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文明開拓のすゝめ  作者: パル
136/395

136話『それぞれの歩み』


あれから1週間後王都全体を巻き込んだ事件はケッケイの死と共に終わった。

だがこの事を知っているのは1部の者達しかいない、騒ぎの主犯であるケッケイはこの騒ぎに現れた化け物によって死に…犯人は『デス・チェイサー』という事になった。

デス・チェイサーは稀代の魔術師であり王都全体を使って大魔法を使おうとした…


「そんな訳ないけど、半分本当なんだよな」

『王都全体を使って神を作り出そうとしてたって言えないしあのケッケイ伯爵が犯人って言う訳にもいかないらしいし、仕方ないね』


ケッケイを犯人として国民に伝えるにはあまりにもケッケイの功績が大きくそして親しまれていた、だから王国はデス・チェイサーを犯人として公開処刑を決行する事で国民の不満等を1度落ち着かせていた。


「アユム、君達のお陰で被害が少なく終えた…感謝する」

「いえ、俺は当たり前の事をしただけです…国王陛下」


ここは国王の寝室、部屋にはカルロス国王とアユムとヒスイしかおらず話があると呼ばれ来ていた。


「それで国王陛下、お話とは…」

「うむ…今回の件の感謝もあるが君を呼んだのは他でもない、ケッケイ・シュールがヒゥルリ帝国方面に隣接している領地を管理している事は知っているだろうか」

「…一応は」


王国と帝国は隣同士でありそれも相まって戦争や小競り合いが絶えないがケッケイが表に出てからそれもめっきり減ったらしく、これもありケッケイが犯人として上げられない理由でもある。


「ケッケイは事故死として扱ったが、あそこを欲しがる者は多い」

「…?ケッケイ家のご子息が後を継ぐのでは?」

「……ケッケイ家は今回の件の責任を取る事で議会では一致し、残さず処刑する事となった」

「なっ…!?」

「既に2日前連絡を送り確保が済んでいる」

「…国王陛下、お尋ねしたい事が」

「申してみよ」


頭に過ぎるケッケイの言葉…それを思い出しながらアユムは目を細める。


「…ケッケイ・シュールには娘さんが居たらしいですがその子は…」

「ケッケイ・スズランの事か…報告では彼女1人だけ見当たらず行方不明らしい、ケッケイ・シュールが持っていた資料が全て復元が不可能にされてるのも発見されたという話もある、恐らく何者かが燃やしたのだろうが…その何者かに連れ去られたのだろう」

「…そう…ですか」

「…何かあったのか?」

「いえ、お気になさらず」


ケッケイに頼まれていた事、守れそうにないと考えながらアユムは国王の目を見る。


「それで…ケッケイ家は根絶やしにする事を伝える為に呼んだんですか?」

「話を急かすなアユムよ、まだ話はある…ケッケイ家が無くなり空いた領地の座をアユム、君に頼みたいと思っている」

「…俺が…?」


領地を治める…それは日本で言うならば大名、この世界で言うには貴族になれと言っているようなものだろうか?

