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文明開拓のすゝめ  作者: パル
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176話『結論収まりが良いなら良い』

物がそこまでない部屋に数人集まっておりソファーと机が並び、1人はロウハワード・カルロス…その隣にはヘレッタが座っている。

そしてその反対側にはヒストル…そして何故かボロボロなアユムが座っていた。


「アユム様…何故そんなにも怪我を…?」

「いやその…お気になさらず…」


今ここにいる全員が思っている事を代弁するヒストルからアユムは視線を逸らす、自分の発言がバトルジャンキーを引っ張り出してなど口が裂けても言えない。


「ところで…スズランさんはどうなりましたか」


あまりこの空気が続くと追及されそうで話を変える為この5日間姿を見ていないロベリアことスズランの現在を訪ねる。

謁見の間で戦いが終わり緊急で治療されてからこの日までほぼ外との接触がホァンしかなく分からないでいた…アユムの言葉にカルロスは少し黙り真っすぐにアユムを見る。


「ケッケイ・スズランはヒストルの強い願いで処刑は行わない事になった、今後彼女は遠い地へ向かう事になるだろう」

「……分かりました、教えていただきありがとうございます」


本来スズランは死んでいる筈の人物である、ケッケイ・シュールが行った事を知っているのは貴族や一部の者のみ…帰る場所がないスズランは王都に居るにはケッケイと言う名が重くのしかかり貴族や一部の者にとってスズランは存在自体が罪と言う者もいるだろう。

ヒストルの願いとそもそもカルロスはやりたくない事もあり田舎か遠い地で身を隠しながら一生を終える事でスズランは表に出れない代わりに平和を得る…と言う訳らしい。

結果的にアユムはケッケイ・シュールの頼みは果たした、と言っても過言ではない…これからどうやっていくかはアユムには知ることも聞く事もない…だろう。


「…さて、アユム…明日だったか」

「はい、エレファムルに仲間を残したままですし…もう俺が居なくても大丈夫でしょう」

「君のおかげで我々も救われ王国も救われた、感謝する」


そう言ってカルロスとヘレッタは頭を下げアユムは慌てて立ち上がる。


「頭上げてください!俺は俺が出来る事をしただけです!」

「…そうだな、アユム…私達は本当に君に感謝している…娘を助けてくれたことも」

「……」

「話は娘から聞いている、だから君にも話さなければならない…ヒストルの事を」


そう言いカルロスはソファーにさらに深く座る、アユム達が集まったのは雑談する為ではない…アユムは何の為に呼ばれたのかは知らされてないがある程度予想はついていた。

ヒストルの耳と尻尾…つまりヒストルの今後についてなのだろう、カルロスは少し目を閉じ考え目を開く。


「…あれは昔、ヒストルが生まれた日…ヘレッタの出産が長引き心配と不安に押しつぶされそうになっていた時だ…あの日は雨だった」


思っていた事とは違い昔話を始めアユムは肩透かしをくらったような感覚になり動揺してしまう。

そうとは露知らず思い出しているのか、遠い目をしているカルロスだがすぐにアユムとヒストルを見る。


「夜中までかかり…生まれたと聞き私は立場を考えず向かった、今思えばまだ自覚が足りない若すぎた行為だったな…止まるように言うメイド達を押しのけ私はヘレッタのいる部屋に入った…何故止めていたのか考えず」


また、カルロスは黙りアユムを見る。


「アユム、王族には獣人が1人もいない…それが何故か分かるか」

「…獣人が認められてない…から」

「その通りだ…105年前ルモンド共和国が建立するまで獣人の貴族すら存在しない、もし偶然にも王国で生まれでもしたら貴族達は黙ってない」

「………」

「…ヒストル、まず謝らせて欲しい…私達はお前に獣人の血が入っている事を『知っていた』」

「え…?」


知っていた、その言葉にヒストルとアユムは目を見開く。


「私が最初見たヒストルは全身に毛が生え姿形が人間とは違う姿であった…その姿はまさしく獣人の赤子…」

「…獣人の…つまり生まれた時は人間に近い獣人の姿だったという事ですか?」

「あぁ…」


その話を聞いてアユムはある疑問が浮かぶ、今のヒストルは髪で隠れてるが人間の耳もあり獣の耳もありそして姿はほとんど人間である。

そしてカルロスの話が正しければヒストルは『元から獣人の姿』でなければおかしいのである。


「アユムの言いたいことは分かっている…当時まだまだ獣人に対しての考えが古い中生まれたヒストルを知った者達はこう言った…『世間にバレる前に処分せよ』と」

「な…!」

「停戦から数年、まだ当時は帝国とは緊迫した時だった…彼らにとってヒストルの存在はこちらの弱みになると思ったのだろう」

「そんなの……」

「…私とヘレッタは悩んだ、どんなに言われようともどんな立場であろうと私達の子に変わりないのだから…」


当時の事を思い出してしまったのかヘレッタは顔を下に向け拳を握っている、生まれたばかりの我が子が周囲の圧力によって奪われるかもしれない…そんな事を考えなければならなかったヘレッタの苦悩は計り知れずアユムは共感する事は出来ないが考えて怒りで拳を握る。


