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文明開拓のすゝめ  作者: パル
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159話『景色のその向こうへ』


鍛錬を終えて適当に時間を潰したアユムは時間を確認しつつ部屋に戻り着ている服を脱いで別の目立たない服へ着替える。


「俺が目立ったら問題だしな…薙刀どうしよう」

『持っていった方がいいけど…目立つもんねぇ…』


薙刀『霧雨』はヒスイの物でその薙刀にヒスイは憑依している、そしてアユムと契約を結んでおりアユムは恩恵として氷の力を使うがその力を使うには薙刀…というよりもヒスイが近くにいる必要がある。

1度、薙刀を置いて外に出てしまい痛い目を見た事もあり可能なら手放さないようにしていたが薙刀はこの世界では目立ち過ぎる。


「こう小さくならない?これ」

『そんな如意棒じゃないんだから』

「布に包んでいくか…外から見たら槍だと思うだろ」

『目立つ事は変わりないけどね〜』


戦えなくて死ぬよりかはマシ、その精神で多少目立つがアユムは布で薙刀を包み最低限の荷物も小物入れにいれて立ち上がる。


「よし、時間だ」

『あまり喋んないようにするけど何かあったら呼んでね』

「おう、ところで今何見てるの?」

『キサラギさん』

「あぁ…それ一話しかみてないから続きないよ」

『えっ』


破壊神ダジの謁見の間のような空間があるらしいヒスイはアユムの記憶から色々引っ張ってきて暇つぶしをしており、今はアユムが転移前に見ていた『キサラギさん!?』を見てるようだった。

ただ1話しか見ておらず続きを見る事は一生ないのでヒスイが気に入ったとしても続きを見る方法は無い。

キサラギさんの事を思い出しふと最近ダジと会ってない事に気づく、気まぐれで影響を受けやすいあの神は今何をしてるのだろうか?そう思いながらアユムは部屋から出てヒストルのいる部屋まで向かう。



──────────



廊下を歩いているとすれ違う騎士と兵士に挨拶されアユムも挨拶を返す、仕事があるにも関わらずヒストル達と王城を出ようとしてるのはいかなものかとアユム自身も思ってしまうが今回は騎士団団長のロニに許可を貰っているという免罪符がありアユムが外に出る事は正当化されている。

ロニに感謝しつつもアユムは何処かロニが全部知ってるのではないかという根拠のない不安を抱えていた。


「あの人何考えてるか分からないんだよな…」

『誰が~?』

「ロニさん…あの感覚だけで動いてそうなバトルジャンキーだと思ったら狙ってやったような雰囲気あるし…」

『んー、まぁどっちにしても今考える事じゃないでしょ?』

「それは…確かに」

『それより女の子二人連れて行くんだからコースは考えてるんでしょうね』

「ウッ…た、多少は…」

『ふーん?』


今回ヒストルとロベリアを連れて行くのに緊張があり、そもそもアユム自身が年頃の少女がどんな場所に行きたいのか知らない。

パーティーに二人似た年齢の少女が居るが1人は効率、1人は更に下の子供達の為にしか買い物しない子であり比較もへったくれもない…ある程度のルートを考えているがどうなるかは神のみぞ知るというやつである。


「……ん?」


上手く行くか考えていると部屋の近くまでいつの間にか来ており腹をくくろうと曲がり角を曲がると、ヒストルの部屋から丁度出てくる人影が見え咄嗟に角に隠れる。


「誰だ…?…マグナとリボル…?」

『なんでここに?』


角から顔を覗かせて見てみると…知っている顔ぶれであった。

王子であるマグナとリボル、その2人であり付き人も付けずに部屋から出た後何も喋らずアユムの方へ向かって来る。

慌てて近くの扉を開け空き部屋なのを確認して中に隠れる…しばらくすると歩いて来る足音も聞こえて来て身構えるが特に開けてくる事も無く足音は通り過ぎて行き足音が聞こえなくなったのを確認して扉を開けて誰も居ない事を確認しホッと胸をなでおろす。


「びっくりしたぁ…しかしあの2人…何しに?」

『んー、それを聞きに行ってもいいかもね』

「そうするか…」


立ち止まって考えても答えは出てこないので大人しく廊下に戻りヒストルの部屋の扉をノックする。

すると中からドタバタと聞こえ首を傾げていると中から返事があり扉を開けて中に入る、中は夜に来た時と変わらないが夜とは違い部屋内が良く見えて別の部屋に来たのかと思ってしまう。

中には何故かベットに包まってるヒストルと汗を流しているホァンがおりアユムと目が合うとあからさまにホッとする。


「アユム驚かさないでよー…」

「いやすまん、何があったの?さっき王子2人いたけど」

「そうそれ!それが大元で…あ…こほん、それが原因でございます」

「もう手遅れだよホァンさん」


ヒストルの目の前で素を出してしまい慌てて取り繕うがそれも頭だけ出してたヒストルがクスクスと笑う。


「ホァン、許します…話しやすい方で構いません」

「ありがとうございますヒストル様…それでは……それでなんだけど早速ヒストル様出てきてもらっても構いませんか?」

「…ほ、ホァンが作ってくださいましたものですし…私頑張ります…!」


何を頑張るのか、気合十分なヒストルは蓑虫状態のヒストルがビクビクしながらベットから降りてくる。


「…おぉ…」

「ど、どうでしょか…アユム様…変…ではないでしょうか…?」


ベットから出て来たヒストルは春らしい少し暖色系のスカートに

白のTシャツのような服に灰色の上着を羽織ってつばが広い帽子を身に着けていた。


「凄く良い、似合ってるよ」

「それなら…良かったです」

「しかしホァンこれ少しある意味目立つのでは?」


ヒストルの服装はある意味最先端、現代の日本でいそうな服であり果たしてこれが普通なのだろうか?