アユムは一瞬考え…カルロス国王の目を見る、その目は国王の時のような力強さは無くアユムはホッとして頭をかく。


「すみませんが俺はただの開拓者…領地を貰うような者ではありません」

「………君ならそう言うと思っていた、仕方ない信用なる者に管理を任せ新たな者を探すとしよう」

「しかし何故俺なんかをそんな大事な場所の領地に…」


隣国と繋がっている領地、重要じゃない訳がない場所をアユムのような素性もよく分からない者に任せようとする。

普通に考えれば頭でもおかしくなったのではと疑う判断だがカルロス国王はため息をつく。


「…今回の件、ケッケイ・シュールという者が現れた事によって国内の貴族に疑心暗鬼が生じている…かく言う私も信用出来る者はひと握りでありその1人が君だ」

「俺が…」

「もしも今帝国に攻められた場合、他方面にいる者達を集めるまでの間被害が計り知れない…そんな事はあってはならないが今この状況では慎重に選ばざる負えない」

「…なるほど…申し訳ございません」

「いや、よい…君達のお陰で王都は守られた…今度は我々が国を守る番だ」


そうこう話していると、部屋の扉がノックされる。


「なんだ」

「失礼いたします、飛行船の準備が終わったとの事です」


一週間、滞在するにはそこそこの日数だ…アユム達はある程度の復興作業を手伝い開拓最前線の町エレファムルに戻ろうとしていた。


「ふむ、アユム引き留めてすまない」

「いえ…また何かあれば呼んでください、すぐに向かいます」

「そうさせてもらおう、もしかしたらスグ呼ぶことになるかもしれんな…ハッハッハッ!」

「そうならないよう祈ってます…それでは」


頭を下げ、アユムは部屋を出てメイドの案内で外へと向かう。

部屋で一人になったカルロスは目を閉じて大きくため息をつく。


「…救済か、ケッケイ…お前は何が見えていたんだ」


ケッケイの言葉を思い出しながらカルロスは次の仕事を思い出し憂鬱な気持ちで立ち上がり、使用人を呼ぶベルを鳴らしカルロスは今後の事を考える。







王城を出てアユムは飛行場がある場所に行くため馬車に乗り込もうとしてふと目線を感じ王城を見る。

王城はかなり大きく何処から目線を感じたのか分からず気のせいだと思いながら馬車に乗り込みアユムは王城を後にする。

とある一室、そこの窓から外を見ていたひとりの少女は咳をしながらも外を眺め入って来たメイドが慌てて駆け寄る。


「ヒストル様!」

「ごほ…ごほ…大丈夫よホァン、今日は体調がいいの」

「そう言われましても…」

「…ねぇホァン、あの馬車に乗った方はどなた?」


少女が指を向けた先には王城から離れていく馬車があり、ホァンは来客と出ていく者達を照らし合わせてアユム達の事だと分かり先程国王の寝室に向かっている事を思い出す。


「あぁ、恐らくアユム様の事ですね」

「あゆむ…?」

「はい一週間前の事件を収束させたエレファムルの開拓者です」

「…あの方が…」


遠くなっていく馬車を眺めながら少女は手に持つ本を抱き締めどこか眩しいものを見るように見つめる。


「…アユム様…私がこんな体じゃなかったら…」


何かを言うがホァンには良く聞こえず、今日の支度をする為仕事を再開する。

少女の名はロウハワード・ヒストル、カルロスの娘でありこの狭い一室で過ごしている少女であった。



──────────



馬車を降りて荷物を運んでもらっているのを眺めながらアユムは後ろを振り向く。


「すみません色々と手伝ってもらって」

「おいおい兄弟、水くせぇぜ?命の恩人と国の英雄が帰るっていうのに何もしないのは漢じゃねぇ」

「そうそう、俺達が勝手にやってることだからよ気にすんな」


お土産等様々な物を部下達に運ばせながらスティーブンとソフィアはサングラスを外す。

この一週間ウィードの面々の助力もあり王都の復興は予定より早く終わる兆しがあり、アユム達が一週間で帰れるのも彼らのおかげであった。


「しかしテコッタさん来ねぇなぁ、急がねぇと行っちまうぞ」

「まぁあの人自由人ですし…あぁほら噂したら来た」


荷物を運搬しているのを眺めながら短いツインテールを揺らしテコッタが眠そうに欠伸をしながら向かって来ていた。


「やぁやぁ、眠ってたらこんな時間だよ~」

「すみません…ただ無理せず寝てても良かったんですよ…?」

「そー言う訳にもいかないんだよ、アユム君こっち来な」


隣まで来るとテコッタは突然アユムの襟を掴み上半身を下げ肩を組み少し皆とは離れたところへと連れて行く。


「な、なんですか?」

「おやドキドキしちゃったかな?私も罪な女だねぇ」

「帰っていいッスか」

「まぁまぁ落ち着きな?これ、返しておくよ」


そう言いテコッタは何かをアユムの小物入れに押し込みチラッと見えたそれにアユムは目を開かせ驚く。


「え、もしかしてもう…」

「いやぁ…骨が折れるような作業だったよ、ただねぇ何でか治ったけど使い方が分からなくてさ…何かが足りないのかもねぇ」

「…やっぱりですか」

「ま、壊れては無いから後は使い方だね…いやぁいい物見させてもらったよありがとね」

「いえいえ…こちらこそ」

「おーいアユム!ユリ達来たぞー!」


コソコソ話しているとリサの声が聞こえ振り向くとユリ達の姿がありアユムはそそくさと受け取った物を小物入れに入れ元の場所に戻る。


「良く来れたなユリ、忙しいんじゃなかったのか?」

「…意外と暇を作るのは簡単なのだ」

「アユム達の見送りをさせてくれと懇願してやっと15分だけ時間を貰ってだな…」

「あぁ…」


