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文明開拓のすゝめ  作者: パル
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132話『四つの言葉』


今しかない、チャンマルは流していた魔力を切ってシインの手を握り…思いっきり引っ張る。

その瞬間握ったシインの手からどんどんその体を覆っていたかのように黒いモヤのようなものが剥がれていき霧散していき…シインの体が黒いモヤから出てくるようにチャンマルに引っ張られチャンマルにキャッチされる。

抱きかかえながら地面に着地しチャンマルはすぐさまシインを横にする。


「シインちゃん!」

「………」


脈を測り呼吸を確認し生きている事が分かりチャンマルはホッと一息つく。


「…シインは大丈夫?」


黒いモヤを警戒していたユリはモヤが空気中に霧散したのを確認しチャンマルの元に向かう。

生きている事を伝えようとした瞬間、シインが僅かに動き…ゆっくりとその目を開ける。


「…チャンマル…ちゃん…」

「シインちゃん!大丈夫ッスか?どこか痛いとか…」

「チャンマルちゃん…私…私…」

「あぁ泣かないで!もう安心ッスよー!」


安堵かはたまた別か、シインはチャンマルの顔を見た瞬間目から溢れんばかりの涙を浮かべチャンマルに抱き着く。

最初は驚き戸惑っていたチャンマルだったがゆっくりと抱き締めその頭を撫でる。


「…シイン、無事でよかった」

「…ユリ様…」


暫くしてユリがシインの背中を撫でシインはユリと近くまで来ていたサリアの顔を見て更に涙を浮かべるがユリがチョップをシインの頭に当てる。


「…これでお相子」

「え…」

「私もシイン達を頼らなかった、だけど私も頑張って皆を頼るから…シインも私達頼って」

「ユリ様…」

「これで涙を拭けシイン、泣くのはこれが終わってからだ」

「サリアさん…」


サリアから差し出されたハンカチを手に取り、頬と目の涙を拭きとりチャンマルの手を借りながらたどたどしく立ち上がる。

そして全員の視線がケッケイに集まった瞬間、ケッケイは拍手する。


「素晴らしい、これが友情というものか?いい友達だねシイン」

「…ケッケイ様…なんで…」

「ん?」

「なんでこんな事をしたんですか…私達孤児院の皆を使ってまでケッケイ様は何をしようとしてるんですか…!」

「うん、その感じだとどうやら私の魔法は破られたようだね…そこの獣人が魔力を流した影響か…それとも魔力を流そうとしていた事が関係してるのかな」

「…答えてください!」


聞いたことが無いシインの大声にケッケイもユリ達も驚き、ケッケイは笑う。


「凄いなシイン、あの人の後ろにいた子供が私に声を荒げるまで成長するなんてね」

「ケッケイ伯爵…!」

『…ま、今すぐじゃなくてもいいんじゃない?ほら上見て』


サリアが氷剣を手に迫ろうとした時ヒスイが現れ上を指しユリ達は上を向くと目を見開く。

上空を覆っていたインクをこぼしたように真っ黒に染まっていた空が少しずつ、少しずつ薄らいでいた。


『この空もあの化物達も神化させようとしてたシインで作ってたのだろうけど、この様子じゃ貴方の目論見はおじゃんね』

「…ケッケイさん、投降して」

「うーん、確かに君達勇敢で勇気ある若者達の行動で私の計画は大きく狂ってしまった」


空を見上げケッケイは困ったように腕を組みユリ達を見る。


「だがこのまま捕まっても私は死刑は免れないだろうね、それは困る」

「これほどの事をやって困る…だと…!ふざけるなケッケイ・シュール!貴様がやった事は許されない事だ、必ずその身に罰を受けてもらうぞ!」

「……」

「…?シインちゃん?」


怒りケッケイを睨んで今にも剣で切り裂かんとばかりのサリアは身柄を捕まえる為ケッケイに近づく、それにユリも続き向かう。

相手はただの貴族…シインとの戦いでも何もしてこなかった、シインが重要なら妨害などをして来た筈であり今シインの身柄がこちらにあるから…そんな油断が二人には無くは無かった。

だがそれでも戦闘後、そんな油断も一瞬だった…だがそんな一瞬が致命的になりえる。


シインは何か身を震わせるような悪寒が走り、ケッケイを見る。

その姿はいつもと変わらない…そう周囲には映っていた、だがシインの目には『二つ』に見えていた。


「困るね、だから『プランB』だ」

「…!サリア…」


何か違和感に気づきユリは咄嗟に動こうとするが、ケッケイが右手を前に出した瞬間強い衝撃が全身を駆け体が後ろへと吹き飛ばされる。

身体のあちこちから何かが切り離されるような感覚がありスキルを使おうとした瞬間そのスキルは使う事すら出来ずに魔力が無くなっていく、全身から魔力が無くなっていく…地面を転がり全身に激痛が走りユリは驚愕する。


「なん…で…私勇者の…」


ユリは勇者として召喚された恩恵で常人以上の耐久力と身体能力を備わっている、ただの女子高生が戦ってこれたのもこの恩恵の力だったが今ユリの体はその恩恵が『無くなっていた』


