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文明開拓のすゝめ  作者: パル
160/397

160話『いざ表通り』

表通り、様々な店が立ち並ぶこの通りは数多くの人が通っており多種多様な理由で来ている者が居る…今その人々は思わず振り向いてしまっていた。


「アユムさ…アユムさんあれはなんでしょう!」

「あれは確か共和国の民族衣装だったかな?昔ダガリオが言ってたから合ってるはず…」

「あれは!あの生き物はなんですか!」

「猫だね」

「あれが猫…獣人さんでは見たことありますが愛らしいです…あ!あの人はなんの方ですか?」

「あれはただの毛が無いおじさんだから指向けないの、謝りに行こうね」


すれ違う人が元気に駆け足でウロチョロしているヒストルに目を奪われ、そして当の本人は周囲が見えてないのか何も気にせずにあっちこっちに向かってはこれが何なのか聞いてくる。

ハゲのおじさんが別種族の人に見えたのか興奮で適当にアユムに聞いてるのか指を向けられたおじさんが驚いておりヒストルと二人で謝る。


「申し訳ございません…」

「すみませんほんと悪気は無いんです」

「あぁいいよいいよ、おじさん気にしてないから」

「良かった…おじさん許してくれるってさ」

「ありがとうございます…」

「はは、まぁおじさんの売ってる水飴食べて感想教えてよ」


そう言いおじさんは並べられた水飴の一つを取ってヒストルへ差し出す、アユムは小物入れから財布を取り出すがおじさんはそれに気づいて手でまぁまぁとジェスチャーする。


「お金はいいよ」

「え?でも」

「可愛いお嬢さんの前でかっこつけたいだけだからね、感想を教えてもらったらそれで充分さ」

「それは…ありがとうございます、ほら食べな」

「頂きます」


ご厚意により水飴を貰ったヒストルは棒に付いている水飴を一口食べ…その頬がとろける。


「甘いです!色が水のように透明なのに甘くて…砂糖かハチミツを使われてるのですか?」

「ははは!砂糖は高くて使えたもんじゃないよ!ハチミツもこの時期はまだ高いから使ってないよ」

「でもまるで砂糖菓子を食べた時のような甘みが…」

「砂糖菓子?」

「ひ、比喩ですよ比喩!それほど美味しいっていうな!ね!」

「そ…そうですよ!」

「そう言われたら嬉しいねぇ!ありがとうよ!」


少しボロが出たがおじさんが上機嫌になりどうにか事なきをえてホッとする、ここでバレては元も子もないがそもそもとして王族がここにいるなんで誰も思わない為あまり気にしなくてもいいのかもしれない…好奇心旺盛なヒストルが様々なとこに向かって行きその考えもあまり当てにはならないかもしれない。


「なんだろう、散歩行きたくてたまらない小型犬を見てる気分になるな?」

「一応この国の上から数えた方が早い方だとは言っときます」

「それはそう…しかし元気だなほんと…」


横に立ったロベリアに釘を刺されるがヒストルに尻尾が生えてるんじゃないかと思う程のせわしなさである。


「…あれ見てると良かったなってなるよね」

「そうですね」

「ロベリアさんが提案したお陰だ、ありがとう」

「私が言わなくても歩様が言っていたのでは?」

「いや…俺はそこまで豪胆にはなれないよ、多分あのまま何も言えなくて終わってたろうな…」


思っても行動には動けない、それは立場や理由がある。

それらを無視するには今のアユムは無力だった…頼りになる仲間がいないから、1人では限界があるのを良く分かっているから…並んでる店を眺めていると視線を感じ横を見るとロベリアと目が合う。


「ど、どうしたの?」

「…あのレオン様相手に発破をかけて自ら悪役になろうとした人が言う事だとは思えませんね」

「何で知ってるの!?」

「人の口に戸は付けられないですよ」

「う…まぁ隠しては無いけども…」

「…お人好し」

「ウッ!」


鋭いロベリアの言葉に心臓を串刺しにされてアユムはよろめき膝をつく、なんやかんや言って他人に色々するなんて人にバレたくはないものである。

それも複数人にバレてるならそれはもう全員知ってるのも当然で、しかも目の前で言われたら威力は20倍のストレートパンチで一発KOレベルでアユムのメンタルはボロボロだった。

