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文明開拓のすゝめ  作者: パル
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3話『破壊の神』

アユムは戦った経験なんてない、争いがない日本に生まれ多少の喧嘩はあっても命の危険がある事は1度も無かった。


「(胃が痛てぇ…画面の中にいるドラゴンなら何度も対面してるが本物を前に何ができる…?)」


背後にいるアミーラを見る、破損して戦えない彼女を巻き込ませる訳にはいかない。

ならまずやることは


「アミーラ!下がってろ!」


少しでも狙いがこちらに向くように時計回りに移動してスキルを発動させる。


「くらえ!『消滅!』」


観察するように立って見ているドラゴンに向けスキルを発動させる、スキルを叫んだ次の瞬間ドラゴンはグラッと右前に倒れかけたが羽ばたき空中に飛ぶ…その右前脚は足首から先が無くなっており『消滅』したのがよく分かる。


「よしっ!効く!効くぞ!」


消滅した箇所からドバドバと血が溢れるがドラゴンは気にする様子はない、目だけはアユムを見ている。


「バケモンかよ…!」


ドラゴンは空中に留まりながらじっとこちらを見ていると思ったら体を傾け一気にこちらに滑空してくる。


「やべっ!」


突進してくるドラゴンから逃げるように走り回るアユムは陸上選手以上の身体能力と体力があり助かったと心底感謝した、ドラゴン相手に通常のアユムでは早々に負けていたのだから。

それでもアユム以上の速度で近づいてくるドラゴンは地面にぶつかる瞬間に尻尾を地面の土を抉るように叩きつけ土や石を飛ばしてくる。


「し、『消滅!』」


高速で飛んでくる石にぶつかったら骨が粉々になる、本能的に体を動かしスキルを全面に広げるイメージで使い飛んでくる土や石を消す。

範囲内の土煙も一緒に消えたがそれ以外は消えておらず視界が遮られドラゴンの姿を見失ってしまった。


「『消滅!』『消滅!』『消滅!』」


あのドラゴンの姿が見えなくなるのは恐怖でしかなかった、必死にスキルを使い視界を確保する。






土煙が無くなった向こう側には、こちらを向き口を開いているドラゴンがいた。






ドラゴンと目が合った一瞬の間が長く感じ…その口から漆黒の炎が放たれこちらに迫ってきていた、その炎は地面を焦がしながら真っ直ぐ向かってきている。


「しょ…『消滅!』」


1回、スキルを使い漆黒の炎を1部削る…が、勢いは衰える事はなく距離が一気に縮まる。


「『消滅!』『消滅!』『消滅!』『消滅!』『消滅!』『消滅!』『消滅!』『消滅!!!!!!』」


死ぬ気でスキルを発動させる、少しでも気を抜くと炎に焼かれ死ぬのは目に見えていからだ。

短時間で連続でスキルを使ったせいで疲労がドッとのしかかってくる。


「はぁ…はぁ…はぁ…け、消せた…」


飛んでくる炎は消した、早急にドラゴンを倒さなければあれが…炎が放たれる。

ドラゴンを見ると炎を飛ばしてきた所と同じ場所に留まっており、じっとこちらを見ていた…それに恐怖を感じたアユムは指を向ける…目標は頭部、頭さえ無くなればどんな生物だろうと動かなくなるはず。


