31話『おポンコツ』
厳しい目線が突き刺さる程向けられ縮こまるアユムはどうしたものかと頭を悩ませた。
「で、改めてこの方は?」
「知らない人です…」
「そんなにくっついてるのにですか?」
「離れないんです…」
アミーラは正座するアユムの袖を全力で握っているリサを見る。
「貴方はどちら様でしょうか」
「サヨです!」
「初めましてサヨさん、アミーラと申します…アユムから離れてもらっても?」
「嫌です!トミタニアユムさんから絶対離れたくないです!」
「散歩と提案しましたがお持ち帰りしろとは言ってないですが?」
「勘違いです!」
あの後全力で逃げようとしたがアユムの袖を掴まえ離れなくなったサヨをどうにかしようとするが、体がボロボロなアユムには少女すら引き離す力も無く家の前で騒いでるとアミーラに見つかり騒ぎに人が集まり今に至る。
「てかサヨさん俺を監視するとか言ってたけど何でだ?俺何も悪い事してないけど」
「言えません、言うなと言われているので」
「…なら監視の事も含めて俺の前に現れない方が良かったんじゃ…?」
「…あ…」
かなりおバカかもしれない。
サヨと話していると階段から降りてくる音が聞こえリサが降りてくる。
「アミーラー、腹減ったー」
「今日の当番リサさんなんですが…」
「ん?誰だこいつ」
「サヨです!」
「アユムが連れてきた女性です」
「マジかよアユム…流石に子供はやめとけよ…」
「違う」
誤解を助長しようとしているアミーラ、若干遊んでる可能性があるがアユムはこの戦いを諦め無我の境地に達していた。
そしてそれと同時にアユムはリサが来て安心していた…少しでもこの場に仲間がいる方がいいから。
「それで誰から監視するように言われたんだ」
「えぇ~っと…」
理由や目的は分からないがひとつの可能性、裏切りの神による接触である。
このポンコツ具合で違う可能性があるが油断させる演技の場合もありえる、仮説として異物を破壊するアユムの行動を把握して他の使徒もろとも始末する…という考え過ぎだが可能性がある。
神達はこの世界に直接干渉できない、使徒や信者を通じなければならない…そして異物を破壊できるのは使徒だけである。
それらを鑑みて今の状況は好都合である。
「まぁ言えないなら別にいいけど、俺達明日は依頼受けて町の外行くんだがどうするんだ?」
「そういやそうだな、私らはギルドカードあるけど」
「ぁう…それは…」
この町の周囲はまだ未開拓地が多い、危険なため商人も一般人も開拓者か冒険者の同行無しでは外には出れない。
「うぅ…どうしよう…けど言われた事は守んなきゃだし…」
「町で待ってれば戻っては来るよ、4日かかったりするけど」
「それじゃ駄目です!」
「けど司祭候補生と言えど俺達について来るにはねぇ」
「わ、分かりました!私もギルドに登録します!」
「は?いやお前…」
「リサちょっと」
何か言おうとするリサを抑えそのまま二人で少し離れた場所に移動する。
「なんで監視するか分からんが泳がせたい」
「なんでそんな面倒な事すんだよ、殴ってでも聞き出せ」
「流石にそれはちょっと…とにかく問題なさそうならそれでいいんだ」
「しょうがねぇな…」
何かするなら人目が少ない町の外にいる時だろう、警戒しておけば本性を現すかもしれない。
そして何より気になるのはアユムのフルネームを知っていることである、この世界でアユムのフルネームを知っているのは少ない。
聞くわけにもいかず疑いの目を向けざるおえない。
「それじゃあ明日ギルドにっていう事で帰りな」
「?」
「ん?」
もう外は夜である、帰らせて明日の準備をしようと玄関へ向かうよう促すが疑問の顔を向けられる。
「いやもう夜だし…」
「私はとんでもない失敗をしてしまいました…だからもう失敗はしません!監視を続けます!」
「帰れ~~~!!!!」
──────────
早朝から昼になる間くらいの時間になりギルド職員ポメはあくびをしながら書類を纏める、この時間になると依頼を受けに来る冒険者と開拓者はかなり少ない暇な時間である。
だがここ最近は依頼を受けにやって来る者が増えていた。
「すまない、依頼を受けたい」
「ダガリオさんお疲れ様ですー!今日受けられるのはこんなのもありますよ~」
「町の近辺にうろつくゴーレム退治…数は6体、多いな…」
「んー、ダガリオさんもそろそろ下級Aも近いですしこのくらいを達成できればって感じですね」
「僕にはまだ荷が重い…他を…」
他の依頼を頼もうとしていると、酒場入り口が勢いよく開かれ騒ぎながら何人か入ってくる。
「リサお前夜更かし禁止だからな…」
