14話『異物VS使徒』
話し終えたリサは何も喋らない、アユムもどう話し出すか迷っていた。
明らかに話の中に出てきた魔具と呼ばれる物…それはこの世界では異質な物…『異物』である。
「…頼む、あんた冒険者?なんだろ?父さんを助けてくれ…!」
縋ってくる少女の顔は必死であった、もう誰も頼れないのだろう。
ギリギリの状態で出会った人間…会っても殺してこないひとまずは安心出来る者…頼らざるを得ないという状況なのだろう。
「…分かった、だが俺の仲間と合流してからだ」
元々、アユムとアミーラがこの世界に居るのも開拓者になったのも前文明の異物なるものを破壊する為である。
話に出てきた拳銃は明らかに破壊対象に入る物だ、ここで断ったとしていつかは巡り会う運命にある。
「…まだ信用出来ない」
「安心しろ…は無理だろうが2人はお前を殺そうとはしてこないよ」
「…なら…いい…」
「ならまずは合流しなきゃな…確か…」
ひとまず立ち上がり周囲に目立つものが無いか探そうとした瞬間…突如激しい頭痛と足がふらつく。
「お、おい大丈夫か?」
突然立ちが上がったかと思えばふらつきだしたアユムにリサは不安そうな声を出す。
当のアユムはそれどころではない、この感覚に覚えがある…それは初めてこの世界に来た時ゴブリンに襲われてた際に出くわした巨大なゴブリンが持っていた物…
「リサ!」
「!?」
咄嗟にリサの手を掴み引っ張ろうとするがふらつく足が言う事を聞かず、覆い被さるように倒れてしまう。
その瞬間、背中に強い衝撃と鋭い痛みが走る。
痛みに耐えながら確認すると…装飾はされてないがかなり良い短剣がアユムの肩甲骨辺りに突き刺さっている。
「あ…ぁ…」
「大丈夫だ!刺さった程度で死なない!」
覆い被さっている為、背中から垂れた血がリサの顔に付いてしまう。
アユムの読みが正しければ話していた庇った吸血鬼達と重なったのだろう。
ひとまず自分以外の怪我が無いのを確認して短剣が飛んできた方を見る。
月が頂点からゆっくりと落ちている、その月を背景に1人の影が高台の転がっている大岩の上にあった。
腰から新しい短剣を取り出し、左手に短剣…そして右手に何かを握る影は何処か人形のようにだらんとした雰囲気がある。
「どうして分かった…特に騒いでも無いだろうが!」
「…血だ、私があんたの腕に…」
「だぁ!吸血鬼だったな!」
傷口は止血してるが血は止まった訳では無い、巻いている布に染みてる血やそもそも地面に垂れた血は拭き取ったりしてた訳では無い。
だが
「だからって広大な場所から見つけ出せる…偶然か?」
リサは長いことさまよってる、後を追うのは難しいだろう。
モンスターの行軍の痕跡を辿ったのなら分かるがだからと言ってそんな出会えるだろうか?
もしくは
「俺の頭痛と関係ある?まさかね」
1回目はゴブリンが持っていたナイフ、あれも良く考えればこの世界に似つかわしくない現代にあるナイフだった。
この頭痛は『異物』と遭遇するする時、もしくは近くに来た時に生じるものではないのか?
