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文明開拓のすゝめ  作者: パル
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178話『始まりの予感』

闇が包む町を一番高い建物の上で眺める1人の人影、見える街並みはいつもなら静けさがあるのだろうが今は悲鳴が響き渡る。

必死に抵抗する者から肉塊に成り果て抵抗できない者からどこかへと連れ去られていく、流れていく雲が月明りを遮り町中にぼんやりと見える複数の目…


「くくく…ハーッハッハッハ!」


それを見た人影は高笑いが止まらないのか笑い続けその鋭い爪で頬をかきむしり、肌が裂け血が流れるが気にする様子はなく歪んだ笑みを浮かべる。


「老人共の時代は終わりだ…これからは私達の時代だ…!」


高らかに宣言した瞬間、町全体から歓喜に包まれる。

歓喜を上げるのは両手に人を軽々と持ち上げる謎の男と女達、その一人一人が全身を血だらけにして狂気とも言える笑みを浮かべていた。




そんな者達を遠目に見ていた男が興味なさげにため息をつきグラスに注がれた赤い液体を回しながら月明りが差し込んだ瞬間、月にグラスを上げグラス越しに月を眺める。


「…さて、どう動く…人間」


グラスを傾け赤い液体を飲み干し男は暗闇に消えて行ってしまう、その口から見える鋭いキバを月の光に反射させながら。



──────────



ふと目覚めるとそこは白い空間、横になっていたアユムは上半身を起こし周囲を見るとごちゃごちゃしていた物が綺麗に整理整頓されており思わず感銘の声が漏れる。


「あんな散らかってたのに…!」

「馬鹿にしてるのか?」


感動していると何処からともなくク〇ックルワイパー

を使いこなしながら物陰からダジが現れる、いっちょ前にエプロンとゴム手袋をしてる所に何してんだメーターが上がったがアユムはひとまず近くにあった椅子に座る。


「おい仮にも主神の前で無礼だぞ」

「俺の神様が目の前で掃除してたら威厳もないっすよ」

「心が汚れた人間はこれだから」

「酷い…」


気が済んだのか手袋とエプロンをそこら辺に放り投げ近くにあった椅子に座りダジは偉そうに足を組む。


「で、なんの用ですか?」

「ほう?察しがよくてよろしい」

「まぁ俺からここに来ることがないので」

「…少しは来てもいいんだぞ」

「まぁまぁ」

「ちょっとなら話し相手になってやらんでもないぞ」

「まぁまぁ」

「……」

「霧吹きの地味な攻撃は止めてくださいダジ様」


軽く流していると霧吹きで攻撃してくる神にいつからこんな風になったのか考え…最初からこんな感じだったと思いながら霧吹き攻撃が終わるまで耐えていると満足したのか霧吹きを放り投げダジは咳をする。


