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文明開拓のすゝめ  作者: パル
170/398

170話『虎の威を借る豚』


騒がしい王城内に1箇所だけ静かな場所があった、それは王城謁見の間…中には現国王ロウハワード・カルロスと王妃へレッタ、そして息子達マグナとリボルとその王族を守るように立っている兵士達。

そしてその兵士達に向き合うように短剣を構えている黒服の男達…そしてその男達に囲まれ守られている1人の男。


「ぜんぜん見当たらないと思ってたらこんな所に集まってたとは、何する気だったかは知らないが都合が良い」

「…既に数ヶ月経った今、同じような光景を2度も目にするとは」

「数ヶ月?あぁ…なるほど」

「あの時を思い出させるような事をしている理由は何だシャム」

「理由?ククク…何故話さなければならない?貴方達はすぐにでも死んでしまうのに」

「貴様…!」

「リボル落ち着きなさい」

「しかし父上!」


肥満の体を揺らしながらシャムは笑いながら見下すように見る。

その態度にリボルは怒りに顔を真っ赤にするが黒服の男達の圧により殴りかかる訳にもいかず拳を震わせカルロスは落ち着くようにその肩を掴む。


「シャム、その者達は何者だ?…中にはおおよそ賊には思えない者が居るが」

「ほほう?流石に分かりますか」


黒服の男達は全員同じ格好をしている、だが一人一人の違いが大きく出ておりそれは立ち姿や腰に見える剣が他の者達と明らかに違う雰囲気を出している。

シャムはチラッとその一人を見てカルロスの目を見る。


「彼らは理不尽にも主を失い、家族も守る者も失い…途方に暮れた騎士達…」

「…まさか」

「そう…貴方がケッケイ家の者達全てを始末しようとした一部ですよ」

「……」

「彼らは居場所も無くなり今求めるのは貴方の死ですよ、私は彼らと利害が一致しこうして色々とその為の準備をしてやったと言う訳です」

「…なるほど」


剣を腰に装備している者達の仮面の奥にある目から射抜かんと言わんばかりの視線を感じカルロスは目を閉じる、ケッケイ家の騎士は国境に位置する領土もありその実力は高い…王城の騎士達が来れていないのも各地で戦いを強いられているからだろう。

彼らの怒りは至極当然の事である、ケッケイ・シュールの罪…それに巻き込まれた彼らにとっては理不尽であり被害者でもある。

だが不安要素を残す事は出来ない、残酷な決断を下したカルロス自身何も思わない訳がない…がそれは彼らにとっては関係ない、カルロスは目を開き今この現状をどうするか思考を巡らす。


