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文明開拓のすゝめ  作者: パル
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169話『懺悔』


流れる血が足元で血だまりを作り傷口を押さえるが血が止まる気配が無い、アユムは急いで氷で傷口を塞ぎ血が止まったが安堵するよりも前に何が起きたのか分からず前を向く。


「ろ、ロベリア…?」

「……」

「…どういうつもりだ」


返事を返さない、突然刺して来たロベリアに不信感を抱かない方がおかしいというもの…手に持っている薙刀を振り回すには適していないため氷刀を手に生成し刃先をロベリアに向ける。

ロベリアは何も言わない、そしてロウソクの頼りない明かりに照らされているロベリアは奇妙にも淡く光る目と目が合った瞬間…アユムは思考が一瞬で弾ける。


「『…武器を遠くへ捨てて』」

「………」


武器を向けられ武器を捨てろと言われる、何を言ってるのだと考える暇もなくアユムは薙刀を氷刀を手放し壁まで投げる。

何かがおかしい…そう考えるのが普通なのにアユムは従ってしまう、頭のどこかでうるさい程の自身の声が聞こえてくるが口には出してないので幻聴であろうと納得してしまう。


「ロベリ…」

「『黙ってて!抵抗しないで!』」


ゆっくりと、ゆっくりと近づいて来るロベリアはそう強く叫ぶとアユムは何も喋らなくなる。

そして近づいて来るロベリアがアユムの前まで来た瞬間、鈍い衝撃と共に激痛が走り数歩下がり…地面に倒れる。

今度は胸元に刺さったナイフが見え倒れたアユムは抜こうと手を伸ばしたがその手がナイフに届く前にロベリアがナイフを抜き取る、そして荒い息と共にナイフを持つ両手を振り上げ…振り下ろす。


「『死ね!死ね!死ね!死ね!死んで!』」

「…ぐ…ぁ…ガハッ…」


刺される度に血が飛び散り、激痛がどんどん薄まっていく。


「(…そうだ……俺は…)」

「『あんたのせいで!あんたのせいでお父様は…!』」

「(…俺のせいで…)」


ロベリアの言葉が深くアユムの感情を揺さぶる…それと同時にある事に気づく。

それは始めて会った時に感じた違和感、そしてどことなく感じた似たような雰囲気。

何度も、何度も、何度も、何度も…刺される度に血とは別に何かがアユムの顔に降ってきて霞む目で何なのか見る…それは涙であり刺し殺そうとしているロベリアのものであった。

何故涙を?…そう考えるよりも前にアユムは最後の力を振り絞り手を伸ばし…ロベリアの涙を拭う。



「ご…めんな…助けられ…なく…て…」



そう言い残し、アユムの手は地面に落ち…呼吸も止まり喋ることは無かった。









静まり返った部屋の中で少女1人すすり泣く声だけが響き力なくナイフを地面に落とす。

脱力した少女…ロベリアは動かなくなったアユムの開いた目を見つめゆっくりとその瞼を閉じさせ息をはく。


「…お父様…私やったよ…」

「よくやったな」

「…ッ!」


やり切ったように天井を見ていたロベリアの独り言に誰かの声が聞こえ、その方向を向くといつの間にか部屋の扉を開け二人の男が入って来ていた。


「ふ、どんなに言われようと屍になればただの小僧か…よしあの方へ伝えよ…障害はもうないとな」

「ハッ!」

「…なんの用?」

「貴様がしっかりとアユムを仕留めたか確認しに来ただけだ」

「…ちゃんとやった…これでいいんでしょ」

「あぁその通りだ、我々も無駄な戦力を割かずなり貴様は復讐が出来たんだ…なぁロベリア…いや」


男は憐れむように立ち上がったロベリアを見ながらニヤッと笑う。


「『ケッケイ・スズラン』と、言えばいいか」






ケッケイ・スズラン、辺境伯であるケッケイ・シュールの娘にしてケッケイ家の唯一の生き残り。

二ヶ月前に起きたケッケイ・シュールの事件は様々な理由でケッケイ家の全てを巻き込んでの大事になっていた…それはケッケイ家の者全員の処刑、今後同じようなのが出てこないようにする見せしめ。