「コホン、今回呼んだのはある事があってな」

「ある事?」

「あぁ、アユムはガバラマド教国は知っているな?」

「はぁ…一応は」

「そこのジリオに召集を受けた、アユムにはガバラマド教国に向かってもらう」

「え?ちょ、話が一気に進み過ぎです…招集?って?」

「そのままの意味だ…我々神の情報交換会と言えば分かりやすいか?」

「あ~」

「本来なら断るところだが…最近魔獣が復活し魔王の復活の話もある、知っておいて損は無い」

「なるほど、んで俺が行く理由は…?」

「使徒であるお前が行く必要がある、細かい事は説明が面倒だから教国に向かえば分かる」

「雑な…え?今からです?」

「いや…少し先だ、地球で言うところの4月だ」

「4月か…」


現在は地球で例えると3月頃、春も始まり暖かい季節になりつつある。

大体1ヵ月程度と考えれば案外そう遠くも無い話ですぐでもあるがそれと同時にある話を思い出す。


「丁度サヨの試験がある時期か…」

「ほう?」

「今サヨって俺の仲間が司祭候補生で…司祭のなる為の試験が4月なんですよ…まさか関係してないですよね」

「さぁな…だがジリオなら何かしら企んでいてもおかしくないだろう」

「うーん…」


仲間の大事な時期と被っている、偶然と言うには少し偶然とは思えないがここで言っても仕方ない。

逆にガバラマド教国に行ける口実にもなる上にサヨの応援にも行けて一石二鳥である。


「まぁ何かあっても何とかします」

「その心意気だアユム、これからも異物破壊を頑張る事だ」

「はい…ところでダジ様」

「なんだ?」

「掃除してましたけど汚れるんです?ここ」

「いや…ここは汚れが付く事はない、掃除は気分だ」

「えぇ…」


汚れ一つない白い空間を気分で掃除していた事を知り、雰囲気でやってんな~と少し信仰するのが難しい信仰しにくい神様である。



──────────



軽い依頼は数時間で終わる、開拓最前線エレファムルでの軽い依頼となると町中の依頼が多いが今日アユム達は町周辺の依頼を受けていた。

数時間程度で終わる依頼はもうアユム達が受けるようなものではないがある事情があった、それは…


「き、緊張しました…生き物の命を奪う行為は慣れるのに時間がかかりそうです…」

「慣れなくて構いません、命を簡単に奪えるようになれば私達はただの殺戮者です…心の中だけでも奪った命を思うのは大事ですよ」

「は、はいアミーラ様…」

「手際悪いしサヨと同じ後方で良いんじゃねぇか?」

「魔法が使えるのならそれがいいかもしれないな、スズランさんの方も剣捌きは素晴らしいものだった」

「…とーぜんです」


ロウハワード・ヒストル、ケッケイ・スズラン、2人がエレファムルに来て数日…彼女らが来た時はとんでもない騒ぎが起きたがなんやかんやありアユム達のパーティーに慣れつつある。

この町で唯一事情を知らされたセシリアとニックに多大な胃痛をくらわせたが2人の希望により晴れて冒険者下級Cになる事が出来た、1人は本人の希望で…1人は生きる為に。


「ヒストルさん!光魔法の事なんですが…」

「はい、あの時の事ですね?あれはですね…」


魔法を扱う2人、意見交換をしているのかサヨとヒストルはお互い楽しそうである。

ヒストルは冒険者になる際に出来る事として光魔法を扱えると言った、逆にスズランは剣術の扱う事ができその腰にはレイピアが装備されていた。

お互い貴族である事もありそれなりの遺伝と教育によるもので下級ながらかなりの力を有している、現在アユムのパーティーはダガリオを中心にアユムとリサが遊撃しアミーラの援護とサヨの回復で回っている…そこに二人が加わればやれる事が増え更に難しい依頼を受けれるだろう。

そう思いながらふと視線を感じそちらを向くとスズランと目が合う。


「…なに」

「あ…いやなんでも…」


新しい仲間が加わり完璧に思えるがある問題が浮上していた、それはアユムがヒストルとスズランとの接し方がイマイチ掴めずにいる事。

ヒストルに関しては守る対象だった王女から背中を預ける仲間になったという事もあり時間をかければ問題ないがスズランは難しい、アユムがケッケイ・シュールを殺害したと吹き込まれていたという話は聞いてアユムもスズランは悪くないと考えていたが本人が気にしているのかアユムにだけ少しよそよそしい。


「…また難しい事になったなアユム」

「助けてダガリオ…」

「僕を巻き込むな」

「こんの薄情者が…」


頼りにしていた仲間が近くに居ても冷たい対応に涙しつつヒストルを見る。


「そう言えばクリラスラ商会の新しい服見ましたか?今朝見たんですが凄かったです!」

「サヨ様もう見られたのですか…?!」

「暇か?」

「リサさん酷いです…!そ、それはその…」

「最近は服にも力を入れていると言っていましたから…でしたよねサヨ」

「はい!マミリさんが直々に設計に携わってるらしくて…」

「はー、そりゃご苦労様で」

「もうリサさん真面目に聞いてください!」

「私はそんな興味ねーよ…」

「ですがリサ様?何事もまずは外からと言いますよ、雰囲気から殿方の印象まで…」

「……あー、なんか気になって来たな」

「ね、そう思いますよねスズラン」

「わ…私?」

「そう言えばスズランさんの服、素敵でした!あれ何処で買ったんです?」

「お、王都で…ホァンの付き添いで…」

「やはり王都の方が品揃えが良いんですかね」

「王都には色々ありますよ!この前スズランとアユム様と表通りに行った際…」


と、話しているのを見てヒストルのさり気なくスズランを会話に混ぜる気づかいに感心する。

これなら気に掛ける必要がないと思っているとジト目で見てくるダガリオと実体化してるヒスイが目に入る。


「…んだよ」

「今君、何もしなくていいかと思ったろ」

「お前は心理学99か…」

『アユムが何もしないからヒストル達が頑張ってるのよ?いい加減スズランとちゃんんと話なさい』

「うーん…それはそうなんだけど…」

「…まぁ本当に困ったら言え、出来る範囲でサポートしよう」

「ダガリオ…」

『これで数ヶ月とか放置したら刺されるわよ』

「刺されるの!?」

『女心くらい分かりなさい』

「難しいな…恋愛マスターダガリオどう思う?」

「僕に話しかけるな」

「突き放されちゃった…」


ふざけすぎてダガリオに見捨てられながら歩いてギルドの中へ入る、今日は依頼達成を伝え終わり…そう思っていた。


「あ、アユムさーん」

「ん?どうしたポメ」

「セシリアさんから伝言です!すぐギルドマスター室に来るようにと!」

「…なんだ?」

「また…面倒事だろうなぁ…」


ダガリオの疑問に答えつつアユムは頭をかきながら1人ギルドマスター室へ向かう、潜む何かが目覚めようとしているのに気づかず…

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