様々な疑問が出てくるがひとまずは目の前の事だ。
「リサ、飛べるか?」
「あ、あぁ…だけど何処に飛ぶかは…」
「いいから!まずは距離を…」
こんな障害物もない場所ではいい的である、どうにか立たせた瞬間爆音が鳴り響く。
ゲームをやっていた時に聞いた事ある銃声…その瞬間、突然景色が変わり足が空を蹴る。
アユムとリサは空中にいて、居た場所には何かが弾けるように地面を抉っており紙一重だったらしい。
「落下どうする!?俺多分足が逝くんだが!」
「待ってろ!今…集中してっから!」
高台から横にズレて下に木々が広がっている空中に居たアユム達は自由落下を初める。
最悪木がクッションになればと思っているとまた景色が変わり次は地面から2mの高さに移動していた。
どうにか着地するが、着地した衝撃で背中の短剣が僅かに傷口を広げ短い悲鳴が出る。
「大丈夫か…?」
「…大丈夫大丈夫、っと」
背中の短剣を掴み、勢いよく抜く。
「な!お前抜くな!出血が…」
「いや、大丈夫…都合がいい体になってきたな…ほんと…遭遇して元に戻ってきたのか…今度は慎重にやるさ」
傷口から多少の出血…だが血が溢れる事は無く傷口が少しずつ…少しずつ塞がっていく。
そしてアユムの体はいつもよりも軽やかだ、まるでスポーツ選手になったように体が軽い。
「合流はする、そしてリサの父親も相手する…同時にやるぞ」
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森の中を走る2人の影、木々を通り抜け根を飛び越え岩を横切る。
「おい!何処向かうんだ!」
「俺に付いてきてくれ、闇雲に走ってる訳じゃない…もう追いついてきたか」
走るアユムとリサは後方から同じく走ってくる音を確認する、このまま走ってはいずれ追いつかれてしまうだろう。
「リサ、これを」
「…これ」
「さっき俺の背中に刺さってたやつ、君のお父さんのだけど使えそうなのがこれしかない」
「……分かった」
全部は言わない、アユムは万能ではない。
身体能力が戻ったと言っても人間の範囲には収まる、必ずは出来ない…だからこそ短剣を渡す。
「それにこれは精密に狙う事は無理だから…な!『消滅』!」
振り向き腕を構え指を向ける、スキルを発動すると同時に岩や木を巻き込みながら消滅の攻撃が伸びる。
だが当たった様子はなく、少し開けた空間が生まれその姿が現れる。
見た目は髭と茶髪の髪、穏やかそうな雰囲気がある中年の男だ…だがその目には生気は無くズボンや外套にこべりつくように乾いた血が付いている。
「…随分殺ったらしいですね」
「………………」
「……貴方がカルソンさんで間違いない…ですね?」
「…………」
反応はない、答える代わりに右手の拳銃を向けてくる。
その拳銃は黒い霧が漂ってるようで形がよく分からない、そして脈打つように赤く淡く光っている。
その様子はまるで心臓を彷彿とさせる用で…命を吸ってるように感じる。
「あれがあるせいで…父さんは…」
「リサ慎重に行くぞ…もしあれが吸血鬼特攻の武器ならお前が一番危ない」
撃たれればアユムもただじゃすまないが吸血鬼達を葬ったとされる銀の弾丸を飛ばす銃…リサに当たれば即死だろう。
「…………『…』」
「ん…?」
突然、カルソンが何かを言う。
だが聞き取れず反応を待っているとその声は少しずつ聞こえてくる。
「『……主を葬れ主の下僕を吊し上げろ『ダジ』を堕ろせ!』」
「ッ!ダジ?今…」
聞いた事がある、と言うよりも知っている名前が突然出た事に動揺してしまい反応するのが遅れてしまう。
3回、発砲音と共にリサに2発…アユムに1発飛んでくる。
「『消滅』!」
判断している余裕は無い、弾道を読む暇も無い…広範囲に放つイメージでリサとカルソンの間に消滅の攻撃を放つ。
あまりにも広大に広げてスキルを使った為かなりの疲労がドッと押し寄せてくるがリサに飛んでくる弾丸は消せた。
だがアユムに飛んできた弾丸はそのままアユムの腹部に貫通し後方に抜けていく。
「お、お前…!」
「ぐっ…てぇ…大丈夫…だ!」
痛みを堪え、持っていたナイフを片手にカルソンに接近する。
リサは動けない、ナイフを持って立ち尽くしている…父親に武器を向けるのが怖いのだろう、だから少しでもこちらに注意を向ける事が必要だ。
「こんな事なら格闘技習っとけば良かった…なっ!」
アユムの方に拳銃を構え撃とうとした手に蹴りを飛ばすが避けられてしまう。
痛む傷を騙し騙しにいつもなら出来ない、言うなれば喧嘩レベルの蹴りや拳を振るう。
今の身体能力は始めてこの世界に来た時と同等レベルまで底上げされている、スキルもエレファムルで使った時より疲労が少ない。
「早めに決着を付けるッ!」
この現象がどういう理屈で起きてるのかが分からない以上、いつ元に戻るか分からない。
元に戻ったら最後…アユムは虫を潰すよりも簡単に敗北するだろう。
だがアユムには異常な程治癒能力が高まっており、撃たれた腹部も塞がり始めている。
「(これもダジからの恩恵か?有難いが痛いもんは痛い!何度もくらったらショック死する!)」
歴戦の猛者等なら痛みを気にせず戦えるのだろうが一般人のアユムにはそんな芸当はできない、カルソンの素早い攻撃は食らってしまうが拳銃の射線は分かりやすいのが唯一の救いだろう。
「あっぶね!くそっ、近づいても短剣がウザすぎる!」
片手に拳銃、片手に短剣で中途半端の距離感だと撃たれる恐れがある。
拳銃がそう簡単に当てられるかはアユムには分からない、だがもしも当たった時のリスクが高すぎるせいで遠距離戦に持ち込めない。
短剣を避け拳銃を構えようとした所に一気に近づいてナイフで切りかかる。
構える流れで繰り出される蹴りをしゃがんで避け飛び上がるように突進する。
「くらえや!」
しゃがんだ際に手に握った土をカルソンの顔に投げる、突然の目潰しに目をつぶる。
生物的反応はするのを見るに操ってるというよりも乗っ取っているというのが正しいのだろうか?
