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文明開拓のすゝめ  作者: パル
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196話『夜に舞う雪』

父親の必死な声と何が起きているのか分からない恐怖からソーヤは何も出来ずただただマモの前で泣けないとグッと堪えていた。

怖くないと言えば噓である、ソーヤは何が起きてるのかも理解出来ておらずただただ周囲の動き一つ一つに怯えていた…そして父親が必死な顔で大きな声を出し自分達の前に来た時に何故か理解できてしまう。


父親は今から死ぬのだと。


縛られていてもいなくても吸血鬼の前では無力な人間、父親は軽々と横に退けられソーヤとマモの前にガルは立ちその指先を自身の爪で傷つけ2人の前に持っていく。

何をされるのか分からない、だがソーヤはマモを守るため自身の体を盾にし目を閉じる…せめて痛くないように…と。










しかしいつまで経っても何も起こらずソーヤはゆっくりと顔を上げると…そこには長い金髪をなびかせガルの手を掴む少女が1人…


「(おねえちゃん…?)」


雰囲気は違う、だがソーヤの視線に気づいたリサは苦しそうだがソーヤとマモに笑みを見せソーヤは目の前の少女がリサだと確信する。


「ば、馬鹿な…何故…クソ…!やはりまだ十分ではないのか…!」

「覚悟しやがれガル、地獄の縁から舞い戻ってやったぞ…!」


そしてガルの腕を掴んだまま軽々と振り回し遠くへ投げ飛ばしてしまう、ガルは宙を飛びどうにか着地するがその顔は驚愕に包まれている。


「…ファルさん、後は私に任せてくれ」

「……き、君は…」

「私は気にするな…多分私の仲間が…来てくれる筈だ、そしたらあんたらは助かる」


そう言いリサはホルダーから短剣を取り出しガルの方へ歩いていく、その背は何処か孤独で今にも消えてしまいそうな小さな背だがファルは止める事が出来ずソーヤは何も言えずただただ…その背をジッと見つめていた。



━━━━━━━━━━━━━



仲間が来る、そう言ったリサだが自身で言った事に苦笑する。


「よく言うぜ…あいつらがこの場所に気づくのはいつになるやら…」


記憶はガルに印を付けられてからが無い、その為リサはその後アユム達がどうなったか知らないがここに捕まってないのなら逃げれたのだろうと考え更に仲間が来るのは難しいと目を閉じる。


「…不思議だ、体はボロボロなのに上手く動かねぇってのに体の奥から底が見えねぇくらいの力が湧き上がってくる」


これが本来のリサの吸血鬼の体…になりかけている状態なのだと一歩歩く度に実感する、今リサの体は吸血鬼の血が人間の体を破壊して作り替えている最中である。

実感できる程の異変、これが吸血鬼の自分が言っていた早まるという事なのだと理解しリサは深呼吸しガルを睨む。


「くッ…しぶとい出来損ないが…我が血と魔具の力で純血にしてやるのを手伝ってやっているというのに恩知らずが」

「恩の押し付けはやめとけ、モテねぇぞ」

「ガル様!」

「最後の情けを無駄にしてくれる…お前達、仕方あるまい!この出来損ないを始末しろ!」


周囲にいた吸血鬼達が異変に気づき見張りを止め集まってくる、数は10人程度…あまりの差に笑いそうになるのを我慢してリサは短剣を構え指先で来いと挑発する。


「何してぇのか知らねぇがガル、気に食わねぇからその計画とやらぶち壊してやるよ!」


そう言いリサはガルへ向け駆け出すがやはりと言うべきか必然だが周囲の吸血鬼達が間に入り妨害してくる、ある者は素手で…ある者は剣を振るいリサへ武器を振るうがその一つ一つを見極め拳を避け剣を短剣で受け止め素手の吸血鬼に鋭い蹴りを食らわし剣を弾きながらその顎にアッパーを叩き込む。

これで体は満足に動かせてないと言っても誰も信じないだろう、それほどリサは大立ち回りをしておりそれを見てガルは拳を震わせる。


「どこまでも私の邪魔をすれば気が済むというんだ…!吸血鬼が安全に暮らせる場を作るという私の悲願を何故分からない!」

「なら皆の居場所を壊してもいいのか?なぁガル!お前だろ…皆を殺したのは!」


短時間で数人を下がらせたリサに吸血鬼達は攻めあぐねている中…歯をむき出しにして怒るガルに荒い息をしながらリサはあの日の事を口にする、謎の病で一夜とかからず人間達が全滅したあの原因は…

ガルは鼻で笑いポケットへ手を入れながらリサを睨む。


「あの頭の固い古い者共を動かすには現実を叩きつけるしかあるまい、まぁ私達も血を補給できない事態にはなるが…種の存続のため我々のため仕方ない事だ」

「チッ…何が我々だ、違うね…てめぇはハナから自分の事しか考えてねぇ!種とか我々って言い方で正当化してんじゃねぇぞこの大罪人が!」

「ならばあのままで良かったと?笑わせる、貴様は未来が見えていない…人間とは脆い…あの規模では200年300年と経たずに数が減り我々の供給は減り何が起こると思う?奪い合いだ」