そう思いホァンを見るとグッと親指を立てる。


「大丈夫、可愛いから」

「なるほど?確かに大丈夫だ」

「あの…あの…私そんな可愛いだなんて…」

「アユム10点満点」

「120点だ」

「完璧ね」

「うぅ…」


何処かサヨを思い出しそうないじる価値のある反応をするヒストルにアユムとホァンの攻撃が止まらない、よく見たらホァンの目が完全に逝ってるので徹夜で作ったらしい…頭が上がらない話である。


「まぁさっきようやくこれ着たんだけど突然王子達が来て…」

「あー…確かにこの服着てるのを見られたらまずいな」

「そう……あと何で急に来たのか分からないのよね、今までそんな事年に一回それも無い時もあったくらいなのに…」

「そうなのか?」

「うん…だから焦ったのもあるし……その…私が専属になってからもその前も私と医者以外ここに来るのが…無いから」


アユムが来た時に焦ってたのも戻って来たかと思ったようだった、病弱の妹が外着を着てるのを見たら何事かとなるだろう。

だがその話になる前に気になる事、それはここにあの2人が来るのが不思議な話であるという事。

小声でアユムにだけ聞こえるように伝えて来たホァンの顔を見てアユムは察する、ヒストルは病弱である…顔を見に来ることはあってもいい筈がホァンがいう事を信じるなら不思議な話から異常と大げさに言ってもいいかもしれない。


「…マグナお兄様もリボルお兄様もきっと私が元気になってるという話を何処からか聞いて来たのでしょうね……私がちゃんと使えるかどうか」

「…ヒストル?」


話が聞こえてたか、それとも何となく気づいたか…ヒストルは何処か遠い目でそう呟く。

今まで身を案じて来なかった家族が元気になったから様子を見に来てくれた、これだけ聞けば病弱な妹が元気になったのを聞きつけて来た温かい家族像だがそのヒストルの表情とその身分から様々な事をアユムは気づいてしまう。

王族の者が他国へ嫁ぎ関係を保つのはよく聞く話だ、そしてヒストルが呟いた言葉はヒストルの利用価値が出来たからという風に聞こえ…アユムは言葉が出なくなる。

こんな時どう言葉をかければいいのか?アユムには分からず時間だけが過ぎていきせめて何か声をかけようと一歩前に出る。


「お待たせしました」

「ふぁわ!?」

「騒がしいですよ歩様」

「び、びっくりした…ロベリアさんか」


心臓が痛くなるほど驚いて振り向くと扉の前にロベリアが立っていた、ロベリアもヒストルと似たような服装でホァンの仕事の速さに感心してるとロベリアはアユムの横を通ってヒストルへ手を伸ばす。


「ヒストル様、そんな顔していては駄目ですよ?今日はうんと楽しまないとですから」

「ロベリア…」

「さぁ」

「…そうですわね、行きましょう!」


ロベリアに言われ自身の頬をぺちぺちと叩いたヒストルはロベリアの手を取る、それを見たアユムはロベリアの迷いがない行動に感謝しつつホァンを見る。


「それじゃ行ってくる、あまり遅くはならないようにはするが…大丈夫か?」

「大丈夫大丈夫、私がヒストル様の代わりに…ほぁ…ベットに入って寝とくから…」

「それはそれで大丈夫なんか…?」


ここにヒストルが居ない間はどうするのか気になっていたが寝不足のホァンが身代わりになるらしい、果たしてそれでいいのか分からないがアユムはここまで来たら流れに身を任せるしかないと自身に言うように念じて気合を入れる。



──────────



予定通り来た荷車、その流れに乗るように荷車に乗り込んでアユムは緊張しながら荷車を操縦している男に金を握らせる。

身分を隠して遊びに行く貴族か何かかと思われたのかすんなり話が進み無事アユム達は王城を出ることに成功する。

長い門までの道を荷車に揺られながら外を眺め待っていると門が見え荷車はそのまま門を通過する。


「ヒストル目を閉じときな」

「え?ひゃっ…!?あ、アユム様?」

「いいから」


門から少し離れたところで停まってもらい、座っていたヒストルをお姫様抱っこしてアユムとロベリアは荷車から降りる。

しっかりと手まで使って目を閉じてるヒストルの純粋さに心が洗われながら運転手に礼を言いヒストルを地面に降ろす。


「よーし、ゆっくり目を開けてみ」

「は…はい…」


アユムに促され手を退けてゆっくりとヒストルは目を開ける。







「わぁ…!」


見慣れた街並み、何度も見た光景、代り映えしない景色…だが今ヒストルが見るものは全て『新鮮な光景』

王都表通り、襲撃時の被害から立ち直り復興が終え町の人々が戻って活気に溢れるこの場には大勢の人や店や物があり本と部屋と窓から見える景色が全てだったヒストルにはあまりにもこの光景は刺激的だろう。

開いた口が塞がらないようで見える街並みを眺めているヒストルを見てアユムは何処か満足したように腕を組みながら微笑むのであった。

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