327話『一時休戦』
王都で現れた化け物の集団に囲まれたかと思ったら更にヤバそうな化け物が蹂躙を始めました、と言葉に表しても何を言っているのかと思われてしまうだろうが今正にそれが行われているためアユムは積み上がっていく化け物の死骸を見てキュウソを見る。
「キュウソ、お互いあれとは関わりがないと思うんだがその認識は間違いないか?」
「私もそちらもあれに襲われたのを考えれば今更疑う事もないだろう」
「……一時休戦しないか?少なくとも『あれ』を何とかするまでは」
そう言って指先を向けた先では化け物の大半を始末し終えている落ち武者がおり化け物の体液と雨水でドロドロになっている、明らかに化け物達よりも危険でありキュウソと戦っている暇は無さそうに思える。
「…あれが何なのかは分からないが野放しにしておくのは危険だ、だが私はそちらのドワーフ達と君達の住む町へちょっかいをかけている訳だが?」
「やっぱ町の方もお前が犯人かよ…ロックさん」
「…今は敵の手も借りたい、この奇妙な異形の者共とキュウソ…お主を纏めて相手にするのは無理だろう…共通の認識ならばあれを野放しに出来ないのはこちらもじゃ」
「ならば…今は手を取り合おう、さてひとまずどうするか」
「何が理由で現れたかは分からないが放置し自由にさせておけば未開拓地の調査が出来なくなる、可能ならここで討伐しておきたいが…」
「…討伐ねぇ…勝てると思うか?ダガリオ」
「難しいだろう、先の戦いで消耗しているのを考えれば撤退するのが今出来る最善の手だ」
ロック達を監視していた事、そしてキュウソはエレファムルの定期的なモンスターの襲撃に関わっている事が確定したがとりあえず三つ巴の戦いは回避する事が出来た…もう一度落ち武者の方を見ると片手で数倍の体格の差がある化け物を振り回しているのを見てキュウソとの戦いで体力が消耗している今倒すのは難しいだろう。
「…俺が合図を出したらロックさん達を先頭に皆逃げてくれ」
「アユムはどーすんだよ」
「俺は皆が逃げ切れるまであいつが来ないか見て逃げれそうなら俺も逃げる、逃げれなさそうなら…皆が逃げれるまで戦う」
「僕も残るか?」
「俺1人の方が逃げやすい、それに逃げた先に化け物が現れるかもしれないからダガリオやリサはむしろこっちに居ない方がいい」
「せ、せめて治療と加護はさせて下さい!」
「ありがとう」
まだ化け物と落ち武者は戦っているが倒すのに時間がかかったアユム達とは違い異常なまでの怪力で一瞬で化け物を倒している、話してる時間も惜しくサヨの治療を受けながらアユムは仲間達へ逃げるよう促す…こういった場面には慣れているのかロック達上級冒険者達は言葉を交わさずとも逃げる準備を終わらせており流石はベテランと言うべきか。
「…よし!行け!」
「こっちじゃ!」
まだ化け物は残っているがもう僅か、いつ落ち武者の矛先がこちら側に向くか分からないためアユムは治療が終わったと同時に合図を出すとロックを先頭に落ち武者とは反対側へと向け走り出す。
行先は馬と荷車が置かれている場所であり開けたこの場所から木々が生い茂る森の中に入る…そこがアユムの撤退ポイントだろう。
「頼む〜…出来るなら戦いたくはない」
『私がついてるから大丈夫!安心して!』
「頼りにしてるぞヒスイ…あいつから嫌な予感しかしないからな…」
「ふむ、精霊の類か?それは」
「『ッ!?!?!?!』」
あくまでも仲間達が逃げるまでの保険、あの落ち武者からは絶対に戦ってはいけないような嫌な予感がしていたアユムは実体化したヒスイに励まされていると…隣から声が聞こえ2人は驚いて横を向くとそこにはなんとキュウソが立っており不思議そうな目をヒスイに向けていた。