心の中で泣いていると何か考えているそぶりのロベリアは突然、アユムの前に立ちアユムの目の中を覗くように覗き込んでくる。


「な、なんでしょう…死体蹴りはマナー違反だよ…」

「…いえ、歩様…少し聞きたいことがあるので耳を貸していただいてもよろしいですか」

「え…?う、うん」


聞きたい事といわれ何だろうと顔を近づけると…ロベリアと『目が合う』淡く光るロベリアの目を見てるとアユムは思考が鈍り少しボーッとしてしまう。


「これから言う事は『正直に言い誰にも言わない?』」

「ん…まぁ秘密は守らないとな」


口が軽い方ではないと思っているアユムは頷き、そしてロベリアはアユムの耳に口を近づける。


「…自分の利益の為に誰かを殺した事がある?」

「誰かを…殺す…?」


何を言っているのか分からない、だが正直に言わないといけない以上答えなければならない。


「いや、一度もない…少なくとも俺は極悪人以外なら殺したくはない」

「………………………………………」

「ロベリアさん?」

「…………」

「ロベリアさん!」

「…え?あ、あぁなんでもないから気にしないで」

「急に黙ってどうしたの」

「…『なんでもない』」


一瞬、何処かありえないものを見たような顔をしたような気がするが何でもないのならそうなのだろう。

深くは追求せずアユムは曲げていた上半身を伸ばしふと周囲を見ると……ヒストルの姿が無い。


「ヒストルどこ行った?」

「え?」

「…まずい…!」


話しているうちに見えるところで出店の店主と話していたヒストルが見当たらなくなってしまいアユムは心臓が痛くなるほど動揺してしまう、急いで最後に見た出店の所まで走る。


「す、すみません!」

「はいはい?ひとつ銀貨1枚だよ」

「いや注文じゃなくて!ここに金髪のつばが広い帽子被った女の子来ませんでしたか!?」

「え?あぁ確かに少し前にここに寄ってくれたけど…護衛か何か?」

「あーいやそんな者では…」

「あの子…ここだけの話お金持ちのとこの子でしょ?」

「えー…ど、どうでしょう」

「あんな良い子がそこら辺の子じゃないのは見てれば分かるわよ、態度もしゃべり方も上品で可愛かったわぁ」

「ははは…ところで何処に行ったかは分かりますか?」

「さっき子供達と一緒に裏通りに行ってたわよ?」

「な…裏通りに!?」

「そうそう、たださっき身なりが二人の男の人が同じ道行ったから護衛の方…あら?だとしたら貴方…」

「くそ…!すみませんありがとうございます!」

「え、えぇあの子によろしく伝えといてね」


何かの焼いた肉をパンで挟んだのを売っていた女性に礼を言ってアユムは急いで裏通りに続く小道に向かう、ロベリアも走るアユムに追いつくがアユムと体格差があり少しずつ離れていきアユムは一旦ロベリアを担ぐ。


「キャッ!?」

「すまん担ぎ方考えてる暇なくて!」

「わ、分かったけど何処向かってるのよ!」

「裏通りにヒストルが向かったって話があった!クソッ!目を離してたせいで…!」

「わ、私も悪いから…何処にいるか分かってるの?!」

「分からん!道なりに行けばワンチャン何とかなるとは思うが…って急に言葉崩したな?」

「あ……良いから急いでください!」

「分かったから髪掴まんでくれ!」

「落ちそうなんです!」


肩に担いで走ってる為バランスが悪くロベリアに後頭部をガッシリ掴まれ毛根ごと抜けそうになるが我慢して裏通りの小道を道なりに走る。

裏通りは襲撃の被害が無く特に復興は無かったが多少小奇麗になっており道端に倒れている人は見当たらない、迷路のようで実際は分岐は少ないのもあり迷わず走れてるが目的地も分かってない今迷うどころの話ではないがアユムは急いで裏通りを走る。