ただアユムの目的はその反応を見る為ではなく他にある。
「かかったな!『消滅』!」
目をつぶるならアユムの動きが少しの間見えなくなるという事、そしてスキルの標的は握られている拳銃である。
リサの話ではこの拳銃がこの一連の元凶なら破壊すればカルソンは元に戻るかもしれない。
指先から真っ直ぐレーザーのように飛ばすイメージで消滅の攻撃を飛ばす。
だが拳銃が破壊される事は無かった、逆にアユムがスキル使用時の疲労を感じる事も無かった。
「なっ…ぐっ!」
呆気にとられているとカルソンの回し蹴りに気づかず、ロクな防御も出来ずに吹っ飛ばされ巨大な岩に背中から叩きつけられる。
背中に激しい痛みと叩きつけられた際に頭を強打して意識が朦朧とする。
頭から血が流れどうにか意識を保とうとするが視界の端に何かが見え…次の瞬間銃声と肩に激痛が走る。
「がああああぁ!痛ってぇぇぇ!!!あぁぁ!」
肩の骨で止まったのか弾は貫通していない、痛みで意識が覚醒し一気に全身の痛みが脳に送られ激痛で動けなくなる。
「(くそくそくそ!何でだ何で発動しねぇんだよ!)」
疲労感はない、スキルは発動する筈なのに消滅は発動した形跡はない。
そして最悪な事に気がつく。
「ふぅ…ふぅ…いっ……力が…抜けていく…?」
撃たれた肩を中心に何かを『削られた』かのような感覚に襲われる。
まるで体内から力を吸い取ってるかのように。
「(俺は吸血鬼じゃない、撃たれたら銀の弾丸のせいで死ぬ吸血鬼の弱点……まさか)」
出ていく血液のせいで脳が働かなくなっていく中、視線を向けるとカルソンが銃をアユムに向けていた。
そして…その間に立つようにリサが震える手で短剣を構えていた。
「リ…サ…」
かなりの距離があるがカルソンは構わず発砲する、だがその弾丸はリサに当たらずアユムがいる大岩に当たって地面に落ちていく…その弾丸は銀色に輝いている。
更にもう1発発砲された弾丸はアユムの顔の横に命中し、地面に飛んでいく。
その弾丸は黒く他の色が混ざり禍々しい色をしていた。
「(…狙った相手によって弾が変わってんのか…便利だな…)」
狙って当てれない為か、カルソンは構えながら近づいてくる。
この場面は見覚えがある…あの頃と同じような場面だ。
「リサ…」
「……すまねぇ…やっぱり私には…」
生気を感じさせない表情を除けばカルソンは生きてるように動いている、勇気を出して動いたが対面してしまったばかりにその心は挫けてしまったようだ。
短剣を落としてしまい、リサは膝から崩れ落ち座り込んでしまう。
体が動かずアユムには何も出来ない、ただカルソンがリサに拳銃を向けている事を眺める事しか…
「『攻撃を開始します』」
何かに気づきカルソンはその場から大きく飛ぶ、すると立っていた場所に爆発のような攻撃が何度も何処からか飛んできて地面を抉る。
「はあぁぁ!」
着地したカルソンに追い打ちをかけるように何者かが武器を振るい切りかかるが、短剣でガードされ数度火花が散りお互いに距離を取る。
木々を通って誰かがアユムに近づいてきて、目の前までやってくる。
「遅れましたか?アユム」
「いや…ばっちりだ…今度は誰も死んでない」
「それは良かったです、状況は分かりました…後は任せてください」
そう言うと紫髪の少女は周囲に浮かぶ『砲』を従え息を大きく吸い深呼吸をする。
「『プログラム起動、対象確認、安全装置解除、これより対象を殲滅します』」
アユムの残りの仲間、アミーラとダガリオが戦闘に参加する。