「シャム、再度問おう…何故このような事している」

「…ふぅ…仕方ありませんね?お教えしてあげましょう」


何処か時間を稼ごうとしている様子のカルロスにシャムは鼻で笑いながらも寛容に、余裕に両手を広げ口角を上げる。


「私はねカルロス王、貴方がこの国の上に立っているのがこの上なく気に食わないのですよ…ロウハワード一族はこの際全員消えてもらいます」

「……」

「貴方達全員殺し、空いた席に私が座り帝国と協定を結ぶ準備は出来ています…そう!これは革命だ!」


そう叫ぶシャムはどこか狂気的で、まるで自分が舞台の主役にでもなったかのように満面な笑みでカルロス達を見る。

それに対し突然マグナが噴き出し高笑いを始める、それにつられてかリボルも笑い出し何とも言えない空気が流れシャムは呆然とし顔を真っ赤にする。


「何がおかしい!」

「はー…すまないなシャム子爵、いやシャム…あまりにも滑稽でな」

「な…!貴様今の状況を分かっているのか?言葉は選んだ方が良い」

「空想を思い描くのに忙しすぎて言葉を理解するのが難しいか、それは申し訳ない」

「…貴様」

「ハッキリ言うがシャム、てめぇは王の器じゃねぇ…帝国と協定?お前みたいのにあの皇帝が相手するとは思えねぇが…嘘は程々にしておきな」

「………!」


軽いマグナの煽り、普通ならそこまでの効果は無いが相手が相手…精神を逆なでされ全身が真っ赤になり血圧が大丈夫か心配になる程だ。


「馬鹿にするな!私はある条件を得て皇帝と約束を取り付けたのだ!」

「ほう?それは大したもんだ、きっと王国の土産を買ってこい程度のもんだろうな」

「ふぅ…!ふぅ…!」


シャムは怒りでまるでだるまのようになりながらもニヤッと笑う。


「死ぬ前の土産話を増やしてやろう!皇帝はこうおっしゃられた、『アキレア・ゲノムを暗殺せよ』とな!」

「何…?」

「…父上」

「分かっているリボル…シャムそれは本当か」

「嘘ではない!ククク…既に暗殺に向かわせている、例え何があろうと貴様らが帝国貴族を殺害した事になり戦争は避けられん!」

「…本当にそんな事が出来ると思ってんのか?」

「…ッ」


勝ち誇っていたシャムだったが突然、場の空気が一変する。

それはマグナが一歩前に足を踏み出したからであり…その右手には淡く輝く何かが握られていた、シャムはそれを見た瞬間真っ赤だった顔から一気に真っ青になってしまい怯えたように黒服の男の影に隠れる。


「ひ…!こ、こちらが数が勝っているぞ!無駄な抵抗は止めた方が良いぞ!」

「あぁ?俺達を殺そうとしてるのに大人しくだ?それは面白い冗談だな」

「…確かに我々はケッケイ家の騎士よりも強くは無いが抵抗しない理由にはなりませんね」

「あの場は他の方々の命が危ない為抵抗しませんでしたが、今この場ではやらざる負えないでしょう」


王族であるマグナ、リボル、ヘレッタの右手に大小さまざまな物体が現れその手に収まる。

それを見たカルロスはシャムを睨む。


「シャムよ、私がお前を制御できなかった失態の責任を取ろう…覚悟せよ」

「ひぃぃぃ!!!」


1人の兵士から剣を受け取り刃先をシャムに向けた瞬間シャムは震えた足で急いで後ろに下がる、逃げたのかとカルロスは前に出ようとした瞬間…シャムが何かを掴みながら戻って来たのが見え立ち止まる。


その掴んでいたのを見た瞬間カルロスは血の気が引いていく。


「う…」

「と、止まれカルロス!お前の娘がどうなってもいいのか!!!」


頭を布で覆ているがその姿…声を聞いてカルロスはその連れてこられた人物が誰なのか理解する。


「…ヒストル…!」


ロウハワード・ヒストル、カルロスの娘でありここに来る筈だった少女がシャムによって捕らえられていた。



──────────



冷たい床の手をつきながらヒストルはホァンの安否を心配していた、本来は歩アユムと共に来るはずだったがホァンも付いてきてくれる事になっていた。

…が、部屋で待っていた2人の元に来たのは謎の黒服の男達でヒストルとホァンは離れ離れになり1人この場に連れてこられていた。


「カルロス!例え貴様と言えど娘が傷つけられたくはあるまい!」

「……」


シャムの言葉にヒストルはゆっくりと上を向く、視線の先には4人の男女…兄マグナ、リボル、自身とよく似る人物…恐らく母のヘレッタだと分かる……そして


「お父様…」

「…ヒストル」


始めて見るその姿にヒストルはどう反応すればいいのか迷ってしまう、今まで兄2人以外の家族は誰もヒストルの部屋には来てない…今日会う筈だった人…覚悟はしていたがこのような形で会い言葉が出せずにいると突然首元に冷たい物が押し付けられる、それは剣先でありシャムが握っている剣がヒストルの首元に押し付けられていた。


