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文明開拓のすゝめ  作者: パル
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194話『ミンチノス』

いつもより短めです、多分。


男は優雅に座っている、その様子から余裕を感じられアユム達を脅威とも思ってないようであった。

一瞬見えた牙からこの男も吸血鬼であるのは間違いない…がアユムはどうしても武器を振るう気にはなれなかった、それはわざわざ対話を提案して来たことに対する躊躇いとどことなく感じる『強者』の雰囲気が戦うという選択肢を排除していく。


「どうした、このまま何も出来ず終わるのか?」

「…アユム」

「あぁ…ここまで来たらもう蛇か鬼か…だ」


そう言いアユムは男の目の前、仲間達のいる方向に座りダガリオとアミーラがその左右に立つ…未だに寝ているヒストルを庇うようにスズランは傍に座りサヨはアユムの背後に立つ…そして男は全員が揃ったのを待ち両手を広げる。


「自己紹介から始めよう、私は…ミンチノスとでも名乗ろう」

「ミンチノス…俺はアユム、早速だが聞きたい…時間が無いってどういう事だ?」


この男はアユム達の知らない事を知っている、これは分かっている前提で時間が無いと急かすような事を言うミンチノスにアユムは率直に聞く…ミンチノスはアユム、ダガリオ、アミーラ、スズラン、ヒストルと見て興味深そうに顎に手を当てる。


「素晴らしい…まだ戦える余裕があるようだ…これが通常かもしくはこれらが特別か…」

「…?おい」

「あぁすまないすまない」


小さくブツブツと呟くミンチノスにアユムは声をかけると慌てる様子なく片手を振り謝る、アユムには何を言っていたのか聞こえなかったがその特に気にせずミンチノスの返答を待っているとミンチノスは腕を組む。


「本題から言わせてもらおう、このままでは君達はガル…もといカールにこの町から出れず負けるであろう」

「カール?」

「あの小僧の本名だ」

「…まぁいい、何を知ってる?が…ややこしいからガルのままでいいや、ガルは何をしようとしてる?」


知らない事が多い今、この男が知っているのなら聞かない手はない。

元よりそのつもりだったのかミンチノスは足を組みアユムを見る。


「『夜帝の従順』…これに聞き覚えは?」

「…さっきガルが出してた懐中時計か」

「そう、今より1000年前ある魔神が残したという魔具のひとつ夜帝の従順…その魔具は時を操り夜を支配し自身の配下に絶対的な忠誠を誓わせるという代物だ」

「夜になったのはあれの仕業か…じゃあ………あの獲物の印を付けた瞬間にリサは突然操られてるようになってたって事は…」

「あの印が忠誠を誓わせる条件と言う訳か?」

「かもしれない、ダガリオ…ソーヤ腕にもあるってリサが言ってたろ?もしかしたら」

「町の住人のほとんどは印がある可能性があるな…」

「厄介ですがファルさん達は操られているようには見えませんでした、もしかしたら常にと言う訳ではないのかもしれません」


魔道具、その存在は1000年前に作られたと言われるがアユムの考えが正しければそれは前文明の異物である。

得体の知れない道具だと対処のしようがない…が遺物なら対処法はある、その事にアユムは破壊を決意しつつアミーラの言葉にある希望を見出す。


「…もしかしたらリサを救えるかも」

「どういう事だアユム」

「ファルさん達が操られてなかったのがもし夜帝の従順が近くにないと効果が無いのなら、破壊するか離せればリサが支配から逃れられるかもしれない!」

「確証はないが…やる価値はあるな」

「はい、やらないよりかはいいでしょう…ミンチノスさんはどう思いますか?」


希望が見えアユムの目に光が戻りダガリオとアミーラは安堵しつつ、アミーラはミンチノスに話を振る。

話して放置されていたがアユム達の会話を何処か楽しそうに聞いていたミンチノスは話を振られ腕を解き拍手をする。


「実際はどうかは分からないが君達の考えが当たっている事を祈っているよ、だがそれをするにも場所が分からなければすぐいも試せないだろう?カールがいるのはこの町で一番高い建物の最上階だ」

「……ミンチノスさん」

「どうしたアユムくん」

「…もうこの際あんたが俺達を嵌めようとしてるとは思わないようにする…ただ…どうしてここまで俺達に教えてくれるんだ?あんたは…ガルの仲間じゃないのか?」


懐中時計の事、そしてガルの位置をも教えてくれるミンチノスにアユムは一体なんのつもりなのか?と聞く。

最初はアユム達を始末しに来たガルの刺客、次に考えたのはアユム達を罠に嵌めようと、そしてそれらを経てアユムはミンチノスが何を考えているのか分からなくなり何の為にアユム達にここまでするのか…そんなアユムの疑問を投げかけられミンチノスはマントに隠れた顔の奥から笑い声を出す。


「フフフ…私は確かに同族ではあるが…だからと言ってあの小僧の仲間とは一度も言ってはない、私はこの運命の玉がどっちに転がろうとどうでもいい」

「……」

「そんな事よりも私は言った、時間はない…と」


そう言った瞬間、突然全身が震え体が硬直する…頭が理解するまで時間がかかりアユムは今自分は『恐怖』しているのだと理解する。

それは不可解な事であり何故突然?と考えある事に気づき急いでアユムは窓に近づき外を見る。


「…月が動いてる」


扇状で月が並んでいた空…その月の端が頂点にある満月に向かって登っていた。

振り向くとダガリオ、スズラン、そして飛び起きたヒストルもアユムと同じように震えておりその中でミンチノスは立ち上がり僅かに震える手を抑えアユムを真っすぐと見る。



「さぁ行け、混沌が降りる前に」


息を整え、仲間達の目を見る。

ヒストルは起きたばかりで何が何なのか分かってないが他は頷く…アユムはミンチノスに頭を下げ薙刀を手に出口へ向かい仲間達もそれに続く。


夜が始まろうとしている。

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