「バッ…お前何でここにいるんだよ!?」
「ん?逃げろとも言われなかったからな」
『いやさっきの流れだったら貴方も一緒に逃げる流れじゃん!』
「先程まで命のやり取りをしていたのに急に共に逃げるのはどうかと思うぞ」
「いやそれはそうだけど…そうなんだけども!」
「それに、あれがどれ程のものか興味もある」
「こ、こいつ…」
「危なくなったら逃げれば良いしな」
「ぐぎぎぎぎ…」
『ま、まぁまぁ…』
「それに」
「…?」
ウキウキなキュウソにアユムは頭を抱える、戦闘狂ではないとは思っていたがどうも興味を持ったら気になって仕方ないタイプのようである…どうしたものかと考えているとキュウソはアユムの顎を掴み持ち上げ無理やり目を合わせられる。
「君にもしもの事があれば目覚めが悪い」
「…あの触り方気持ち悪いんですけど」
「っとすまない」
「……………」
『きゃー!顎クイきたー!』
「(…これされる側は急にされると首痛めない…?)」
「……さて、どうやら終わったようだが」
「…あっという間だったな」
無駄に顔が整っているのもあってかキュウソの動作は様になってる、こういうのは第三者目線からの方が良いのだろうなと思いながらアユムは落ち武者の方を見ると…そこには化け物だった死骸が転がっておりその中心には落ち武者が佇んでいた。
振り向くと仲間達が森の中へ入るまでまだ距離がある、残った理由を果たすのであれば…薙刀を強く握りアユムは落ち武者の方へと向ける。
「…言っとくが逃げるとなったらお前置いてでも逃げるから」
「それで良い、もっともここで奴を倒してもいいが…な!」
逃げるまでの時間を稼ぎ仲間を安全に逃がす、その為に落ち武者へと向かおうとしたアユムの横を颯爽とキュウソが追い抜いていく…吸血鬼と人間でのそもそもの身体能力の差が…
「…?」
『?どうしたの?』
「………『体が軽い』」
『え?』
「……おかしい、そんな…まさか…」
向かっていたアユムだったが突然立ち止まって自身の手を見つめる…今の自身の身に起きている状況、それを言葉で表すならば『身体能力が上がっている』である。
一体いつから?キュウソと巨木があるこの場で戦う前までは至って普通であったがキュウソに追い抜かれた瞬間、戦っていた時よりも体が軽く目でキュウソを追えた事に気づいたのだった。
「いつからだ…まさか近くに…」
思い返せば頭痛がしていた事を思い出しアユムはある事に気づく、頭痛が起きて身体能力が上がるこの現象は近くに『異物』があるという事を。
異物は前文明の何かであり破壊神ダジの使徒であるアユムは破壊する為に『消滅』というスキルと異物が近くにあると使徒本来の身体能力と近くにある事が頭痛という形で分かるようになっている…今現状全てが当てはまり、そしてタイミングと記憶を頼りに思い返しある仮定が浮かび上がる。
「…ヒスイ」
『どうしたのって!もうキュウソ戦い始めてるよ!』
そう言われ見るとキュウソは両手に血のサーベルを持ち落ち武者へと向けて攻撃を仕掛けていた、落ち武者は右手に持つボロボロの日本刀でサーベルを受け止め…軽く右手を動かすような動作でキュウソはサーベルごと吹き飛ばされ地面を転がり体勢を立て直す。
「なんて力だ…私が力負けするとは…面白い…!『深紅の喝采』!」
自身が吹き飛ばされた事に驚きつつもキュウソはニヤリと笑い血の翼を広げながら落ち武者へと向かっていく、その際に翼の膜が淡く輝き血の弾丸が落ち武者へと向けて飛ばされる。
落ち武者は飛んでくる血の弾丸…実際は血の塊を見てその左手を上げる、すると左手から顔と全身を覆っている黒いモヤが溢れ出てきて血の弾丸は黒いモヤに当たった瞬間…まるで霧のようにモヤの中へ消えていく。