「動くなカルロス、今ここで殺してもいいんだぞ!」

「…貴様…」

「……(無駄…なのに)」


その様子、そして行為からヒストルは人質のような扱いなのだろうと理解し…冷静に答えを自分の中で出す。

今まで会いも来ず元気になった事で見に来た兄達の事でヒストルは自身に利用価値が戻ったのだと理解する、だがそれは『人間』のヒストルがであり『獣人』ではない。


「(獣人が王族なのはまだ許されない…私がこれを取ったらきっと…)」


頭に巻かれた布を取ればその耳が露わになる、それはカルロス達にヒストルが獣人になった事が知られる事であり…そしてきっと人質の価値が無くなる事という事だ。


「…シャム、一度話し合おう…何か平和的な解決法がある筈だ」

「ほう?それならば今この場で自殺しろカルロス!」

「てめぇ…ふざけた事を」

「き、貴様が何と言おうと私の決定は変わらない!先か後かの違いだ!」

「……」

「そ、それにカルロス…貴様何か待っているな?」

「…何のことか」


一瞬カルロスは反応し、何事も無いように平然を装うがシャムはそれを見逃さず笑う。


「どうせあのアユムとかいうガキが来るのを待っているのだろう?」

「……」

「確かにあの四魔獣を仕留めたとかいう話は信じられんがあのケッケイの計画を止めた実力は大したものだよ、ここに来られたら厳しいだろうな…だが無駄だ」

「…なんだと?」


丁度、シャムの背後に黒服の男が立ち何かを耳打ちしシャムは頷く。


「いいタイミングだ、聞けカルロス…もうここにアユムは来ない」

「…どういう事だ」

「今アユムは殺された、ロベリア…いやケッケイ・スズランによってな!」

「アユムが…そんな馬鹿な…」

「もうこれで障害は無いに等しい!勇者が居ない今もう貴様達の死は確定した!」

「…ロベリア…?」


シャムの口から出て来た言葉にヒストルは耳を疑う、ロベリアが?と。


「よし…カルロス、そして哀れな王族諸君…大人しくしなければこのヒストルが死ぬことになるぞ」

「この屑が…!」


首に押し付けられた刃が肌を傷つけ血が流れる、それを見たマグナは手に持っていた物を向けるが何も出来ず向けるだけに留まる。

向けられた事で一瞬怯えたシャムだったが止まった事で効果があると確信しヒストルに押し付けている刃先を良く見えるようにして周囲の男達の合図を送る、ナイフを剣を抜いた黒服の男達はカルロス達に少しずつ近づき兵士達はじりじりと後退する。


「ククク…あと少し…あと少しでこの国は俺の物だ…」

「…………」

「ロウハワード・カルロス!これで貴様の時代も……ギャッ!?」


高らかに、そして煽るようにシャムはカルロスに向け声を出した瞬間…短い悲鳴が響く。

何事かと全員の視線が集まり…


「こ、このガキ…!いでぇええええ!!!」

「ヒストル…!」


その剣を握る手を、ヒストルは力強く噛みついていた…そのぶよぶよに膨らんだ腕に深く噛みつき血が大量に流れ始めておりシャムはどうにか引き離そうとするが子供とは思えない噛む力に勝てず傷口が広がっていく。


「こ、このガキが…!」

「ッ!やめろ!!」


マグナが叫ぶがシャムの拳がヒストルの顔へ向けられ、そのまま叩き込まれる。

だが殴られてもヒストルは噛むことを止めず更に強く噛みシャムの悲鳴が響く。


「(私が…私が捕まったから…私が…私が…)」


殴られながらヒストルは必死にシャムに抵抗する、自分のせいでカルロス達が何も出来なくされている事は分かっている…ならばとヒストルは痛みに耐えながらシャムに噛みつく。

ロベリア、アユム、そして自分のせいでカルロス達が劣勢になっている事…様々な事が起きすぎてヒストルは考えた結果シャムに対して噛みつく事で抵抗する、それは自分が獣人になってしまった事で自分の価値が無くなったから出来ることがこれくらいしかないから…


「離れろこの…!」

「う……うぅ…!」

「その手を止めよ…!シャム!」


何度も振り下ろされる拳がヒストルに当たる度に響く鈍い音にカルロスが駆けだした時、シャムの拳に耐えきれずにヒストルはシャムの腕から離れ…その頭に巻かれた布が取れる。


