141話『十人十色』
夕日が沈みかけている夜の小道、建物と建物の間であるからか少し風が吹いて冷たく薙刀を持ってくれば良かったとしみじみ思っていると小道に誰かがやって来る。
「すまない、少し遅れたか」
「いや大丈夫だ…あったけぇ」
小道にやって来たダガリオが持って来た白湯が入った水筒をコップに入れ飲みながら更に1つを手に取る。
「ほらマミリさんもどうぞ、体冷えますから」
「………」
ダガリオが買った服を着て多少の防寒着を着ているマミリは壁にもたれかかっており、アユムの手にある差し出された白湯の入ったコップを受け取る。
「…ここだったらまだ普通にしていいですよ?」
「そ、そうか?な…なら…」
付け焼き刃ではあるがリードによって言葉遣いを叩き込まれたマミリはボロを出さないように黙っていたがむしろいざと言う時にボロが出そうであり緊張を解す為に普通に話すよう促す。
「だ…大丈夫だろうか?何処か変な所ないか?」
「大丈夫ですって安心して下さいよ」
「アユムの言う通り、自信を持ってください」
「そう言われても…今までこんな…それにモルに迷惑が…」
「毎日結婚迫るのに???」
「それは…まぁ…いいんだ」
「いいんだ…」
マミリの言葉に白い目を向けていたアユムだったが少し考えるように顎に手を当てマミリを見る。
「そう言えば聞きたかったんですけど」
「なんだ?」
「マミリさんってなんでモルさん好きになったんですか?」
勇者が来る前にカンミールから聞いた時は一目惚れと聞いていたアユムだったが、本当にそれだけなのだろうか?と考えての言葉だがマミリは少し頬を赤くしてモジモジし始める。
「…笑らないと誓ってくれるか?」
「まぁ笑いはしませんよ、なぁ?」
「そこまで腐ってはない…だが言いづらいなら言わなくてもいいと思うが」
「いや…ここまでやってもらい言わないのも失礼だろう」
色々と手伝ってくれているアユム達だからかマミリはモジモジしながら口を開く。
「…最初私が来た時この町の権力者達と父上が話してる時何人かの男達が話しかけて来たんだ」
「男達?」
「恐らく他ギルドの幹部や権力者の息子等だろうな」
「その通り…私に伴侶がいないのは知られてたのだろう、次々と寄ってきてな…私だってもう21だ…そろそろ決めなければならないとは思っていたがいまいちピンとくるのがいなくてな、ま…父上の言う通りに伴侶を見つけてなかった私が悪いんだが…」
「(21でもうなのか…やっぱり現代と感覚が違う……のは当たり前か)」
常識も考え方も違うこの世界で現代の物差しで測ろうとしていた自分にアユムは呆れる。
「…だが言い寄って来たどいつもこいつもクリラスラの名だけを見ていてな、まるで私はクリラスラのおまけのようで馬鹿らしくなった」
「…貴族等によくある問題だ、家の為組織の為利用できるのは何でも使う」
「…父上の代で大きく成長したクリラスラの名を欲しがる者は多い、私はその時どうあしらうか考えていると……」
「モルさんと出会ったと」
「…あぁ」
商会とギルドの話し合い、その場に警備の依頼を出していたのならモルがマミリと出会えるのはしっくりくる。
「モルは間に入り男共を撥ね退け…私に話しかけてきた」
「………」
「今思えば結構焦っていたのか噛んだりどもったりしていたが、私を真っすぐと見てくれたのはモルだけだったんだ…私は一瞬で心を奪われてしまったよ」
「…なるほど」
「ふっ…単純すぎて馬鹿な女だと思うか?」
「どうやって好きになるかは人それぞれだから俺は素敵だと思いますよ、な?ダガリオ」
「ここで僕に振るか………恋というのは当人と相手の問題、それにとやかく言える者はいませんよ」
「…そうか」
十人十色、理由はそれぞれ、それに文句をいえる者なんていないのだ…そう考えていると小道に入口に誰かがやって来る。
「待たせたな、そろそろ来るぞ」
「準備はいいかい?マミリ」
「は、はい」
現れたのはカンミールとミルマであり話を振られたマミリは緊張した面持ちで小道を出て…目の前に見える街灯の下に小物が入った小物入れを手に立つ。
それを移動して物陰から頭だけ出しながらアユム達は身を潜める。
「しかし時間かかりましたね」
「あぁあいつの服とか金とか色々用意してるのを監視してたらな…」
「…しかし自分で言っててあれですけどよく今夜の誘い来る気になりましたねモルさん」
カンミールとミルマが居なかった理由はマミリからの今夜の食事の誘いの手紙を自然に読むようにする工作する為であった。
そんな事を思い出しながらカンミールに尋ねるとカンミールは真剣な目でマミリを見る。
「モルだって漢だ、女の誘いを断る程腑抜けてねぇさ」
「結婚は断るのに?」
「それとこれは話違うだろ?」
「そうかな…」
「そうですよアユムさん」
「ピィア!?」
突然背後から声が聞こえ変な声が出てしまい慌てて口に手を当て周囲を見るが奇声に驚いてるマミリ以外いる様子はなくホッとして背後を見ると昼と変わらない白い服を着たリードがアユム達の背後でコソコソ…とマミリを見ていた。
「り、リードさんびっくりさせないでください…」
「ごめんなさい驚かそうとは…もうモルさんが来てるのだと思ってて」
「まだ来てねぇが…気づいてたかミルマ?」
「いや私も気づかなかったよ…シスターあんた何者?」
「わ、私昔の仕事でコソコソする必要があったのでその癖が…ごめんなさい」
「いや良いんだが…」
孤児院の事もあるリードだったがこの件の結末が気になるのか孤児院をサヨとポメに任せて来たらしい、集まったメンツでモルが来るのを待っていると…ダガリオが何かに気づき顔を向ける。
「…来たぞ」
「お、どれどれ」
姿を確認しようと目線を向け…アユムは絶句する。
何故ならモルの服装は冒険に行く時のであり立派なローブを身に着けていた。
「か、カンミールさん?ミルマさん?」
「俺達は冒険者と開拓者だぞ?そんな立派な服なんて持ってねぇよ」
「ま、私達の正装とも言えるからいいじゃない?」
「それはそうですが…」
「まぁあのローブも特別な素材で作られている筈だ…悪くは無い」
そんな会話をしているとモルがマミリの元に辿り着き遠くから二人の会話が聞こえてくる。
「すまない待たせたかな?」
「…いえ、私も今来たところです」
「え?あ、あぁすまない…なんでもない」
「ふふ…立ち話もあれですし…行きますか?」
「そ…そうだね」
朝とまったく違う話し方にモルが度肝を抜かれたようにポカーンとしておりマミリの言葉にハッとなって二人は歩き始める。
目指すはエレファムルにあるレストラン、その後に続きアユム達もコソコソと移動を開始する。