「…けど今ヒストルは生きてます、それにこの姿になる前は普通の人間のような見た目でした…それは…」

「……今この王都にはいないがレッサーという男がいた、レッサーは私の話を聞きこう答えた…『獣人の血を封印する』と」

「封印…?」

「レッサーは封印という特別な能力を持っている…奴は私達の意思を汲み取り貴族達の反論も黙らす為、自ら申し出て…私達はそれに頷いた」


始めて聞く名前だったがカルロスの話し方や表情からかなり信用を寄せている人物なのが分かる、それほどの人物がもつ能力…スキルなのだろうと思っているとふとアユムは袖が引っ張られている事に気づく。

横を見るとヒストルが小さくアユムの袖を摘まんでおり、表情は冷静を保っているがその内情はぐちゃぐちゃになっているのだろう…そしてカルロスはゆっくりと両手を握り合わせ下を向く。


「……結果を言えば封印は成功した、ヒストルは人間と同じ姿をしヘレッタと良く似た顔立ちで…可愛らしかった」

「……」

「だが…その代償としてヒストルはロクに部屋から出れなくなってしまった、レッサーが言うには『獣人の血』を抑え込むのに体力を使ってしまう事による身体の衰え…私達のエゴによって」

「カルロス王…」

「最初私達はヒストルの元に通った、だがヒストルの顔を見る度に私達はヒストルにした事を悔やんでしまい…他国とのやりとりを言い訳にいつしか向かう事すらしなくなってしまった…それからは定期的に使用人から来る報告を聞くのみ…」


誰も来てくれない、そんなヒストルの言葉が脳内で再生される。

2人はヒストルが部屋から出れなくなってしまった事の罪悪感に苛まれていつしか来ることを止めてしまい、ヒストルは来ない家族の愛を知らず知ってる家族の顔も絵画の絵だけ。

誰が悪い?誰が責任を取る?そんな言葉が出るのは仕方ないのかもしれない、だがアユムはそんな彼らが何処か悲しそうな顔をしている事に気づきアユムは立ち上がる。


「カルロス王、無礼を承知で聞きたいです」

「…申してみよ」

「ヒストルは貴方にとってなんですか」

「……我がロウハワード家の大事な子だ」

「…ヘレッタ王妃、貴方にとってヒストルはなんですか」

「私達の…大切な娘」

「…2人は王国を引っ張っていく立場で色々なしがらみもあるし言えない事も多いでしょう、だけど今ここには俺しかいない!…言うなら今なんですよ!立場も殴り捨ててヒストルに!」


机を叩きアユムは叫ぶ、無礼極まりなく外から見たらなんて自分勝手で無責任だろうか。

だがアユムは止まるところ知らず鼻息を荒く2人を見る、いや睨んでいた…それはあの部屋で1人でいたヒストルを見ていたのもあり今後こんな場所を設けられるのがいつになるか分からないから…


「……そうだな…ヒストル」

「…はい」


重く、そしてどういった顔をすればいいのか分からないのか顔を上げないヒストルだったが意を決して顔を上げ2人を見る。


「…私達はヒストル…お前に辛い思いをさせてしまった、どんなに償っても償いきれない…」

「……」

「私達は親として…失格だろう、だがヒストル…私達はお前を…愛している」


言う者が居れば、今まで逃げていたくせにと言うだろう…都合よく愛を語るな…と。

ヒストルはゆっくりと立ち上がり立ち上がり机を迂回して2人の前まで向かい2人の顔をよく見る。


「…私は寂しかったです、すぐにでも会える場所にいるのにこんなにも部屋が広く感じて…私いつか誰も知らない場所でひっそりと死ぬんだと思ってました」


王城にいるとは言えども家族5人会う事無く、見えるのは窓の外の景色だけ。


「私…この耳と尻尾が生えた時目の前が真っ暗になりました、私のせいで…迷惑をかけてしまうと」

「……ヒストル」


ヘレッタが立ち上がろうとするが、カルロスが止める…そしてヒストルを見てヒストルの一門一句を聞く。

いつの間にかヒストルの目から涙が零れる。


「もし…もし…よろしければ…私をもう一度抱き締めてくれませんか…もう一度…」

「…あぁ…ヒストル…」


カルロスとヘレッタは椅子から立ち上がりもう一度、5日前のようにヒストルを抱き締める。


「私…さみしくて…つらくて…」

「あぁ…すまない…」

「何て…言われても…泣かないって決めてたのに……私もロウハワードの…子だから…」

「立派よヒストル…だけどもういいの…もう…1人にさせないから」

「お父様…お母様…」


小難しい事、立場、しがらみ…そんなものは幼いヒストルに背負わせるのはあまりにもナンセンスなのではないだろうか。

そんな事は暇な大人が暇な時考えればいい、今はただヒストルが家族の温もりを知る…それ以上の事があるだろうか?

アユムは3人の家族の形を見守りながらある事を考える、それはヒストルがその封印されていた筈の獣人の血が再発した事…話が正しければヒストルの体調が崩れたままだったのは封印による副作用、ならば何故ある時から元気になったのか。


「…俺がいたから…か」


アユムは破壊神ダジの使徒であり、ヒストルが見たというアユムから光が流れて来たという話は使徒の力が封印を破壊し枷が外れた獣人の血が解放された事による耳と尻尾なのだと考えるがそうなると完全に獣人ではなく中途半端な事が引っかかるがある仮説を立てる。


「封印によって血が薄まった…もしくは獣人の血が破壊された…か…」


言うだけならいくらでも出てくる、これこそ神のみぞ知る…というやつだろう。

そう考えながらアユムはヒストルが泣き止むまで見守りながら待つのであった。

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