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文明開拓のすゝめ  作者: パル
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149話『雰囲気で戦ってる』

地獄のような空気、明らかに空気が死んでいるのを確認しアユムはコミカルなポーズをとっていたがスッと両手を下ろし片膝をつく…少女はオドオドしながらもアユムを見る。


「あ、あの大丈夫でしょうか?」

「殺せっ!こんな恥なら死んだ方がマシだ…!」

「えぇ?!そ、そんな事言わないでください…貴方様にも大事な方がいらっしゃいますでしょう?」

「やめろー!優しくするなー!俺に優しくしないでー!あー!」


5分程度このやり取りを続け…時間が経つ事に羞恥心が薄れていき息が荒いが落ち着く事が出来た。


「お水飲みますか?」

「いや結構です…あの…俺別に怪しい者じゃなくてそのー…怪しい者じゃないです」


120%で怪しい者が言うセリフを言っているアユムは落ち着いても頭が混乱している為まともな事を言えずにいた、それでも少女は穏やかに慌ててるアユムを宥めるようにまぁまぁ…と手で前に出す。


「本当に悪い方ならば私の命はもう無いでしょう、大丈夫ですから落ち着いてください」

「あ…すみません…」


見た目で考えると12歳そこらの少女に精神的に劣ってる事になったアユムは内心情けなさに穴があったら隠れたくなったがこの場を片付けなければと咳をする。


「コホン、すみません少し王城内に戻る為壁を歩いていたら丁度開いていたので…」

「あら…閉めるのを忘れていました…私ったら…けどそれで貴方様が無事入ってこれたのならそれもまた何かの運命なのかもしれませんね」

「本当にすみません勝手に入って…チャチャッと出ていくので、では」


夜中なのもあり、なんなら不法侵入でもある為さっさと部屋から撤退するのが良いと思い部屋の扉へ向かう。


「…!ま、待ってください!アユム様!」

「えっ?」


突然自分の名前を呼ばれアユムが振り向くと少女が立ち上がりアユムの方へと向かって駆けて来ていた、だが少女の足取りが乱れ数歩進んだ所で足の踏ん張りがきかなくなったのか前に向かって倒れていく。

咄嗟にアユムは薙刀を放り投げ走り普通に走っては間に合わない事に気づき、床に氷を張りスライディングする。

その勢いでギリギリ少女をキャッチして足の先に氷の壁を生やし急停止する事で少女をどうにか受け止める事に成功する。


「あっぶね…大丈夫?」

「……………」

「…?あのー…」

「………あ、す…すみません!私ったら殿方に密着するなんて…」

「殿方この世界でも使うんだ…」


顔を真っ赤にする少女は急いで離れようとするが体に力が入らないのか立ち上がるのに苦戦する、どうしたものかと考え…アユムは少女をお姫様抱っこし持ち上げベットまで移動し少女をベットへ置く。


「よいしょ、これでいい?」

「………や…」

「ん?」

「や、優しくお願いします…」

「やばいやばいやばい事案発生するPT〇に怒られる…!」


良くない、少年少女を守ろう。

そんな警告が聞こえて来たような気がしてまったくその通りだと思いながら少女から少し離れる。


「俺が捕まるのでそんな冗談おやめください…」

「す、すみません…」

「…ところでなんで俺の名を?」


そもそもこんな事態になったのも少女がアユムの名を呼び立ち上がったからだ、アユムは少女の事を知らないが少女はアユムの事を知っているようであり念の為聞いとく必要がある。


「そ、その…私実はアユム様の事を少し前から知っておりまして…本当はアユム様の邪魔になるかと思い呼び止めるつもりは無かったのですが考えるより早く体と口が動いてしまいまして…」

