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文明開拓のすゝめ  作者: パル
177/396

177話『三人で』

涙が枯れたか泣き止むヒストルが元の場所に戻りアユムはカルロスとヘレッタを見る。


「ここからは俺が介入するもんじゃないのでこれで、先程の無礼お許しください」

「許す、アユム…二度も救ってもらった事…忘れないであろう」

「…では」


部屋の扉まで向かい開け、そのまま部屋を後にする。

部屋を出た瞬間からいつの間にかヒスイが実体化しておりアユムの周囲を浮遊する。


『おつかれ』

「…緊張した」

『まぁ頑張ったんじゃない?王都に来てから色々と』

「だな………スズランさん大丈夫かな」

『まだ気にしてるの?確かに田舎でひっそりは可哀想だけど仕方ない事だし』

「…そーなんだけど……いや、この話はやめとくか」

『そうそう、ほらさっさと部屋に行く!荷物纏めておかないと明日バタバタで出る訳にはいかないでしょ?』

「はいはい」


王都に来て10日程度、長いようで短いがアユムは仲間達がいるエレファムルに戻る準備を始める。








アユムが出て行ったのを確認してヒストルは頬の涙を拭い目を擦る、そして頬を叩き真っすぐとカルロスとヘレッタを見る。


「…お父様、お母様」

「どうしたヒストル」

「…何か言いたいことがあるのね」


僅かに頷きヒストルは目を閉じる、せわしなく…だがどこかワクワクしていた自分。

部屋から出ない日々、窓の外から見える移り変わりのない景色…何の変哲もない良く言えば平和な悪く言えば退屈な毎日…だがそんな中にある光が差し込んでくる。

それは机を挟み楽しそうに話す姿、脳裏に浮かび上がる数々の冒険…世界の景色。


「…お願いがあります」


生まれて始めてヒストルは家族に、親に我儘を言った。



──────────



早朝の王都、荷物をまとめて歩くアユムは1人飛行船がある王城横の着陸場に向かっていた。

荷物はそこまで多くはなく身軽な状態で歩いていると道中腕を組んで壁に寄りかかっている人物が目に入る。


「あれ、ロニさん」

「もう行くのかいアユムくん」

「まぁ仕事も終わりましたし…ロニさんはなんでここに?」

「ん?あぁ…ははは…見送りだよ」

「…?そうですか」


いつも通りなのだがここにいる理由を聞くと少したじろぐ、少し変に感じたが気にせずにしているとロニは壁から離れアユムの前に来る。


「それにしてもアユムくんがいると安心感が違うな、どうだい?是非王城勤務になるってのは」

「いやぁ…俺は開拓者ですし…平民ですし…」

「ふむ、縛られたくはない…か」

「すみません」

「いや…私こそ冗談とはいえ聞いてすまない」

「…レオンどうです?あれから」


使徒としての使命、元の世界に戻る事を考えると王都にずっといる訳にもいかない…冗談だったがやんわりと断りつつにふとレオンの事が気になりロニに尋ねる。

目の前のバトルジャンキーによって全員仲良くボコボコにされてから見てない為、気になっていたのもあり聞くとロニは顎に手を当てる。


「今頃は真剣に鍛錬に取り組んでる筈だ、この数日はレオンの成長具合が顕著に現れている…もうアユムくんの剣術は追い越しただろうな」

「あー嫌だ嫌だ、これだから天才は…」

「きっかけを与えたのは君だろ?」

「何度も言いますけど強くなり過ぎですって…もう…」


話を聞く限りレオンは真面目にやってるらしい、あの成長速度ならきっと優秀な騎士になるのも秒読み…次会う時は覚悟を決めなければならないだろう、そう思っているとロニはポケットから懐中時計を取り出す。


「そろそろなんじゃないか?飛行船」

「そうだった…それじゃロニさん俺はこれで」

「あぁまた王都に来た時は寄っていくと良い」

「はい、王城の警備頑張ってください…では」


あまり待たせるのも良くない、アユムは急いで飛行船のある着陸場に向かい走りだしロニはその背を見送りながら空を見上げため息をつく。


「…まったく、頑張るのは君の方だぞ…アユム」


遠い目をしていたロニはしばらく見上げたまま止まっていたが忙しい身、即座に気持ちを切り替え踵を返して鍛練場へ向かう…その足取りは妙に浮かれていたが誰も聞く者がおらず真相は彼女のみぞ知る。







