能性があるって訳か」

「…キュウソよ、ワシらを常に見ていたという事とあれから逃げれたという事は何かしら移動手段があるのだろう?それで奴を先に見つけることは出来んのか?」

「………まぁそこの精霊には見られている、隠していても仕方あるまい」


少し嫌そうな顔をしつつもキュウソは立ち上がると自身の手首を爪で切り血が地面へと垂れる、血が地面に当たった瞬間…血が地面から溢れ出し人1人が収まるくらいの広さの血の円が出来上がる。


「これと同じようなのがここら中にいくつもある、この中を通ればそこに出れるという訳だ」

「なるほど、ある程度の場所に絞り移動しロックさん達の動きを予想して移動していたという事か」

「ほー便利じゃの」

「……しかしこれはあくまでも固定された移動、あの黒い霧を纏いし者が都合よく移動先の見える範囲にいるとも思えん」

「それにあれの行動を予測しろってのは無理な話だわな」

「むー…となれば難しいか」

「なんだ、君達はまだあれと戦うつもりか?」

「…それはどういう意味でしょうか」


いわゆるワープポイントのような事が出来るキュウソはその力でロック達の移動先を予測していたらしい、そして落ち武者をそれで見つけに行くというのが難しいという事も分かった。

どうしたものかとダガリオ達が考えているとキュウソは信じられないという顔をする。


「…あれと相対して分かったがはっきり言って私達の手に負えるものではない、君達でもあれを見た時には感じたと思うが?」

「……んだ?ビビってんのかよ」

「臆病というのは悪いことでは無い、臆病と勇敢を履き違えた者は死ぬ…私が知っている限りあらは前文…」

「…?」

「…ともかくアユムくんを見ろ、彼ほどの者がこうなってしまう相手だ…私は賢明な判断とは思えないな」

「……………」

「ワシらもあれと戦うのは避けた方が良いと思うぞダガリオ」

「ロックさん…」


かなり警戒しているキュウソ、それほどまでに落ち武者との戦いに何かを感じ取ったのかとダガリオは考えていると静かに見守っていたロックが声を上げる。


「ただしそれは今の話だ、ワシらはかなり消耗している…それにアユムがこうでは戦うにも戦えんじゃろう」

「それは…」

「エレファムルに戻りセシリアへこの事を報告しよう、そして力のある冒険者を連れ討伐すればよい」

「…確かに現状を考えればそれが1番適切な行動でしょう」

「ならば帰還する準備を…」

「……ですが」


落ち武者と戦うことになるのは実際のところダガリオ自身も避けたいと考えていた、化け物達とは違う不気味さがあったからだ…しかしダガリオはアミーラとリサを見ると2人は頷きダガリオと同じ考えであるらしい。


「…(アユムならばここで決着を付けると言うだろう)」


声には出さず心の中で呟く、本人ではないためここで言っても仕方ないと思ったからである…アユムなら異物という危険なものは今すぐにでも破壊し無力化させる必要があると言うだろうとダガリオ達は考えていたが…そのアユムが倒れ意識を失っている今、その事を話したところで現状が改善される訳では無い。


「…ところで、テメーはそれでいいのかよ」

「ん?」

「私らがもし町に戻ったらお前がモンスターけしかけてるとか報告するんだぞ」

「あぁ…その事か」

「てか、まずなんでそんな事してんだ?暇なのか?」


場が静まり返り沈黙が流れたがその沈黙を破るようにリサがキュウソへある疑問を投げかける、エレファムルに定期的にモンスターが襲撃して来るのもロック達を見ていたのも全て自分であるとあっさり言ったキュウソであるがその理由はまだ判明していない…何のためにそんな事をするのかとリサは聞くとキュウソは暫く考えニヤッと笑う。


「言う必要があるか?」

「てめぇ……確かに無いな」

「……大方、威力偵察のようなものだろう」

「威力偵察?」


あまり聞かない言葉にリサは首を傾げるとダガリオは近くに落ちてた棒を拾い地面に絵を描き始める。


「まず、定期的にあの量のモンスターを統率させ向かわせている…それほどの事が出来るのなら一斉に多数から攻めさせた方が効果的で簡単にエレファムルを陥落させる事が可能だろう」