まるで想像してしまったかのように眉をひそめガルは目を細める。


「あのままではいずれ滅ぶ、もっと多くの人間を必要とするのは遅かれ早かれ起きた事だ…それを私は早期実行しようとした訳だ」

「…だがてめぇのやり方は間違ってる」

「言っておけ、あの勇敢だったカルソンの娘とは分かり合えるとは思ってはいない…ところでカルソンはどうした?ま、今の貴様を見れば大体は想像できるが」

「…黙れ」

「あの男は魔道具と言う者を理解していない、正しく使わなければ使う筈が使われるというのに」


そう言いガルはポケットから懐中時計を取り出す、その針は夜の23時を指しているが傾きからそろそろ24時になるだろう。


「…リサ、私はこの町に理想郷を作りたい」

「あ…?」

「人間を効率よく管理した方法を作り吸血鬼の町を作る…素晴らしいとは思わないか」

「…何を突然…言い始めてんだてめぇ」


突然語り出すガルにリサは疑問を抱きつつも体から軋むような音が聞こえてくる、例えるならば体の限界…と言うものが近づいている証拠である。




『時間が無い…もう限界だよ』

「分かってる、ギリギリまでやらせてくれ」




自身の中の自分が限界を伝えてくる、だがここで諦める訳にはいかないと気を引き締めガルを睨む…ガルはそんなリサを露知らず話を続ける。


「…私はある方にこの魔道具を授かりある儀式を行っている」

「儀式だ…?」

「『混沌神ボルガニス』…聞いたことはあるか?」

「…知らねぇな」

「ふっ…まぁいい、私は今混沌神の力を借り種の限界の更に向こう側『覚醒』をする」

「…何が言いてぇ…急に語り出して降参でもすんのか?」


覚醒、聞き慣れない言葉にリサはある程度回復してきたのを確認し短剣を強く握る。

何をしたいのか言いたいのか分からないが今は目の前の事を…そう駆けだそうとした瞬間



「混沌神の力を使えば貴様の父、カルソンを生き返させれる事も可能だ」

「ッ!?」


ガルの言葉にリサは強く頭を殴られたかのような衝撃が走る。


「…む、無理だ!サヨだって五体満足でなくちゃ生き返させる事なんて…」

「その者が何者であろうとこの世に生を受ける者には限度があるが…相手は『神』だ、私達の想像の範疇を優に超えている」

「…………」


この世界で神の奇跡…というのはかなり認知されやすい、使徒と言う存在もありガルの言う事は嘘とは言えない。

父親が生き返る…その言葉に一番衝撃を受けていたのはリサ…ではなくもう1人の自分であった。




『父さん…が…』


そう呟く自分はかなり人間の自分に姿が似つつありかなり進行しているのだとよく分かる、そして今吸血鬼の自分が何を考えているのかも手に取るように痛い程分かっていた。


「……ごめんな…私……」






「…言いたいことは以上か?」

「何だ、カルソンはいいのか?」

「てめぇの事は『私』が一番良く分かってる、どうせ殺すつもりだろ」

「…さて、どうだか」

「ハッ笑わせんなガル…『私』はもう後ろを見ないッ!」


言い終わるのと同時にリサは前に飛び出す、ガルの首を取るため尚更止めるため…だがそんなリサの意思とは裏腹に突然心臓が鷲掴みにされるような痛むと意識が刈り取られるような感覚に襲われる。


「(くそ…まだ…だ…!動け体…!)」


進行がかなり進んでいる、一瞬の隙で体の力が抜け表に出てきた意識が少し引き戻されかけギリギリでどうにか保つ事に成功する…ここで戻る訳にはいかない為よくやったと褒められる案件と言えるだろう…タイミングが最悪なのを除いて。


「驚かせる…既に体が順応してきてるようだが死んでもらうぞ!」


一瞬向かってくるリサに驚いたガルだがもう体の人間部分が少なくなっている事が分かると口角を上げ腰の剣を抜きリサへ振り上げる。


「(クソが…)」


あと一歩、あと少し…大事な所で上手くいかない。






「アユム…」










目を閉じた瞬間、突然床をも揺らす揺れが発生する。


「な、なんだ…」


異常にガルは周囲を確認しこの建物が揺れているのだと分かった瞬間、目の前が真っ白に染まる。

それは建物の外側から下からせり上がるように勢いよく何かが吹き上がりゆっくりと全体に降り注ぐ、それは白く軽く触ると溶けてしまう…雪であった。


「…ば…馬鹿な…下には残り全てを配置していたはず…!何故…何故『ここに』いる!」





「大丈夫か、リサ」

「…おせぇ…よ…」

「すまんちょっと以外にも敵が多くて…色々考えて後々の事を考えるのをやめるまで時間かかった」

「馬鹿が…たくっ…」

『リサちゃーん!大丈夫?』

「大丈夫に見えるか…?」

『見えない…』

「てか操られてると思ってたけど…なんか事情が違うの?」

「細けぇ話は後でも出来るだろ?」

「…そうだな」


雪が舞い落ちる中…いつの間にかリサの腕を掴み倒れないようにしている男が1人、そしてガルを守ろうと動こうとした吸血鬼達の前にロングソードを床に突き立て仁王立ちする男と武器を構える女達。


「水を差すようなら相手をしよう」

「リサさんお待たせしました…後は私達に任せてください」



全身を白い甲冑で包んだその男は薙刀を手に先の戦いの時とは明らかに別人とも言える程に雰囲気が変化していた、まるでさっきまでは本気では無かったと言わんばかりに発せられるその威圧感にガルは息を飲む…



もう持久戦を考えなくてもいい、ヒスイの力によって氷の力を身に纏ったアユムと立ち直したリサは並ぶ。


「最後だ、覚悟しな」


薙刀の刃先をガルへ向けアユムは魔力を解放する。

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