飛行船まで急いだアユムは乗り込み口で待っている操縦者のスカイが待っているのが見え向かいながらも手を振る。


「すみません!ちょっと話をしてて…」

「いえいえ丁度ですよ、出発致しますので早くお乗りください」

「…?はい」


何故か少し急かしているような雰囲気があるスカイに疑問に思いながらもアユムは乗り込み、よく使う部屋の扉を開けて中に荷物を投げて扉を閉める。


「『皆様お待たせしました、これよりエレファムルへと向かいます強い揺れ衝撃にご注意してください』」


部屋の前から離れて椅子がある場所まで向かっていると飛行船が大きく揺れ、揺れに耐えながら固定されている椅子の前に立ち窓の外を眺める。

どんどん離れていく王城、そして王都と景色が変わっていきあっという間に王都が小さくなっていく。

椅子に座り、景色を眺めながらホッと一息つく…エレファムルまで半日だが既に心は緊張の糸が切れ家にいる時と同じ程度の感覚でいた。


「…~♪」


鼻歌をするほど緩みまくっているアユムだが突然、肩を叩かれる。

緩み切っていた所の不意打ちで反応が出来ず動けず肩を叩く人物を考える、ヒスイのいたずら…はたまたスカイが来たのかとアユムは考え座ったまま頭を後ろに倒す。


「…は?」









遠くに消えて行った飛行船を見ながらカルロスとヘレッタは窓の外を眺める。


「本当に良かったの?カルロス、貴方だってあの子と…」

「いいんだヘレッタ、元よりあの子を良く思わない者が現れる…ならば一番安全な場所が良いだろう」

「…何もしてあげれなかったのだからこれくらいっていう事?」

「あぁ…」


どこか寂しそうだが心配はしてないような顔で外を見るカルロスにヘレッタは微笑み前を向く。


「それにしてもアユムは良い男ね、もしかしたら…」

「それとこれとは話が違う、その時のみ私は彼の前で王になる」

「大人げない…昔からそう、都合のいい時だけ」

「ぐ…し、しかしヘレッタ」

「はいはい…けど、どうして彼をそんなに信用しているの?」

「……」

「確かに魔獣を討伐して、私達を救ってくれて、あの子を助けてくれたわ…けどそれだけで貴方が…」


そう言いヘレッタは疑問を投げかける、ヘレッタが知っているのはこの世界に来てからのアユム…だがカルロスはアユムにこの世界に来る前がある事を知っている。

アユムがこの世界の住人じゃない事を知っているのはこの場ではカルロスだけ…そしてカルロスが知る限りアユムのような事例は総じて『勇者』である。

政治的に、人情的に、そして個人的にカルロスはアユムを信じている。


「彼とは今後とも友好的である必要がある、ならこちらがその考えをしっかりと示す必要があるだろう?」

「…貴方がそう言うなら」

「…さぁ行こうヘレッタ、私達にはまだまだ問題が山積みだ」


見えなくなったのを確認してカルロスは窓から離れ部屋の扉へ向かう、今回の件で見えて来た帝国の思惑…それにどう対応するのか考えながらカルロスとヘレッタは部屋から出て行き出る寸前でカルロスは呟く。


「…世界を見てきなさい」


と。



──────────



エレファムルは夕方を過ぎて夜、依頼から帰って来た冒険者と開拓者達が北門に入っていく中で1人外で立っている少女の姿があった。

その少女…リサは降りてくる飛行船を今か今かと待っていた、他の仲間達はアユムが帰ってくるのを家で待っていて迎えはリサのみ。


「たく、随分と待たせやがって」


口ではそう言うが体が揺れておりソワソワしているのが良く分かる、想定よりも王都の仕事が長引いていたのを心配しており戻ってくるという話をギルドから聞いた際に迎えを買って出ていた。

飛行船が着陸しゆっくりと扉が開きまず操縦者であるスカイが現れ、そしてその次にアユムの姿が出てくる。


「おーい!!」


やっと帰って来たアユムの姿を見た瞬間手を振り駆け寄ろうとして…あるものが見え足が止まる。

それはアユムの後に出て来た人物…1人は金髪の長髪でかなり幼い、もう1人はアユムと同じくらいの年齢に見え緑髪にどこかツンとした雰囲気がある。


「ここがエレファムルですか!凄いです…!」

「……」

「よ、よぉリサ…久しぶり……」

「…………」


2人の少女、アユムの後に出て来てアユムの傍に立っており…リサはスッと両手を降ろし頭を抱える。


「またアユムが女連れてるよアミーラ……」

「人聞き悪いな!?!?!?」


季節はそろそろ春になろうとしているエレファムル北門、時刻は夜…アユムは無事帰還を果たす。

我儘を言い付いてきた王国の王女ロウハワード・ヒストルと開拓最果ての町へと飛ばされた元辺境伯ケッケイ家の娘、ケッケイ・スズランを連れて。

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