「行軍程の規模になれば流石に難しいからの」

「更にここら一帯の肉食の獰猛なモンスターを掻き集めたとこを見ると使い捨てのを使いたかったと見る、僕が本気でやるならもっと屈強な訓練されたモンスターを使う」

「ここら辺の生態系が乱れていたのは手当り次第に集めたという事ですか」

「そして極めつけは…ロックさん達調査に向かっている冒険者をキュウソ自らが監視していた事」

「俺たちを?」

「殿を務めたという事はある程度実力があると考えればエレファムルの冒険者や開拓者のある程度の基準になる、現にキュウソはここでも一気に襲わなかった」

「…………」

「…と、僕なりの考察だ…間違ってるかもしれないが」

「……いい推察だと思うぞ、確かダガリオくんと言ったか?君はとても優秀な人間らしい」

「…(魔王軍幹部という話が本当ならば、開拓最前線の町へ威力偵察するその意味……当たって欲しくはないが…)」

「ひゃう!?」


ダガリオの予想をYESともNOとも言わず拍手するキュウソ、その沈黙の答えがむしろダガリオの不安を煽り冷や汗を流していると何処からか可愛らしい悲鳴が聞こえ全員の視線が集まると視線の先には後ろ首に手を当て顔を真っ赤にしているスズランがいた。


「あ、雨水が首に…」

「んだよビビらせやがって…」

「しょうがないでしょ冷たかったんだがら!」

「つーかいつまで降ってるんだよこの雨」

「ワシらがここにいる時からじゃからずっとかもしれんの」

「これもどうせそこの吸血鬼のせいなんじゃねーか?」

「そうだが」

「そうなんかよ!!」


サクッと答えたキュウソにリサはツッコミを入れる。


「太陽の光が弱点とも聞く、それを遮る為のものか」

「じゃあ話は簡単だな?さっさとこの雨止めろ」

「何故だ?」

「何故だじゃねぇーよ服が濡れて気持ち悪ぃんだよこっちは!!」

「なんだその程度の事か」

「その程度だとてめー!おいスズラン!ニンニク持ってこい!こいつの口に詰め込んで会う奴会う奴に「うっ…こいつニンニク食ったのかよ…」って思わせたれ!」

「うわー…陰湿な嫌がらせ…」

「そもそも私がこの空にしてる訳ではない、だから私にはどうしようもない…強いていえば時間ともに止まるとは聞いたが」

「それは何時だよ」

「知らん」

「こいつ!!!!!!!!!!!!」

「あー!まて落ち着けリサ落ち着くんじゃ!!!」

「………………」

「…どうしましたか?」

「…いや…」


ドタバタと騒ぎ始める中でダガリオはふと…顎に手を当て考え始めそれに気づいたアミーラが尋ねるとダガリオは外を見る。


「……何かが引っかかる」

「…?何かとは」

「それは…僕にも分からない…」


一瞬無意識に何かに気づいたような気がしたダガリオだったがまるで目覚めた後に何の夢を見ていたのか思い出すかのように手を伸ばしても空を切るかのような…そんな感覚だった、自分でも分からない何かを思い出そうとダガリオは外を眺める…










木々の向こうに『武者』が現れる。









「「「「…!?」」」」


その瞬間全員の背筋が凍るような悪寒が走りまるで背後から見られてるような感覚、全員が一斉に立ち上がり武器を手に取る中でダガリオは視界の先に見える武者だけを見ておりそれに気づいたキュウソはその視線を追いかけそれに気づく。


「馬鹿な…何故ここが」

「おいおい、つけられてたんじゃねぇのか…?」

「そんなはずはない…だが…奴はそこにいる…!」

「どうするのよ…こっち来てるけど!?」

「に、逃げますか!?」

「…この場所を見つけられたというのなら逃げたところで追いかけてくる可能性は高いの」

「………えぇ……ならば…」


木々の向こうからゆっくりと迫ってきている落ち武者、ダガリオはロングソードをゆっくりと抜き…落ち武者へとその剣先を向ける。


「ここで奴を倒すしかない!」

「……アユムくんに助けられた恩がある、仕方ない…死なない程度には手を貸そう」


どうやって隠れ場を見つけたのか、分からないが何処へ逃げても追いかけてくるならばここで決着を付けるしかない…ダガリオの声に全員が覚悟を決め武器を手に取り雨が降る中で外へと飛び出して行く。

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