145話『またあの地へ』
2階に上がるとある廊下、その途中にあるギルトマスターの部屋…その扉をノックすると中から返事があり扉を開けて中へと入る。
「ごめんなさいね依頼から戻ったばかりなのに」
「いえ大丈夫です、それで俺に何か?」
「えぇ…ニック」
「はい」
椅子に座り机の上に積まれた紙束の中からセシリアの顔だけがギリギリ見え、その机の前に立っていたニックは持っていた紙を広げアユムに差し出す。
「これはつい数日前に王都から送られたものだ」
「王都から?……見せてください」
王都、その言葉に何かあるのは明白でありアユムは紙を受け取り両手で持つ。
背後からヒスイが実体化し覗き込んでくる。
『えー………小難しい言葉が並べられてると読みにくい…』
「要約すると『王都に来て欲しい』という話」
「王都に?またなんで」
王都からというのもあり内容かかなり硬い、解読を諦め紙をニックに返しセシリアの方を向く。
「貴方達が2ヶ月前に起きた事件を解決したのは覚えてるわね?」
「…えぇ」
「貴方達はそれもあってかなり王国から注目度が高い…それを前提として聞いてね」
「前置きが長いっすね…」
「まぁね…それでこの手紙には近々シャム・ホウハツ子爵が王都に来るそうなのだけどその警護で王城に暫く滞在して欲しい…との事」
「………なんかなんで俺にその話が来たのか分かった気がします」
「何でだと思う?」
「…ユリ達が王都にいないからですよね?」
現在王都にユリ達勇者はいない、ケッケイによる王都襲撃で騎士団や兵士達は現れた化物に太刀打ち出来ず敗北しかけた所をアユム達とユリ達によって救われている。
その事から貴族らや王国での安全を確保出来る人材が騎士団と兵士では足りず、勇者一行がいない今候補に上がるとすればアユムである…その答えを待ってたと言わんばかりにセシリアは指パッチンする。
「ご名答、勘が良くなってきたんじゃない?」
「…その子爵さんはそんな守らないといけないんです?」
「こら、仮にも貴族なんだからそんな口使わないの…それなんだけどシャム子爵はどうやら教国と共和国と帝国に太い繋がりがあるらしくて王国でも無視できないレベルの人なの」
「三ヵ国と繋がりがある!?そんな凄い人が…確かにVIPと言われても納得しちゃう人ですね」
「一度だけ会った事があるけどいかにもな人よ、何というかずる賢いっていうか」
「セシリアさん相手貴族っす」
「あ、ごめんなさい」
「…あのシャムとかいう男は気に食わん」
突然、静観していたニックが口を開きびっくりしながらもその内容が気になりアユムはニックを見る。
「え?」
「…あの男はセシリアを獣風情がと言ったんだ」
「ちょっとニック、昔の話でしょう」
「俺達の仲間をそのような風に呼ぶ男を好きになれと言う方が無理な話だ」
「…ちょっとまってあの時町を離れる時シャム邸が爆破されたって話聞いたけどもしかして」
「俺達がやった」
「聞いてないんだけど!」
「言ってないからな」
二人は昔の事を思い出したのか慌てた様子とムスッとした顔をするニックを見るにどうやらシャム子爵は地雷を踏みそのまま起爆させてしまったらしい、苦笑いしながら話を聞いていると背後のヒスイが腕を組む。
『その話だと獣人嫌いっていうか見下してるみたいだけどよく交流持ててるね』
「…一応貴族だからな、表では仲良くするくらいやるだろう」
『そんなもんなのか~…』
「コホン、とりあえず話を戻すわね…アユムの言う通り勇者が居ない今一番信頼があるのはアユムらしいわ」
「うーん名誉と受け取るか面倒な立場になったというか」
「普通は王族どころか貴族に関わらず終わる冒険者と開拓者もいるから名誉な事よ?」
「うーん…」
国王と繋がりが出来た、その事が大きく忘れそうになったが逆に言えば面倒な話が転がり込んでくるのもあり得る話であり現に今それが起きている。
「…分かりました、んじゃ仲間達と準備して出発の準備します」
「あー、ちょっとまって」
「はい?」
兎にも角にも王都に行くとなれば仲間達をまた連れて行く必要がある、いつ出発か分からないがアユムは一度家に戻ろうとするとセシリアから待ったがかけられた。
「なんです?また王都に行くとなると準備が…」
「…ごめんなさいなのだけど今回はあなた一人だけ指名されてるわ」
「え?……へ?え、ちょ…な…なんだって!?待ってください!俺だけ!!??」
「手紙にはアユムだけ来るようにって書いてあるの」
『え?私もお留守番?』
「ヒスイは大丈夫だと思うわ」
『良かった~』
「良くない!セシリアさん知ってるよね俺の活躍は仲間ありきだって!」
「アユムも結構強くなってると思うけど…」
「そういう問題じゃないよぉ!」
予想外の言葉に思ったよりも動揺しアユムが目を回しているとニックがアユムに近づき肩に手を置く。
「落ち着けアユム、恐らく国王もわざとアユムだけを来させようとした訳ではない筈だ」
「つ、つまりどういう?」
「…恐らくアユム一人じゃないと難しいのかも」
「セシリアの言う通りだ、今の王都は先程言った通り勇者がおらず騎士団と兵士の信用が低い…そこにアユム君だけが来るように言われているのは二つの要因がある」
「二つ…?」
「あぁ、一つは騎士団と兵士のメンツを保つためだ」
メンツ、騎士団も兵士も王都を国を守るために日々鍛錬を積んでいる…そしてその二つが王都襲撃で特に手柄を立てれず信用を落とす事となりそこにアユム達が来たらどうなるか。
「騎士団や兵士達の士気を下げることになり彼らのプライドを傷つける事になる…それは避けなければならない」
「…確かに…」
「そして二つ…特にこれは大きな要因ではあるだろう」
「大きな要因…?」
「…君達が冒険者と開拓者だからだ」
「そう…ですよねぇ…」
何となくわかっていた事ではあった、アユムも薄々と冒険者と開拓者の貴族らからの見られ方立ち位置というのは感じていた。
授与式の後にあったパーティーで出会った貴族達は全員『四魔獣を討伐した英雄』として接してきており誰も『冒険者と開拓者』として話しかけて来てはない。
「まぁ分かってたので別にいいですけど一応俺達四魔獣倒したし襲撃事件解決者達ですよ」
「それでも溝が埋まらない、という事なのよねぇ…彼らからしたら私達野蛮な者達だし…」
「……せめてアミーラだけでも連れていけたらと思ったけど無理だよな…」
この世界から来た時と比べれば確かにアユムは強くはなった…が、それでも今でも仲間達がいなければここまで来れてない。
その為せめて魂を…スキルを分けた相棒のアミーラがいればと思うがアユムだけを指名されてはどうしようも出来ない。
『私がいるから安心しなよ~』
「いやまぁ…君俺が魔力切れ起こしたらどうするの?」
『…アユムなら何とかなる!』
「…頑張るかぁ…」
「ごめんなさいね、それじゃすぐ連絡は行くから明日にでも行けるけどどうする?」
「あ…1日だけ休み欲しいっす…」
こうしてアユムはまた王都へと向かう事になる、だがまだこの時は気づいてはいなかった…まさかあんな結末が待っているなんて…