──────────



裏通りに数ある空地の一つ、そこは子供達が集まって秘密基地にしている場所がある。

その空地に来たヒストルは目の前にいる男二人に対して前に立ち後ろにいる子供達を守るように手を広げる。


「私がどうなろうと構いません、ですが後ろの子達に手を出すのはやめてください!」

「そう言われてもな、俺達は元々お嬢ちゃん?君が目的なんだ」

「そうそう、大人しくしてくれれば何もしないさ」

「お姉ちゃん駄目だよ!この人達悪い人達だよ!」

「何されるか分からないよ!」

「ちっ、うるせぇな?さっき逃げたガキみてぇにいなくなりゃ良かったってに」


どうしてこうなってしまったのか…



ヒストルはアユム達が話してる間に色々な店を巡ってはその可愛らしさか様々な食べ物やお菓子を貰っていた。

どうしようかと処分に悩んでいるとふと裏通りに通じる小道の置いてある木箱の傍で両手に沢山の食べ物とお菓子を持つヒストルを見ている子供と目が合う、物欲しげな目…ヒストルは瞬時に子供が何なのかを理解し…子供の元に駆け寄る。


「私では食べきれません、どうかお一つもらっていただけませんか?」

「い…いいの…?」

「はい、遠慮せずにどうぞ」


手に持っているパンを子供に渡してヒストルは何処か高揚感を感じていた、悪く言えば貴族の道楽…良く言えば今ヒストルは本の世界に登場する正義の主人公である。

子供が裏通りの住人で、本の世界にもいる貧しい子供なのは一目瞭然でありヒストルは目が合った瞬間から見捨てる気にはなれなかった、ただの自己満足とヒストルは理解していた。

