271話『漆黒の翼』
突然の横文字の連続に思わず言葉が出てしまいすぐに口を両手で塞ぐ、しかし聞こえてなかったのか耳に入らなかったのかセカンドは両目を閉じながら身振り手振りで話を続ける。
「しかし…いかに神と言えども若い芽を摘み取るというのは私のやり方には合わない、申し訳ないがここは1度引き下がってもらおうか」
「うん……うん?」
「ん?聞こえなかったのか?確か…開拓者のアユムだったか」
「あ、あぁ……こいつもしかして俺の事そんな知らない…?」
『いやでも、流石に耳に入るでしょ四魔獣討伐して王都何度も救った立役者だし…』
「それにしてはなんか…」
話によれば四家はアユムがいた時も居なかった時も王都から離れた場所にいた、なら知らなくてもおかしくは無いがそれでも彼女は貴族令嬢…王都に来た時に親や貴族間の情報共有で知ってもおかしくはない。
だが目の前にいるセカンドは演技なのか本当に知らないのかアユムを物珍しく見てくる、どうも嘘をつけるようには見えず…そしてふとパーティーでの彼女の事を思い出す。
「…ワンチャン情報共有されてない説」
『…そんな事ある…?』
「いやパーティーでボッチだったし…だけどそうなると身内内はどうなんって話になるんだけども」
「?さっきから何をブツブツ言ってるんだ?」
「あー、なんでもない気にしないでくれ」
「?そうか、まぁとにかく例えシャイニングジャッジの導きと言えどもここで争い君のような若い芽を…」
「なんか短くなってない…?」
『エレメント消えたね』
「開拓者というのがよく分からないがあの会場に居たという事はそこそこの立場であるんだろう?なら見逃してやろう、君にも帰るべき場所があるのだろう?」
「そんな某格ゲーの人みたいな…」
『うーん、あの子アユムが戦いに来たと思ったっぽい…?』
「なんでそうなったんだ…いや、まぁ今はそれはどうでもいいか」
どうもセカンドは何も知らない様子でやりづらさは感じるも…相手はこちらをよく知らない、なら意外にも好都合なのでは?
…そうアユムは考える、先入観無しの第一印象が全てのこの状況は逆に考えるとアユムにとって都合のいい結果にも最悪のパターンだが悪い結果にもなりえるチャンスでもありハイリスクでもある、もしここでの行動でいい結果を叩き出せれば全てが好都合に働く。
ならどうするか?しばらく黙り…アユムは来る途中で考えた作戦を実行する。
「…………ククッ」
「…?」
「クッハハハハハ!」
「…な、なんだ…」
「どうやら何やら勘違いをているぞセカンド」
「なんだと…?」
「私は君と争いに来た訳じゃない、むしろ交渉しに来たのだよ」
「交渉?フッ…何を今更、この場に来たからにはもはや話し合いは起こりえない…だろう?」
「いいや、違うぞ…お前は俺と交渉するのだ…必ずな!」
「何を馬鹿な事を…」
「ならばまずは俺の名を教えよう、そうすればお前は嫌でも俺の話を聞かざる負えない!」
「……ふ、ふふふ…いいだろう!申してみるがいい、貴様の真名を!」
ノリノリである、まずはセカンドと話を始めなければならず今のままだと追い返されるのが精一杯だ…ならどうするか?アユムは咄嗟にあるものを鞄の中から取り出しすぐさまそれを『纏う』
「俺の名は『漆黒の翼!』そう呼ばれている」
黒いマントを靡かせてアユムはそれっぽいポーズをとる…話を始めるきっかけ、それはセカンドと話を合わせる事だった。
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「し…漆黒…の……翼………!!!!」
「あぁ、俺はシャイニングでもジャッジでもない!黒く…そしてブラックなバード!」
『カラスじゃん』
「やめろ」
「な、なんという事だ…」
セカンドのファッション、パーティーでの立ち振る舞いそして今の会話…全てを纏めると見えてきたその姿。
それは彼女はいわゆる『中二病』なのだ、何となく封印されてそうな両手の包帯になんか自ら隠してる眼帯から漂うそっち方面の香り…そして今の反応でアユムは確信していた。