「な…」

「あ、あれは…」

「じゅ…獣人だと…?」


布が地面に落ち、周囲の黒服の男達の声が聞こえてくる…ヒストルは急いで布を拾うが時すでに遅し。

全員に見られもう隠す必要も無くなる、そしてそれを見たシャムは乾いた笑い声を出しながら血が止まらない手を押さえる。


「はは…は…かのロウハワードの一族に獣人だ…?滑稽だな」

「そんな…馬鹿な…」

「嘘…だわ…」


ヒストルの耳に聞こえてくるカルロスとヘレッタの声に

ヒストルは思考が真っ白になっていく、心の何処かでまだ『そんな筈じゃない』という淡い気持ちを持っていた。



だがそれすらも、ヒストルの中から消えていく。


「クソが…これじゃ価値がねぇじゃねぇか…いてぇ…このガキが!」

「ッ!やめろぉぉぉぉぉおお!!」


カルロス達を押さえつける価値があると考えていたシャムだったが、噛みつかれた事とその価値が無くなった事に対しての怒りが爆発しその手に持つ剣を振り上げる。

迫りくる剣、そして大声が聞こえヒストルは横を向くとこちらに向かって来るカルロス、ヘレッタ、マグナ、リボルの必死な顔が見えた。


「(なんで…?)」


何故そんな顔をするのか、ヒストルは分からない。

ただ1人…使用人しか来ない部屋で待っていたヒストルには必死な顔で手を伸ばしながら走ってくるカルロス達の行動が分からない。

獣の血が流れていて使い道のない自分の為に何故そんなに必死になってくれているのか、分からない。


向かって来るカルロス達に黒服の男達はシャムを守るように間に入り、その黒服の男達に兵士達が意を決した顔で剣を構え向かって行く。


戦いが始まる、それが分かりヒストルはもう目の前まで迫ってる剣を見ながらふと頭の中に一つの光景が浮かぶ。


それは広がる広大な景色にヒストルが立っている、その隣にはいわゆる旅の仲間達…この広い世界を見る自分を客観的に見ていた。

これは死ぬ間際に頭の中で浮かぶものだとヒストルは理解する、本来なら今夜カルロスへこの姿を話してアユムと……自由な外へ


















白い煙が目の前を通り、1人の背中がヒストルの前に広がる。


「き、貴様…!死んだはずでは!?」


ありえない、そんな目を向ける先にいたのは



──────────



壁に押し付けられ意識が飛びかけた瞬間、突然押し付けていた力が弱まりスズランは床に落ちる。

その時何か鈍い音が聞こえ何かがスズランを抱きかかえるように掴む。


「ぎ、ぎざま…どう…し…」


霞む視界で何も見えないが溺れたような声で喋る男の声はそこで止まり、咳き込みながらスズランは視界を自分を抱きかかえている人物に向ける為上を向く。



──────────



誰かが、ヒストルの肩を掴みヒストルは驚き後ろを振り向き目を疑う。


「ロベリア…?」

「もう…大丈夫、ヒストル…後はあいつに任せて」

「あいつ…?」


真っすぐ、前を向くロベリア…スズランにヒストルはその視線を追いかけ前を向く。

そこには振り下ろされた剣を受け止めつつ、素早く剣を弾きシャムを蹴り飛ばす男がおり蹴り飛ばされたシャムは地面をゴム毬のように跳ねながら飛び黒服の男達によって受け止められる。


「…仕事は王城の警備、カルロス王から依頼された…本当は王都には来たくなかった」


男は背の薙刀を掴み回しながら地面に石突きを下に立てる。


「俺はくよくよ迷う人間だから、1人仲良くしてくれた人が死んでお願いも守れなくて…その人に顔向け出来ないと思ってた」


胸元はおびただしい血が固まっておりそれによって傷口がふさがれており止血が終わっていた。


「…死にかけたけど、神様のお陰で臓器を氷で覆って傷つかなかったし…約束も仕事も全う出来そうだ」


薙刀を構え周囲に冷気が広がり男はシャムを睨む。


「…カルロス王達を守る、スズランも助ける…残念だったな?俺が居る限り思い通りに出来ると思うなよ…!」


黒服の男達が警戒し数歩下がる、冷気を纏いカルロス王達を兵士達をヒストルとスズランを守る為…アユムは死の淵から蘇る。




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