「俺の事を知ってた…?」

「はい、私ロウハワード・ヒストル…訳ありましてこの部屋で貴方様を見かけた機会がありましてホァンからお名前を聞いておりました」

「ロウハワード…って事は王女様…」

「はい!」

「も、申し訳ございません!今までの無礼な言動お許しを…!」


一般人ではないと思ってたがまさかの王族であった、今更言動を良くするにも王と王子達との会話がそこまでだったのも加味しても取り繕っても無意味である。


「お気になさらないでくださいアユム様、父上と母上の教えに従い私も貴方様の言動無礼を許します」

「あ、ありがとうございます」

「もう…と言いましてもすぐには変われませんでしょうし少しずつ気楽に話してください」


カルロス王もヘレッタ王妃もあまりにも王族としてはフランク過ぎるのは問題だがそんな二人の教えならヒストルも似たような性格なのだろう、そう考え逆に改まるのは失礼ではと思いアユムは一度頭の中の礼儀正しさを取っ払う。


「よろしくなヒストル」

「え、えぇ…そこまですぐに砕けてくださったのは貴方様が初めてでございます」

「一介の開拓者なので礼儀は知らないので」

「ふふ…ごほ…!その方が私は…ごほっ!…都合がいいですね」

「大丈夫か!?ちょっと待ってくれ今誰か呼んで…」

「呼ばなくて…大丈夫です、少し体調が悪いだけなので」


話していたヒストルが突然強めの咳をした為アユムは使用人を呼ぼうと出口に向かうが止められる。


「…大丈夫なのか?」

「大丈夫でございます…それよりもアユム様今お時間よろしいですか?」

「今?」

「はい、私この部屋から出ることが難しいのです…よければ外の話をお聞かせくださいませんでしょうか?」

「…何か病気…とか?」

「…はい、体に力が入らない時があったり咳が止まらなくなる事があるのですが原因が分からないのです…」


先程の倒れた姿を見るに嘘ではないとアユムは考え、暫く考え頷く。


「構いませんが今夜はもう夜も夜…今夜今日よりも早い時間ここのバルコニーの扉をノックさせてもらいます、その時扉を開けといてくださればまたこの場に参上いたしましょう」

「……今更かしこまっても遅いですよ?」

「ありゃ?そりゃ残念、それじゃ俺は今日は撤退させてもらいましょう」


部屋を出る為に扉に向かい歩き、途中にある薙刀を拾って扉のドアノブを掴み振り向く。


「おやすみ」

「…おやすみなさいませ」


扉から出て廊下を見ると大体の部屋の位置を思い出しながら扉を閉め廊下を歩く、廊下を歩いているといつの間にか横にヒスイが実体化して歩いており何処か怒っているように唇を尖らせていた。


「…なんだよ」

『なんも~?アユムさんったら誰にでも優しくしていい人ですね~、私そんな優しくされた事無いのに』

「いや相手は病弱な子供だぞ?そら優しくもするさ」

『次会う約束して?』

「…それは…」


本来なら断ってもいい、むしろ断るべき話である。

相手はどんなに無礼を許しても王族…アユムのような者が話すのも避けた方がいい相手だ、それでもアユムは断らず会うのを選んだ。


「……あの目向けられたらね、流石に」

『?』


ヒスイは薙刀に宿ってる為アユムと同じものを見ている訳ではない、その為アユムが見たまるで縋るような助けを求めるような目をしたヒストルを見てアユムは今夜と返した。


「…ま、夜は騎士団とか兵士に任せるから大丈夫だろ」

『そうだねぇ…と、人が来た』


廊下を歩いていると窓から見える向かいの建物に巡回している兵士の姿があったりなど意外と人がいる事を確認していると目の前からランタンを手に歩いているメイドの姿があった。