「アユム…が倒されたのも…これ…が…」


衝撃は大規模であり、周囲を見るとサリアもシインもチャンマルも…全員が倒れていた。

一瞬の出来事、そんな一瞬で全員が倒れている状況にユリは立ち上がろうとするが足に手に力が入らず地面に倒れ意識が薄れていく。














「『ひとつ、この力は神に抵抗する力である』」


空を見上げながらケッケイは右手を見る。


「『ふたつ、これは我々が『地球』に帰る為の仕方ない犠牲である』」


右手は至って普通…だが少し力を入れると謎の魔法陣のようなものが現れ力を抜くとその魔法陣は無くなる。


「『みっつ、成功者『林道氷翠』『沢村炎条』『石原雷』『丸浜地野』を最後にこの実験は中止する事』」


空は更に黒さを増していき漆黒になりつつある、明らかな異常に王都に混乱が起き始める。


「『よっつ、これを見ている者がいるならばこの狂った実験記録を燃やしこの世から消してくれ…皆狂っている』」


何かを思い出すようにケッケイは目を閉じ…ゆっくりと目を開く。


「いつからあるか分からない、一体何者なのかも分からない…だが私は貴方を尊敬する…」


右手を上げ…その手の平を上へと向ける。

その上には丁度開いている穴があり…ケッケイは右手に力を込める、その瞬間上空で異変が起きる。



──────────



せわしなく動く兵士達によって取り残された国民の救出作業が進む中、ダガリオは次々と指示を飛ばす。


「怪我人子供老人を最優先に、いつでも敵が現れてもいいように迅速に動く事を考えるんだ!」

「「「はい!」」」


何故か兵士達は聞き分けが良くリサは首を傾げる。


「なんでただの冒険者の私達の言うことこんな聞くんだ?指揮任されたってよ」

「ダガリオさんはよく見てますからね、恐らく的確に指示しているのが理由ですが…何処でそんな事を覚えたんでしょうね」

「リサ!この子を門まで頼む!」

「あいよ…と!」


ダガリオに呼ばれスキルで飛び子供を預かり門まで向かう、道中スティーブンとソフィア達が部下であろう人物達を動かしテコッタはポーションをその場で調合し兵士や冒険者達に持たせ門まで運ばせる。

ユリ達と共闘し倒した後から化物は落ちてこず避難も順調に終わっていた、王都の兵士達の連携もあって王都中の避難も進み王城へ向かう編成をしているところもある。


「…………」

「ど、どうしましたダガリオさん?」

「…サヨ、気づいてたか?」

「は、はい!ちょっとの間ですけど空が少し晴れたような…」

「だが今は漆黒だ、僕はアユムが元凶を倒したのだと思ったが…アミーラ…アユムは今何処に?」

「王城の方です」

「…………一度僕は…」


場は順調に進んでいる、ダガリオが抜けても…そう思った瞬間まるで蛇に睨まれたカエルのようにダガリオは身体が膠着してしまい動けなくなる。


「な、何が…」

「ダガリオさん上を!」


上、その言葉を聞きダガリオはゆっくりと唾を飲み込みながら目を上へと向ける。







目が合った


それだけを聞くと何のことか分からないだろう、だがダガリオはそうと言わざる負えないほどしっかりと目が合ってしまっていた。

それは遥か上空…漆黒の空にポツンとひとつ、黒に目立つふたつの赤い『目』


「何だ…あれは…」


そう言った瞬間、漆黒の空が真っ赤に染まる。

所狭しと赤い目が現れギョロギョロと何かを探すようにその目は生きているように動き出す。

一か所、漆黒の空が歪み…空間を割くように何かの上半身が現れる。


「…悪魔…」


誰かがそう呟いた、漆黒の体にヤギのような頭…背中には蝙蝠のような羽が生え赤い目は王都を舐めまわすように動き…


『ギャ!ギャ!ギャ!ギャ!ギャ!』


短く叫ぶ逆さまの悪魔に反応するように赤い目が動き不気味にも狂気的に狂喜にも見えある者は気絶しある者は戻してしまいある者は神に祈り始める。


「おいダガリオ!ありゃなんだ!?」


子供をスキルで送り戻って来たリサは状況が分からずダガリオに聞くがダガリオも分かる訳が無かった。


「分からない…だが…………!」


空を見上げ見ていたダガリオの目に更にあるものが見えていた。

それは王城上空にある謎の穴…そこから『指が出てきていた』


「…アユム、ユリ…」


ひとつ、またひとつと漆黒の空を破り顔を出す何かにダガリオは向かった二人の顔を思い浮かべロングソードを強く握る。



──────────



穴から何かが出ようとしている、それを見ながらケッケイは立っていると…物音が聞こえ振り向く。


「…何故起きてる…?貴方はあの氷の妖精との繋がりを拒絶されあれほどの重傷を負った筈」

「………」


ケッケイの視界の先に立っていた者はアユムであった、だがアユムは既にボロボロで起き上がる事さえ不可能だ。

その筈が目の前にいるアユムはちゃんと立っており…そして右手を上げる。


「ッ!」

「『消滅』」


危険を感じ取りケッケイは即座にその場をしゃがむと…ケッケイが立っていた後方にあるまだ形を残していた壁とそのはるか後方にある漆黒の空が『消えた』


「…まともに食らえば私でもただでは済まないだろうね」


後方に見える光景にケッケイは冷や汗を流し…そしてアユムを睨む。


「歩くんは、何も言わず攻撃してくるような子ではないと思っているんだが私の認識違いかな?………………君は『誰だ』」


ケッケイの中にある違和感、目の前にいるアユムはアユムではない…妙な事だがケッケイには妙な胸騒ぎがあった。

まるで触ってはいけないものを触って壊してしまったような…ドラゴンの逆鱗に触れてしまったかのような…


「『…本来ならばルール違反、だが今この場であれば我の介入は正当である』」

「……………」

「『おっと、自己紹介が遅れたな…我は冨谷歩の主である…』」









「『我が名は『ダジ』、全てを破壊し無に戻す破壊神なり』」


血塗れの傷だらけのアユムはニヤッと笑いそしてその右手を上げ振り下ろすと上空に広がっていた赤い目が半数以上が消え地上に赤い血が落ちていく。

アユムの主神でありアユムを使徒にした神であり全ての終焉を看取る神、破壊神ダジがアユムの体を使い降臨していた。


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