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文明開拓のすゝめ  作者: パル
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135話『決められた別れ』

自身の体から神の力が無くなったのを感じケッケイはまるで夢から叩き起されたような、そんな感覚で上手く回らない頭を働かせ自分の現状を認識する。


「…そうか…私は敗れた…のか…」


体に怪我はない、確かにあの時ケッケイはアユムの攻撃が頭を貫通した筈だが頬に負った時と違い顔を触っても変化1つない。


「君って奴は…こんな男すら…」


甘い、熟れた果実のように甘い考えに苦笑しつつゆっくりと立ち上がり自身が壁ギリギリに倒れていた事に気づく…背後はすぐ外で下を見れば地上がハッキリと見え落下すれば即死してしまうだろう。


「…負け犬は負け犬らしく負けを認め…彼らに身を委ねるか」


1歩、アユム達の方へ足を踏み出す。

10年の時を費やして様々な犠牲を出して王都を巻き込んだ大事件を起こし最後に計画まであと少しという所で頓挫してしまった事を考え肩を竦めるも、アユムに淡い希望を描いていた。


もしかしたら彼ならば










フッと、浮遊感を感じていた。

何が起きた?と思いケッケイは後ろを振り向くと…ケッケイの背中を肩を足を掴んでいた。

それは小さな子供の手から老人の手…


「…そうだね、ここまで来て私だけが生き残るのは違う」


一つ一つに見覚えがある、計画の為に始末し利用し死んでいった者達の手…その手はケッケイを掴み離さないように力強く握られておりケッケイはその運命を受け入れそのまま落下していく…







「……何をしてるんだ君は…!」


流れる血がケッケイの頬に垂れ、風に揺られるケッケイは信じられないのを見るように手を掴んだアユムを見る。


「あんたには…まだ、聞かなきゃならない事があんだよ…!俺の手を掴めこの野郎…!」


ケッケイの手を掴み最上階で踏みとどまっているアユムの全身から血が溢れる、塞いでいた部分もケッケイの重みで傷口が裂け始めアユムは歯を食いしばる。


『アユム死んじゃうよ!もうアユムの体は…』

「分かってる!シイン!」


口の端から血を流しながらアユムが叫ぶとケッケイの手を更に掴む人間が現れる…シインは身を乗り出しケッケイの手をしっかりと握りその目には涙があった。


「シイン…」

「ケッケイ様…!」

「…やめてくれシイン、私は君を利用し君達を道具のように扱ったんだ…見えるかい?皆が」


体を引っ張っている感覚、アユムには見えてないがシインにはハッキリと見えていた。


「皆は私を待っている…私は彼らの怒りを受けなければならないんだ」

「分かってます…!」

「なら今この手を…」

「分かってます!ですけど…私…私は…ケッケイ様に死んで欲しくない…!」


そう叫ぶシインは涙をポロポロ流しながら手に力を込める。


「戦争の影響で捨てられた私達を受け入れてくれたのも、暖かいご飯もベットもケッケイ様がくれなきゃ私達生きてられてません!」

「………」

「確かにケッケイ様は…悪い人です…だけどケッケイ様のお陰で救われた人も沢山いるのも事実なんです!私が…そのうちの1人だから…」


今までにもケッケイの経営する孤児院は数多くあり、人並みの生活を過ごせている子供は多い。

果たして世間はこの事を評価するか?そもそもの孤児院が計画の為であり子供達を利用していたのも事実、どう考えるか人次第感じる者次第…シインは今までの行いを許す訳ではない。


だが今この場で死んで欲しい訳ではなかった。


「…シイン、君は優しい子だね…こんな私をも救おうとする」

「ケッケイ様手をちゃんと…握って!早く!」

「はは…こんなにも若者が立派だと私達は御役御免かな」

「クソっ…手の感覚が…」


掴んでいる手の感覚がほぼ無くなりアユムはボヤける視界の中で、何かがケッケイの足を掴んでいるのが目に入る。

それは人間の手だ、だがその手にアユムはあるものを見てしまう。


「『腕時計…?』」


それはアユムが日本にいた頃にあった最新のデジタル時計、腕だけ見え見間違いかと目を凝らそうとするとケッケイがアユムの手を強く握る。


「…歩くん、こんな私の言う事なんて信じられないだろうし聞きたくはないだろうが君に頼みたい事がある」

「んな話後で聞いてやるから登れ…!」

「いや、私はもうどう足掻いても無理だ…『彼ら』に目をつけられた以上私は逃げられない」

「彼ら…?」


強く握る手に、何処か焦ってるような感覚がありアユムはケッケイを見る。


「頼む歩くん…『未来』を見つけるんだ君ならこの世界を救える…!」

「未来…?何言って…」

「この世界の本来の者達が私達を消し去り取り戻そうとしている、神々でも彼らは止められない!」

「だから何を言って…!」

「『深淵を覗く者達』は私達を…神々の子を許さない…」


アユムの血が、アユムとシインの手の隙間に入り少しずつケッケイを掴んでいる手がズレていく。

そしてその瞬間アユムとシインとケッケイは全てを察する。


「…私に…私には一人娘がいるんだ…あの子は今回の事は全く関係が無い…歩くん可能ならでいい…あの子を助けてやってくれ…」

「ケッケイ…」

「…シイン、あぁ私の可愛い子…そんな顔をしないでおくれ…もう私が居なくてても君には頼りになる友がいるだろう…?」

「ケッケイ様……」


ズルズルとケッケイの腕がシインの、アユムの腕から離れていき…2人の手からケッケイが離れていく。

アユムはシインの目を覆い見えないようにし目を閉じる、静かにそしてゆっくり上を見上げると空がどんどん黒からオレンジ色の夕焼けに変わっていっているのが見え大きな穴も無くなりいつの間にかあの手も見えなくなっていた。

静かに、すすり泣いているシインの頭を撫でながらアユムは空を見上げながら黄昏れる。


「……なぁヒスイ、終わった…のかな」

『さぁ…始まったのかもしれないよ?』

「………未来か…」


未来を見つける、それは平和な未来か混乱の未来かそれとも………

そんな事を考えながらアユムは痛む体を我慢して立ち上がりシインを連れて倒れているユリ達の元に向かう。

全て終わった事を伝える為に。

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