夜勤のメイドだろうか、あまり話しかけて邪魔するのもそもそも寝ないとやばいので少し横にズレて道を譲る。

ヒスイも姿を消しているのとメイド達はアユムがいる事は知ってる筈なので問題ないと思っていると何故かメイドが横にズレてアユムの前に来る。


「え?…あの俺に何か用でしょうか?」

「……」

「…?」


何もしゃべらないメイドに不思議に思っているとふと、目の前の緑髪が揺れたのが見えとある人物の顔が脳裏によぎる。


「あの…貴方は」

「申し訳ございません、ここで何をなされてるのでしょうか?」

「え?あー…ちょっと警備を」

「大丈夫ですよ、私は口は堅いので『言えますよね』」


目の前のメイドの目が淡く緑色に光ったような気がしてアユムは目を擦るが特に光った様子はない、気のせいかと思い口を開く。


「あぁヒストル王女の部屋に」

「何故王女の部屋に?」

「王城に入る為に入れる場所探してたらバルコニーの扉が開いてて…」

「なるほど、王城は広いですから仕方ないですね」

「困りましたよ…ははは」

「止めてすみませんでした、お気を付えてお部屋にお戻りください」

「いえいえ…あ、一応他の人に言うのは止めてもらえると…」

「えぇ大丈夫ですよ…あぁそうだ最後に」


王女の部屋にいたとバレれば打ち首ものである、メイドに言わないように釘を刺し部屋に戻ろうとするとメイドにまた呼び止められる。


「何です?」

「お名前を聞いてもいいですね?」

「あぁ富谷歩ですよ」

「歩様ですね、ありがとうございます…それでは」

「あぁどうもどうも」


歩いていくメイドを見て深く息をはく、ここで兵士にでも通報されたらカルロス王にどんな顔で会えばいいの分からない。

そんな風に思いながら歩いていると視界の上からヒスイがさかさまの状態で出てきて少し肝が冷える。


「お前はホラー映画の住人か?」

『幽霊みたいなものだからね…ところでアユム』

「ん?」

『何であの人にあの部屋にいた事を話したの?』

「え?…うーん…」


何故?と言われ言葉に詰まる。


「いや嘘ついてもあれかなって…?」

『なんで疑問形なの』

「いや分からん…」

『…はぁ、とりあえず部屋に戻って朝の準備の為に寝るよ』

「風呂入りて~」

『わがまま言わないの』


何か言いたげのヒスイが気になるがアユムはそのまま気にせず廊下を歩き部屋に辿り着く、朝は騎士団の鍛錬所に向かう必要がある…早めに寝る為そのままベットに飛び込み夢に意識を手放す。



──────────



カンカンに太陽に照らされながらアユムは早朝の騎士団鍛錬場に来ていた、王都にある騎士団の敷地はかなり広めに確保されており広い鍛錬場にアユムは感動はしていた。

問題は視界の外から刺さんといわんばかりの視線で見てくる数人の男達…アユムが夜中にボコった騎士達だ、そして更に反対側には何か言いたげだが話しかけてこないレオン…


「気まずい」

『まぁ回り回ってアユムが原因ではあるから』

「認めたくないがその通りだからなんも言えん」


原因は自分だと分かってるからこそこの場にいるのが気まずい、呼び出した本人である鎧をしっかりと着込んだロニは団員が集まったのを確認してザッと剣を地面に突き刺し腕を組む。


「集合!」


ロニの号令を聞き騎士達が集まってくる、まず来たのは白髪交じりの茶髪の男スタ…外見は50程度だろうか?かなり鍛えてるのか二の腕の筋肉を見てアユムは自分のと比べ少しへこむ。

その次にレオンとカーメル、そしてきっちりと鍛錬時の服を着ている騎士達が集まりその後ノロノロとやる気の感じられない男達が集まってくる…アユムを睨んでいた男達もいる事を考えると様々な場所から集まった騎士達だろう。