「くたばれ!『消滅!』」


イメージは指先からレーザーのように、大きさはドラゴンの頭が丸ごと消せるくらい。

見えない消滅の攻撃はドラゴンの頭を消滅させる。

…そうなる筈だった。


「…ぇ…なんで…」


ゆっくりと首を動かすドラゴン、その先には頭がしっかりと付いており感情も感じない目でこちらを見ていた。

…そう、ドラゴンは『避けた』…見えない消滅の攻撃を。


「…ッ!」


即座に指をドラゴンの胴体に向ける、するとドラゴンは口を開けブレスを吐き出す。

地面に炸裂し漆黒の炎と黒煙が一瞬ドラゴンの体を隠してしまいスキルを使うのを躊躇してしまった。

また避けられると思って。


この行動が意味する事、それはドラゴンはスキルの対処法を『把握した』

そういう事になる。


「ずっと…観察してたのかよ…」


攻撃はしてきたものの、どこか観察してる雰囲気があったドラゴンだったがスキルの対処法を考えていたらしい。

その結果としてはもうアユムのスキル『消滅』は使い物にならなくなったという事だ。

そしてドラゴンは唖然とするアユムを見てかゆっくりと

『前足を1歩前に出す』


「っ!?…あ、足が…治ってる…?」


消滅させた右前脚、消えたはずのその足は元からあったかのようにあり巨大の体を動かす。

ドラゴンの消滅させた足が元通りになっていた、それは再生能力がある…という事実がアユムに叩きつけられる。

近づけばゴリ押しでスキルを使いまくり万が一があったかもしれないが、それも無意味だという事実が。


「ひっ……」


呆然とする頭がようやく回り始めたのはドラゴンが3m程の距離まで近づいてきた所でだった。

目の前のドラゴンはもう戦う事すらないアユムを見下すように見ている。

その目はあまりにも冷たい、そして生きる気力すらアユムから奪っていく。


「………夢か…そうだ、これは夢なんだ」


寸前まで迫ってる事実に脳が理解を拒む。


「目が覚めたらベンチで起きて…家に帰ったら母さんが結果聞きに来て…散々な結果だって言ったら呆れて…父さんは笑って…」


脳裏に流れる架空の映像、ドラゴンは前足を上げ鋭い爪をアユムに狙いを定める。


「兄貴が帰ってきて…暫くはバイトだなってニヤニヤしてきて…喧嘩になって…また次頑張れって…」


頬に流れる涙が地面に落ちる。

目の前でゆっくりとドラゴンの鋭い爪が迫ってくるのを眺め…ふと思い残した事がある事に気づく。


「アミーラ…だけは見逃してくれないかな…」


笑わない機械人形…アミーラ、会って半日も経ってない関係だがアユムは何故かアミーラに親近感があった。

何故だろうか?


「……」


そしてゆっくりに感じていた鉤爪は目の前まで迫っていた。


――――――――――――――――――――――――




広い空間、そしてその場には3つの影があった。

1つ目はドラゴン…この空間を住処にしている存在。

2つ目はアユム…全てを諦めて座り込んでいる。

そして最後の影はそれを見守るアミーラだった。

アミーラはアユムの言う通りに下がって見ていた…が、動くなとは言われてはいない。


『…機械人形の使命に従い、私は』


ドラゴンがアユムに近づき右前脚の鉤爪を振り下ろそうとしている、アミーラの片目にはアユムの生存確率が1%以下だという結果が出ていた。

そしてアミーラは真っ直ぐにアユムの方に向かっていく。




――――――――――――――――――――――――


一瞬の浮遊感、そして何かがアユムの体を掴み耳を塞ぎたくなるような音が響き地面に落ちてぐるぐると回転する。

地面を滑って止まり掴んでいた何かから解放されたアユムは衝撃がした時に閉じてしまった目を開くと目の前には信じられない光景が広がっていた。


「…あ…アミーラ…?」


散らばっている部品が多くあり強い力で変形したのもあった、だが今はそれよりも視界に入る存在…背中に大きな…傷が斜めにあるアミーラがうつ伏せで倒れていた。


「…アミーラ…」


痛む脇腹を庇いながら這いずってアミーラに近づく。ドラゴンは離れた場所に飛んで行ったアユム達を見ながらゆっくりと近づいてくる…とどめを刺そうとしてるのだろう。


『…マスターの安否…認、損傷多数…復帰不可……機能…止………ター、おやすみ…さい…』

「アミーラ!…アミーラ…」


動かなくなってしまった機械…アミーラを抱えアユムはふつふつと感情が湧き上がる。

何故彼女が殺されなきゃいけないのか、脳裏に過ぎる嫌な記憶。


また助けられない


「クソっ…くそったれ…」


腕を上げ指をドラゴンに向ける。

狙いを定めるが指先が震えスキルを使っても当たらないだろう。


「神様が居るなら…俺の命なんてどうでもいいから…アミーラを助けてくれよ…」


生きる意味があるか分からない自分より、こんな自分を守ってくれた彼女の方が生きてる方が…

ドラゴンは腕を上げたアユムに警戒するが何もして来ないのを見ると、今度は口を開きこちらに向けてくる。

何か拘りがあったのだろう鉤爪より確実な方を選んだようだ。

ブレスが放たれ目の前まで迫ってくる。

せめての思いでアミーラの体を自分の体で覆う、いつか誰かが来てアミーラを直してくれるという希望的観測に託して。






だがいくら待っても熱波どころか炎すらこない。

不思議に思い頭を上げると…奇妙な手のひらサイズの輝く球体が浮いていた。


『やっと見つけたぞ、まったく…まさかここに飛ばされてるとは』

「……………」

『何者かが干渉してきたのだろうが、まぁ今はどうでもいい』

「……………」

『ん?どうした冨谷歩、死にかけてたとは言えそんな事ではこの先が不安だぞ』


ふわふわと浮かぶ謎の存在。

1度頭の整理をしてアユムは言葉を選んでひねり出す。


「あ、あの…誰ですか…?あなたは」

『わしか?』


何故そんな事を聞く?と、言わんばかりの声だが少したってから光の球体はアユムの前までやってくる。


『我が名は『ダジ』、全てを破壊し無に戻す破壊神なり』


そう言って光の球体…ダジは輝きを増していく。

その神々しさを示すように。

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