それは老若男女問わずである。


「ケッケイ・スズランだな?」

「…だ、誰?」

「我々はナマリ様の部下であり君の父ケッケイ・シュールの仲間だ」


命からがら、逃げていたスズランは黒服の男達と遭遇していた。

言うには彼らはケッケイ・シュールと共に突如王都の上空を包んだ脅威から王国を救うため戦っていた、だがそれを現国王と勇者…そしてアユムによって妨害され最終的にアユムに殺されたと伝えられる。

信じるにはあまりにも突拍子のない話…だが家族を殺されたスズランにはそれを考える余地など無かった。


「…よくも…お父様を…」


スズランは父親の事をそこまで知らない、それはシュールが仕事を優先していたからでありそれをスズランはちゃんと理解していた。

父は孤児の為に奮闘し帝国と面している土地を王国を守る為に身を粉にしていると…いつか落ち着いたら話をしようと。

だが、そんな父を国は切り捨て邪魔な自分達を消そうとして来た…何もかも失いスズランは黒服の男達に協力する。


『偽りの顔』


それはスズランが持つスキル、スズランが言えばそれを相手は信じてしまい従ってしまう。

その力を使いスズランは王城の内部に侵入し機会をうかがっていた、勇者が王都にいなく…そしてケッケイ・シュールを殺したアユムを殺す為。






「…これで後々は邪魔な者達を始末すればあの方の計画が順調になるだろう」

「……私が言った事は守ってくれるのでしょうね」

「ん?あぁ…ククク、どうだろうな」

「な…!話が違う…」

「あのヒストルという小娘をどうするかはあの方が決める事だ、さて私もそろそろ行かなくては」

「ちょ……ッ!?」


止めようとスズランは立ち上がった瞬間、男の姿がボヤけ…スズランは壁に叩きつけられる。

何が起きたのか?視線を動かすと自分が壁に押し付けられ首を掴まれていたという事が分かる…息が詰まり息が上手く出来ず暴れるが男の体格に対抗するにはスズランはひ弱すぎる。


「『は、離…せ!』」

「無駄だ、貴様のスキルは知っていれば防ぎやすいのは知っている」


淡く光った目を男に向けるが男の目は魔力で覆われており通用していないようである、スズランは必死にもがいていると…男は笑う。


「ククク…もう用済みだケッケイ・スズラン、貴様が生きていては後々面倒でね」

「ゆ…るさな…」

「そうだ最後に良いことを教えてやろう」


手の力を強めながら男はニヤッと笑う。


「ケッケイ・シュールは私達と共に王都を『滅ぼそう』とした一人だ」

「……!」

「貴様は言わば王都を救った者を殺した、という事だ…良かったなぁ?仇が取れてな?我々の手のひらで良く踊ってくれたよ」

「そ…ん……な……」

「ケッケイ・シュールの最後を監視していた者が言うにはアユムは助けようとしていたらしいが、な」


男の言う通りならば、聞いていた話と違うという事になる。

信じたくない話にスズランは頭が混乱したがただ一つ、分かった事がある…それはアユムは男達の目的で殺され自分は利用されたという事。


「最後に真実を知れて良かったな、さらばだ」


強く締め付ける男によって喉が完全に締められ息が出来なくなる、脳がどんどん働かなくなっていき次第に手足の抵抗も無くなっていき全身が脱力していく。


「(ご…めん…な…さい…)」


薄れる意識考えるのは、殺してしまったアユムの謝罪…もう誰の言葉を信じていいのか分からない1人の愚かな少女の懺悔…そして心臓の鼓動が聞こえなくなっていきスズランは目を閉じる。

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