「…よし、集まったな?これより鍛錬を始める!今回…」

「団長さんよ面倒くさいから帰っていいか?」


鍛錬のメニューなのか伝えようとしたロニの言葉を遮りアユムがボコった男がヘラヘラしながら言う。


「……これは騎士として王を守る為の我が身を鍛える為の鍛錬だ、面倒などは相応しくない言葉だ」

「ハッ!何が守る為だ?守ることも出来ねぇ雑魚ばっかりがよ」

「貴様…!今までの無礼を団長が見逃していたというのにまだそのような…!」

「見逃したぁ?言えなかったの間違いじゃねぇか?王も守れねぇたかが奴隷以下の開拓者に後れを取った騎士が何が言えるってんだ?」

「……」

「なぁ団長さんよ、気に食わねぇのはそこにいる奴が誰なんだって話だ…神聖な鍛錬場によそ者を連れてくるのが王都騎士団の鍛錬ってなら俺らは好きにさせてもらうぜ」

「てめぇ…!」

「やめんかレオン」

「けどスタさん!」


怒りに顔が真っ赤になったレオンが拳を握り向かって行こうとするがスタがそれを止める、騎士団の戦力を強化する為に集められた騎士達…その殆どがあの襲撃時の化物達の事を実際に見ては無い。

どれほど後手に回ってしまったのかも敵が強かったのかも知らない、だがそれは実戦では通用しない言い訳である…それが分かっているからこそ元々の王都騎士達は何も言えず拳をただ握りしめる事しか出来ない。


「…確かに我々はアユム君達に救われたようなものだ、騎士として生かしてもらえてるだけでもカルロス王には頭が上がらない…そしてこうして鍛錬をするのは無駄なのかもしれない」

「団長!?」

「ハッ、良く分かってんじゃねぇか」

「…だがそれでも我々は剣を持ち自身を磨き続けなければならない」


そう言いロニは地面に刺していた剣を引き抜き空へ掲げる。


「しかしお前達も騎士ならば!民を守り国を守る事を心に刻んでいる筈だ!上を目指すことを諦めた者に騎士を名乗る権利は無い!」

「………ならどうするって言うんだ?」

「今ここで剣を抜け、そして自身を貫き通せ…そちらの剣が強ければ私はもう何も言う事は無い」

「…ハッハッハッ!いいぜ、前線を知らねぇ甘ちゃんのごっこ遊びに飽きてきたところなんだ!」


そう言うと男は剣を抜き、そして周囲にいた男達も剣を抜く。

そしてそれに応えるようにスタ達も剣を抜き…その目の前に遮るようにロニは剣を出す。


「形式はそちらは何人でも構わない、こちらは一人だ」

「な…!団長それはどういう…!」

「スタさんここは任せてはもらえないでしょうか、副団長として私の我儘を聞いてほしい」

「…はぁ…ロニ、説教は後でするからな」

「ありがとうございますスタさん、それでは全員準備せよ!」


そう言うと騎士達は一斉にばらけフィールドとなる鍛錬場の中央に簡易的な柵を作り始め、あっという間に場が出来上がる。


「はーすっご…問題事があれば剣でか…大変そうだな」

「ん?何を人ごとのように言ってるんだアユム君」

「ん?」

「こちらから出る1人は君だぞ」

「ん?」

「あの騎士達は君の実力を知らない、ここで君の力も示せて彼らの出鼻もくじける…一石二鳥だ」

「まってこれ普通はロニさん出るんじゃないの?」

「何言ってるんだアユム君」


と、ロニは眩しいくらいの笑顔を向けてくる。


「元々君の戦ってる姿が見たかったから私としても一石二鳥だ」

「………バトルジャンキーめ…」


元々男達に因縁を付けられている、戦う事でその因縁もここで切れるのではないか?

そう考えるがこの件に関わる必要がほぼない事に気づいてしまう、ほとんどロニの欲望である。


『うーん、完全な理由のほぼない巻き込まれ』

「…俺ちゃんと帰れっかなぁ…」


この調子だと何も関係ないのに命狙われかねない、騎士でもなんでもないアユムがロニ側で出ることになりアユムは天を仰ぐことしか出来ずにいた。

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