普通に話したら十中八九追い返されるのが関の山だがこうして話を合わせれば彼女は食いつく、何故ならこの世界意外にも中二心をくすぐらせる物は多いものの中二病な人はまだ見た事がない…つまり中二病の数は少ない。
健全な中学生なら1度は憧れたドラゴンキーホルダーやら黒魔術やらをアユムはしっかりと踏破しており、周りが大人になったから辞めざるおえなかったため彼女の気持ちがよく分かる…目の前に同じような人がいたら無視出来ない事を。
「漆黒…馬鹿な…そんな…」
「ククク…気が変わったかね」
「……何が目的だ、何故私の前に姿を現した漆黒の翼!」
『ブラックオブウィング』
「やめろ…それはお前が1番よく分かってる…筈だが?」
「な、なに…?………まさか…私が悩んでいる事をダークテレパシーで感じ取ったというのか…!」
「そ、そうだ」
「くっ…迂闊だった、まさか王城に漆黒の翼がいるなんて」
『すっごいなんか知ってる風だけど漆黒の翼』
「分からん、話を合わせてくれてるのかもしれない」
『優しい…』
話を合わせてるのかそれとも脳内で変換があったのか、とりあえずジャブを打つと相手が勝手にポロッてくれた。
とりあえずのジャブでかなり有益な情報を手に入れた、何か悩んでるらしい…これが足がかりになるかもしれない!そう考えると同時にかなり窮地に立たされている事に気づく。
「これ…言い当てないとまずいか」
『ダークテレパシーってやつに頷いちゃったからね〜、ここで悩んでること聞くのは厳しいんじゃなーい?』
「くぅ…!」
迂闊に頷いちゃったせいでどうにかして悩んでること当てないと空気が変な事になる可能性が生まれアユムは必死に頭を働かせる、悩んでること…思い当たる事を1つずつ思い浮かべてみる。
「(…中二病…ワイングラス…四家…子孫…封印…包帯と眼帯…ユリと百合百合……)」
『最後いらない思考混じってない?』
「(悩んでること…悩んでること………)」
名探偵でもじっちゃんが凄い訳でもないアユムだが言い当てれなくても取っ掛りさえ出来れば良い…ならば大雑把でかなり範囲は広いが50%くらい当たるくらいのを言うしかない。
「…セカンド、君は『魔法の事』で悩んでいる!」
「くっ……その通りだ!」
「その通りだった!」
「ん?」
「いや、なんでもない」
中二病なのと、あまり剣や武器を使うような筋肉の付き方をしてないのを考えてまず魔法という大きな括りから攻めようとしたらバチあたりして思わず大声を出してしまいすぐさま取り繕って誤魔化す。
「…その通りだ漆黒の…実の所…私は今悩んでいるんだ」
「そ、そうだろう…俺はその悩みを……えー…ブラックテレパシーで」
『ダークね』
「ダークテレパシーで感じ取ってここに来たのだ」
「そうだったのか…クッ…それを見抜けないとは私はまだまだか…」
「そう嘆くな、ブラックオブウィングの前では全ての闇は無意味」
『あ、それ採用するんだ』
「…交渉…と言ったな、私の悩みを見抜き一体君は…漆黒の!何が目的なんだ!」
ちょくちょくヒスイのツッコミが入るが今の状況はかなり良い流れになっている、アユムは敢えて1拍置いてセカンドを焦らしマントを靡かせる。
「お前のその悩みを解決しに来た!だがそれはお前の為じゃない!」
「な、なんだって!」
「きたる邪悪の根源にして悪の中の悪…!最悪の王…魔王の復活!その時に備えお前の力が必要なのだ!」
「私の…力が…!!?」
『…嘘は…言ってないか』
フルオープンだが嘘っぽく聞こえるのは喋り方のせいだろうか、実際のところ魔王復活に備えて四家を纏めたいのは嘘じゃない上に全部本当である…セカンドはアユムの言葉に一瞬クラっとなりどうにかバランスを保つ。
そして…
「私の力が必要…だというのだな」
「あぁ」
「ふふ…ふはははははは!漆黒の翼にそう言われたならばここに出会ったのも運命!了解した、逆にお願いしたい…私の悩みを…聞いて欲しい」
何やかんやあったがアユムは心の中でグッと拳を握ってガッツポーズをする、最大の難関にして第一関門を突破したのだ。
これを皮切りに四家をその子孫達を纏めていく、アユムはその為にまず目の前の少女セカンドの悩みを聞く。
書いてて頭おかしくなりそうでした。