サリアが頭を抱えユリは下手くそな口笛を吹きアユムは察して苦笑する。

ユリは勇者だ、まだまだ国民達に認知されておらずあわよくばこのタイミングで知れ渡らせることが出来れば…と復興作業を率先してやっていた。


「そういえばユリ達はこれからどうするんだ?」

「…私達は一応勇者だから」

「一応って…」

「…数日は王都にいるけどまた旅に出るよ」

「そうか…となるとしばらくは会えそうにないな」

「…サリアがアユム成分求めて死にそうになるかもだから高頻度でエレファムルに行くかも」

「ゆ、ユリ様!?」

「ははは…」


ツッコミにくい話にアユムは苦笑いしていると…その後ろに居たシインと目が合う。


「や、もうマントはいらないのか?」

「…もう前までの私のままでいる訳にはいかないので、私も勇者一行の者ですから」

「そっか…」


復興作業で一番名前を聞くのはシインだった、それは元々の知名度もあるがシインは朝昼晩どの時間でも怪我人や復興作業の為に走り回っているのを見るからであった。

そんなシインを国民達は改めてこう言った、『聖女』と。


「もしもの時はユリとサリア頼るんだぞ、もしくはまた俺に話な…死なない程度に手を貸すぞ」

「ふふ…大丈夫ですよ」

「ならいいんだが」

「…二人仲良くなったね」

「そうか?」

「うん、ちょっとジェラシー」

「ゆ、ユリ様!?」


突然、ユリはシインに抱き着きシインは顔を真っ赤にして生まれたての小鹿のようにプルプル震える。

あの日を境にシインはかなり変わった、まだ初めての人は緊張して下を向くが知り合いならオドオドしなくなっている…良い変化だと思いながら眺めていると誰かに肩を叩かれ振り向くとアミーラが立っておりその後ろに荷物を持った仲間達がいた。


「アユム、準備が終わりました…帰りましょうエレファムルに」

「おう…んじゃまたな勇者一行!」

「…また」

「今度会った時にまた剣の腕を見てやる、それまで鍛錬は続けるんだぞ!」

「アユムさん!ありがとうございました!また会いましょう!」


三人と別れを告げアユム達は飛行船に乗り込み…飛行船がゆっくりと上昇を始める。

離れていくユリ達を王都を見ながらアユムはため息をつきながら椅子に座るととなりに誰かが座る。


「町に帰るまでが旅行だぞアユム」

「いいじゃん疲れたんだからさぁ…ダガリオ」


足を組み、大窓の外に見える景色を眺めながらアユムとダガリオはボーっとしているとふとダガリオが思い出したようにアユムを見る。


「そういえばあの獣人と男が居なかったが別れの挨拶は良かったのか?知り合いになったんだろう?」

「あー…まぁいいよ、どうせ生きてたらまた会えるし…それに」

「それに?」

「……表に出てこない方があいつらも良いだろうしな」



──────────



夜の王都、復興作業が進みある程度元に戻りつつあるが元に戻ったわけではない。

夜の路地を走る女性は転びそうになりながらも後ろを見ると謎の男に追いかけられていた。


「だ、誰か…助けて…!」


叫ぶが人の気配はしない、急いで走り小道を曲がると…行き止まりに辿り着いてしまう。

左右見ても道は無く…背後から気配があり振り向くと小汚い男が息を荒げながら女性を見ていた。


「や、やだ…!来ないで!誰か!」

「呼んでも来ねぇよ、駄目だぜこんな夜中に女一人でよぉ…?わるーい大人に襲われちまうぞ」


ズボンを下げながら男が近づいてきて女性は下がるがすぐに壁に当たりこれ以上下がれない事に絶望する。

男の体格は良い、抵抗が難しいのは明白だ。


「デス・チェイサー様様だぜ!王都をめちゃくちゃにしてくれたからおこぼれが貰えるからよぉ!」

「だ、誰か…助けて!」


叫ぶが人がいない場所、誰も来るわけがなく女性は目を閉じ身を縮める…









そして何も起こらず、恐る恐る目を開くと目の前には誰もおらず…いや一人の影があった。


「もう大丈夫ッスよ、ここら辺危険っスから気を付けるッス」

「え…あ、貴方誰…?さっきの男の人は…」

「あ、さっきの不審者はウィードに身柄渡すんで!おねぇさんは

早く帰った方が良いッスよ!それじゃ!」

「あ、ちょっと…!」


影は突然走り出したかと思うと壁を走ってその場からどんどん離れそして姿が見えなくなっていく、女性はポカーンとなりながらもホッとなりその場を恐る恐る離れ家へと帰っていく。





それを建物の上から見ている影が2つ。


「…これで何人目だ」

「今回で6人目ッスね」

「…そろそろ本格的にウィードに動いてもらわないと俺達が持たんぞ」

「それがお師匠様、今ウィードも復興作業で人手が…」

「なに…?……はぁ…」

「どうします?」

「…仕方ない、行くぞ『チャンマル』」

「はいッス!」


その日から王都である噂が流れる、罪を犯そうとした者を罰する二人組…断罪の使者が出ると。



──────────



寒い風が吹く中、エレファムルギルドマスターのセシリアは震えながら町の門のすぐ傍で立っていた。

門番達から中で温まるよう言われても動かず待っていると…セシリアの目にあるものが目に映る…それは大きな飛行船でゆっくりと門近くに着地し中から次々と人が降りてくる、セシリアは駆け出し両手を広げ嬉しそうに声を上げる。


「皆お帰りなさい!」

「「「「「『ただいまぁ』」」」」」


王都滞在日数およそ15日程度…アユム達は疲れ切った顔をしながらも無事エレファムルに帰還する。

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