「いいだろぉ…休みなんだし…」
「もう仕事の日だよ寝ぼけんな!あとアミーラ袖引っ張らないで!」
「監視しなければなので」
「サヨも監視します!」
「両方で引っ張らないで」
寝ぼけながらアユムにおんぶしてもらっているリサにアユムの両側に立ち袖を引っ張ているアミーラとサヨが居た。
当のアユムは目の下にクマができており眠そうである。
「なかなか羨ましいなアユム、美女達に囲まれる気持ちはどうだ?」
「妄想は妄想に留めるべきだと思ったよ」
ギルドに来たのもあり女性陣はアユムから離れギルド職員のところに直行する。
ひとまずアミーラ達とギルド職員との会話の邪魔にならないようダガリオは離れアユムの近くへ来る。
「ところで聞きたいんだが、何故サヨがいるんだ?昨日からいないと聞いていたが…」
「色々あってな…」
アユムはダガリオの今までの経緯を話す、突然の監視宣言と借家に居座りだし泊めた事…アユムは警戒して一睡も出来なかった事。
「…サヨは悪い子ではないぞ」
「分かってるけど監視の理由と誰からが教えてくれないから警戒するしかないんだよ…」
「そうか…」
「なぁダガリオ、お願いがあるんだけど一緒に依頼受けてくれない?」
「…丁度僕も他の手を借りたい所だったんだ」
今のアユムのパーティに足りないタンクをしてくれるダガリオとまた一時的にパーティを組むことにしギルドカードを手に戻ってくるサヨ達と合流する。
──────────
「これも必要ですね」
「必要かぁ?」
「必要ですよ!ご飯は沢山あればあるほどまるです!」
ゴーレム退治の依頼を受け移動と探す時間もあり昼は回ることが確定している為食料を買いに来たアユム達は商人の屋台が多くある場所にやって来ていた。
「…長いな」
「女性の買い物はどの種族でも長いとされる、このくらいは耐えるのが男だ」
「男とか女とかで分けるの良くないと思いまーす」
「ん、そうか…確かにそうだな…すまない」
「いやその…ごめん…」
何故か謝りながらアユムは空を眺める、1人増えたからかあれもこれもと買い物はアミーラ達が行いアユム達は荷物持ちをしていた。
「こんな買う必要ある?」
「備えあれば不足はないだろうが…」
もう両手に抱えきれない程買っておりフライパンなども新しく買い始める始末である。
「ん?なんかダガリオ装備変わった?」
「あぁ、武器を新調した…アユムも不思議な長物にしたんだな」
「槍ではないけど同じようなもんだよ、俺が握ると少し冷たくなる」
「魔法武器か、よく手に入ったな」
「俺らも色々あってね~」
暇つぶしの為にダガリオと別れた後の事を話す、アユムが使徒であることはモルに言われた通り誰これ構わず言えないので省く。
「カンミールにミルマ、そしてモルか…凄いパーティに同行出来たな」
「そんな有名なの?」
「今のエレファムルで一番上級に近いとされるパーティだ」
「へー…」
「僕も同行は無理でも手合わせさせてもらいたいくらい凄い人達ってことだ」
「今度会えたら紹介しよっか?」
「いいのか?」
「会えたらな」
あれからカンミール達とアユムは会えていない、そもそもが中級Aの実力者達である。
アユム程暇ではないのだろう。
「しかし…ん?」
「どうした?」
雑談を続けようとしていたが視界の端に何かが映り、目を向ける。
深くマントを頭まで被った謎の二人組がおり何かを見ていた。
その視線の先にはアミーラ達が買い物していてアミーラ達は気づいていない、そしてそのまま二人組は人混みに紛れるように歩き始め姿が見えなくなる。
「いや、今なんかマント頭まで被った二人がアミーラ達を見ててな…」
「ふむ…多分他の司祭候補生じゃないか?」
「他の?」
「あぁサヨの他に二人司祭候補生がエレファムルに来ていてな、確かマントを身に着けていた」
「よく知ってるな」
「炊き出しはサヨ達がやっていてそれの手伝いに行っている時に何度か見ているからな」
帰らなかったサヨを心配して探しており見つけたから安心して帰ったのだろうか。
「(それなら心配したとか話しかけに行けばいいのに)」
少し疑問に思いながら考えていると買い物をしていたアミーラ達がこちらに向かってきていたが何故か手ぶらだった。
「あれ?買わなかったのか?」
「あそこの店粗悪品売ってやがったんだよ、しかもこっちが見て分かんねぇように」
「騙そうとしてましたからさっさと戻ってきました、買い物も十分ですし」
「今は外からの商人や怪しいのも増えてきているから仕方ない、そろそろ出発しよう」
買い物を済ませ、アユム達はゴーレムが徘徊している西方面に向かい依頼を開始する。