だが目の前の子供に分け与える事も出来ないのは自己満足以下だと感じた末の行動だった。

子供は受け取ったパンとヒストルの顔を交互に見て大きな口で食べようとして…食べるのをやめてしまう。


「ど、どうかしましたか?もしかして苦手な食べ物が…」


何故食べるのをやめたのか分からず、パンが嫌いなのかと焦っていると子供はパンを手に持ったまま下を向く。


「皆と食べる、僕だけが食べるのはズルだもん…」

「…他にもいるのですね?」

「…うん」

「……案内してもらえますか?皆と食べればもっとおいしいですよ」

「いいの…?」

「はい!」


これも本からの受け売りである、誰かと何かを食べる経験もないヒストルだがきっとこう言うのが良いと思っての事だった。

パァッ!と顔が明るくなった子供が急いで奥に歩いて行きヒストルはその後に続く、一瞬アユム達の事が脳裏に浮かんだがすぐ戻ればいいと思いそのまま子供の後に続く。

そこからは難しい話は無く、子供達が集まる秘密基地に来てそこにいた子供達に持ってるものを配り一緒に食べる…ただそれだけの話である。

だがヒストルにとっては大きな話であり、王国の王都にある裏通りの事実…そして目の前にいる子供達の事を知った事は簡単には流せない事であった。


「(きっとこれだけではこの子達は救えない、だけど国はこの子達を救うのは…出来ない…)」


手に持っているのは僅かな物、それを分けたところで一時的なもの…政治は分からないがそれでも目の前の子供達を助ける事すら出来ない事に僅かながら苛立ちを感じる。

そんな中、突然男達が現れ子供の一人が逃げれたが残りは残ったままになってしまっていた。




「皆大丈夫ですからね、私だけで済めばいいんですから」

「そんなの駄目だよ!こんな悪い奴らウィードに殴られちゃえばいいんだ!」

「めんどくせーなぁ?おいガキ共適当に殴ってからでいいか?」

「はぁ?いいがウィードが来る前にとっとと表戻って身代金出させなきゃいけねぇんだぞ?まだ何処のか分かってねぇしよ」

「分かってるって」

「ッ!来ないでください!」


止めようとするが大人と子供の体格の差で止めれる訳も無く押しのけられてしまい、怯える子供達に向けて男は拳を振り上げる。


「やめてーーーーー!!!」


手をかけられそうになっているのを止めれない、止めようと必死になった瞬間ドクンッ!と心臓が激しく脈打つ。

目の前が真っ赤になり頭痛が激しくなり息が荒くなる、自身の体の変化にヒストルは疑問に持つがそれでも止める為体を動かし止めようとする…が止めるには至らず…







「おいおい、てめぇらはよぉ…人様の縄張りで好き勝手してはいけないって習わなかったかぁ?」

「グエッ…!?」


突然男の動きが止まり、ゆっくりと上へと上がっていきついには足が浮いてしまう…ヒストルが視線を向けると黒いサングラスをした男が立っており片手で男を持ち上げていた。


「兄貴、こっちは終わったぜ」

「おう妹よ流石だ」

「だ…だれ…」

「俺かぁ?俺達はなぁ!」


金髪のオールバックの男は掴んだ男を掴んだまま大きく振り上げ…


「俺達はウィードのスティーブン様とソフィアだ!冥途の土産にしな!」

「グギィア!?」


振り上げ、そして地面へと叩きつけた瞬間鈍い音を立てながら捕まった男は一瞬ビクッ!と動いた瞬間ピクリとも動かなくなりぐったりとしていた。

金髪の男は興味なさげに男を放り投げ、奥にいる同じ金髪のサングラスをかけた女も顔面がボコボコになってる男を放り投げる。


「あ、貴方達は…?」

「あぁ?すまねぇな嬢ちゃん怖がらせちまってよぉ」

「兄貴は顔が怖いからな」

「あぁ?!おいソフィアどういう事だそらよぉ!」

「いふぁいいふぁい!冗談だって!」


ソフィアと呼ばれた女をスティーブンと名乗っていた男が頬を引っ張っているのを呆然と見ていると二人の横を1人の影が出てくる。

それは唯一逃げれた子供でありヒストル達を見てホッとした顔をする。


「よかった…無事だったんだね!」

「貴方がこの方々を…?」

「う、うん…困った事があったらウィードを頼れって言われてたから…」

「ウィード…」


始めて聞くが雰囲気を見る限りどうやらこの二人はウィードの者らしい、ヒストルは助けられた事と自身の正体を考えこの下っ端のような者達に慌てて立ち上がり頭を下げる。


「こ、この度は助けていただきありがとうございます」

「あ?おいおい嬢ちゃんよぉ…」


頭を下げたがスティーブンの声色で内心緊張が走る、もしかしたらこの二人は自分の正体に気づいてるのかもしれない。

このままではアユムにもロベリアにも父親達にも迷惑をかけてしまう、自分の軽率な行動が原因…それも分かっているからこそ胃が痛くなるほどヒストルは頭がパンクしそうになっていた。

そして歩いて来る音が聞こえ頭を下げてるアユムの近くまで来たのが分かり冷たい汗が流れ…


「あまり頭下げるもんじゃねぇぜ、俺達ウィードの縄張りで馬鹿しようといてた奴を締めただけだ…頭上げな」

「で、でも…」

「それに嬢ちゃんこのガキ共守ろうとしてくれてたろ?ありがとうな」

「え…?」

「おいお前ら、確か西のとこのガキ共だな?親はどうした」

「父ちゃん知り合いと会う約束があるって…」

「こんな真昼間にまたか…おいソフィア、ガキほったらかして遊んでる馬鹿共締めてくるよう兵隊出しとけ」

「おう!」

「よーしガキ共しばらくおじさんの所に来な、飯と寝床だけなら用意できるからよ」

「あ、あの…」

「ん?」


何処からか現れた男にソフィアが耳打ちしてスティーブンが慣れた手つきで子供達を集めるのを見てヒストルはスティーブンを見る。


「あ、貴方達は慈善活動もしているのですか?」

「んー?何か勘違いしてるな嬢ちゃんよぉ?」

「勘違い…?」

「俺達がやってるのは一時的なもんだ、こいつらを一生養うっての難しい…だから時々キツイ時によぉ助けて大きくなったら働いて恩を返してもらうのさ」

「大きくなったら…」

「これは施しでも慈悲でもねぇ、貸しだ…お嬢ちゃんが思うほど世界は優しくねぇって訳だ」

「……な…」

「ん?」

「何にでも対価が必要なように貴方のやっていることは理にかなっていて、そして理想的だと…私は思います」

「……嬢ちゃん何処か普通じゃねぇ雰囲気があるな?何処か上に立つべき…」


スティーブンが何かを言いかけた瞬間、空地に突然何かが降ってきて周囲に冷気が広がる。


「お…?あれ?」

「ん?なんだてめ…あ?」

「ちょ、ちょっと降ろしてください戦うなら巻き込まないように…」

「あ…アユムさん?」

「おぉ兄弟じゃねぇか!」

「…何があったこれ?」


霧が発生している中、霧の中からアユムが現れ現状の状況を見て唖然としていた。

言った通り何があったの?と。

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