「ならば…これならどうだ?」
落ち武者の正面まで接近したキュウソは翼を大きく羽ばたかせて上空へと飛び上がり頭上を超えて落ち武者の背後へと着地する、そして振り向くと同時に両手のサーベルを振るうが…落ち武者も振り向きざまに左手でサーベルを掴みサーベルはまるでお菓子のようにボロボロに崩れていく。
キュウソは舌打ちをしつつも振り下ろされる日本刀を避け新たなサーベルを作り出し応戦する、それを見ていたアユムは痛む頭を抑えながら落ち武者を見る。
「……思った通りだ」
『…ねぇアユム大丈夫…?さっきから顔色が…』
「あいつがあのモヤを出した時も化け物が現れた時も…なんで気づかなかったんだ」
『…?』
「…化け物と…あの落ち武者…あいつらは…」
「あいつらは『異物』なんだ」
『…え?』
未だに激しい戦いを繰り広げているキュウソ達を見ながらもヒスイは困惑しているとアユムは歯を食いしばりながら落ち武者を見る。
「今までも何度も異物には遭遇してきた、だが…あれは…今までと何かが…まずい!」
『それってどういう…ちょっ!アユム!』
そう言いアユムはヒスイの静止を振り切りキュウソ達の元へと駆け出す。
異形な見た目から感じる力強さと武器と武器がぶつかる衝撃にキュウソは手の痺れを感じながらも内心どれ程なのか興味があった。
「(…妙な左手と私以上の怪力…それ以外は対した事はない)」
しかし落ち武者は異形な見た目と怪力、血の弾丸を吸い込んだ黒いモヤが漂う左手とそれだけであった…化け物を蹂躙したのは確かな脅威ではあるがかと言って自身には倒せないような敵にも思えずにいた。
生物の類かアンデッドの類か…蹂躙された化け物同様に謎は多いが野放しにする程でもなくキュウソは人間達を逃がす必要も無かったと感じていた。
「…やはり生を受けたものではないか、隙だらけだな!」
どんなに力が強くても謎の力が使えようとも落ち武者に生き物特有の警戒心のようなものを感じずキュウソには斬撃を叩き込む隙が見えていた、横斬りをしゃがむ事で避け暴風のような風切り音を頭上にキュウソは下から切り上げるように落ち武者の体をサーベルで切り裂いた。
「『━━━━━━━━━━━━━━━━━━』」
「な…」
落ち武者の鎧をも切り裂いたキュウソのサーベルはそのまま肩まで切り上げた、そして…傷口から黒い霧が溢れ出し悲鳴のような音が響き渡る。
一瞬何が起きたのか分からずキュウソは脳内にこだまする音に足が止まってしまう、すると落ち武者の傷口から溢れ出した霧がまるで無数の人の手のような形になりキュウソへと伸びてくる…まるで救いを求めるようにこちらへと引き込もうとするように老若男女様々な手が。
「キュウソ!」
「ぐっ…!」
その瞬間、突然強い衝撃と共にキュウソの体は横へと押され倒れてしまう…何が起きたのか顔を向けるとそこにはアユムが手を伸ばし突き飛ばした姿勢で霧の手に包まれていた。
一瞬すぐに遠ざかろうと足に力を入れるがその目から光が消えアユムは勢いのままキュウソの上へ覆い被さるように倒れ込む。
「くっ…!アユムくん!」
すぐに霧の手から逃れるようにアユムと薙刀を掴み落ち武者から離れたキュウソはアユムの顔を見るが…目は虚ろで息はしてるが意識は無くなっていた。
「………『常血闊歩』」
アユムが生きている事を確認したキュウソは落ち武者がまだ動いてないのを確認し翼で自身を包み込み…真下に血溜まりが現れその中へキュウソ達は消えていく。
その場には落ち武者だけが残され傷口から溢れ出した黒い霧は落ち武者を包み…
「『窶ヲ隱ー縺区ョコ縺励※縺上l』」
何かを呟き落ち武者はゆっくりと雨の中歩き始める…
…者共は見ている…




