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文明開拓のすゝめ  作者: パル
123/398

123話『その因果断ち切る為』


血液が地面に滴り集められた使用人達や貴族が怯えるように身を寄せ合う。

広い部屋で倒れて絶命している兵士にナマリは退屈そうに欠伸をする。


「大した事ねぇな、これじゃうちの新入りにすら負けるぞ」

「ここにいるのは武よりも知力が高い者達だからね、今頃寄生らと戦ってる所だろう…いやは四家がいない時で良かった」

「……ケッケイ・シュール、何が目的だ」


集められた者達の前に立ち臆する事無く威厳ある姿の国王…カルロス王の言葉にケッケイは微笑んでいる顔で振り向く。


「今貴方に話してもしょうがない話ですロウハワード・カルロス」

「貴様…!父上になんという態度だ!」

「リボル、黙っていなさい」

「しかし父上!あのケッケイ伯爵は我が国の兵士を殺し我々を集め危害を加えようとしている、これは国家反逆です!」

「全員が分かりきっている事をわざわざ口に出すのではない、そして今我々は生かされているという事を忘れるな」

「父上の言う通りだリボル、俺達はケッケイ伯爵に殺されてないだけでお前の行動1つで全員殺されるかもしれないんだぜ」


頭に血が上っているリボルにカルロス、第1王子のマグナは諭すようにリボルの肩を掴む。

現に国王を守ろうとした兵士は一人残らずナマリとカルロス達を囲っている小型のサソリのような化物に殺されている、その気になればこの場に残っている全員も同じように地面に転がるのも他愛もない筈である。


「安心してください、今は危害は加えませんよ」

「今は…ねぇ…ケッケイ伯爵さんよ?金か?権力か?な訳ねぇな、それならあんたは十分持っている…王族の俺達の抹殺なら今やればいい…が、あんたはそれをしない…ケッケイ・シュールは慈悲深い貴族だと言われる程の人が何を望む?」


マグナの言葉にケッケイは少し考えるようなそぶりを見せ困ったように頬をかく。


「先ほどの通り貴方達に言ってもしょうがない事ですが…そうですね、強いて言えば『救済』ですかね」

「救済…?」

「お、旦那持ってきたようだぜ」

「分かった、今行こう」

「……」

「それでは皆様、しばしの辛抱ですのでお待ちください」


何かに気づいたナマリに呼ばれケッケイはお辞儀をして部屋から出て行ってしまう、ナマリもそれに続き出ていき部屋にはカルロス達と小型の化物達だけが残る。


「まさかあのケッケイ伯爵が…」

「く…どうにかして外にいる兵士を呼べないのか」

「あの不気味な化物より我々が多い、力を合わせればどうにか出来るのではないか?」

「見ただろう兵士達が一瞬で葬られるのを、それにもしここを出れても次から次へと出てきたのを見るに外にはもっといるだろう」

「どうすれば…」


ケッケイ達が居なくなったことで貴族や使用人達が話し合うがこの場を切り抜ける方法が思い浮かばない、下手に動けば返り討ちになるのは明白である。


「…ロニはどうだヘレッタ」

「一応止血はしたけど…治療が必要だわ」

「うむ…ここに祈りが使えるものは」


集まった者達の中で負傷した者もいる、その中に騎士団長であるロニの姿もあり頭に応急処置の為に巻かれた布で縛っていた。

治療するにはポーションか祈りが使える者が必要だがこの部屋にいる貴族や使用人にいる様子も持っている者もいる様子は無い。


「申し訳ございません…私が…私のせいで…」

「落ち着きなさいホァン、貴方は悪くない…ロニは安静にしておかないと」

「…ヒストルは無事だろうか…」

「ヒストルに手は出さないって言葉を信じるしかないな」

「………」


何も出来ない事に意気消沈する面々の中、カルロスは窓の外を見て鋭い目で見える筈がないがある者を見る。


「…アユム…ユリ…」


今この場にあの二人がいれば…そう思いそのまま自身の胸に留めカルロス王は周囲に不安を与えないように平然とした顔で立ち全員の前にいるのであった。









「しかし、あんたは不思議な人だな本当に」

「何がだいナマリ」


謎の大きな包みを持ったナマリの部下達を先頭に歩くケッケイにナマリはふと思ったことを言う。


「俺が会ったあんたみたいな者達は全員最終的にはビビッて日和ったもんだが…あんたは良い意味で『イカれてる』」

「君は怖いか?ナマリ」

「いや?俺は命令を守る為なら恐怖すら道具に過ぎねぇ」

「君が命令を重んじるように私もこれだけは譲れないものはある、怖くないと言えばウソになる…だがそれ以上に私には『使命』がある」

「…あんたをそこまで駆り立てるのは言っていた『見てはいけないもの』なんだな」

「あぁ…私がやらなければならない…私が…私が…」


何か正常ではない様子のケッケイにナマリは内心ため息をつき…バッとある方向を見てニヤリと笑う。


「旦那、あんたの命令はこれで終わりだったな?」

「…あぁ、後は君の好きにすればいい」

「助かるぜ…あの時旦那が拾ってくれなければ俺はここまで生きてこれなかった」

「礼を言うのはこっちだナマリ、君のおかげで計画が上手く行った」


二人は軽く握手をし…ナマリとケッケイは別々の方向へ歩いていく。


「じゃあなケッケイの坊主…」


誰にも聞こえない声で言い、ナマリはその場を後にする。



──────────



壁内に入り避難した人々の上を通り過ぎアユム、キン、チャンマルは王城に向かっていた。


「すげぇなチャンマル!ただこの落下してる感じちょっと怖い!」

『立って乗るジェットコースターみたいだね~』

「ボクの魔法じゃ体の向きまでは操作できないので我慢してくださいッス」

「………」


北方向に落下する感覚に方向感が麻痺しそうだがアユム達はかなり早く移動という名の落下していた。


「改めて言っておくッス、ボクの魔法は風と闇の合わせ技で生まれる重力で重力の方向だったり加減を調整できるッス」

「あの時俺とリサが別々に落ちていきそうだったのもこれか」

「応用で空間を歪ませてボクも何処に消えてるのか分からない穴を作れるッス」

『ブラックホールみたいなものかな』

「かもな…キンさんは…?」


チャンマルの魔法の事は分かったがキンのは良く分かってない。


「…スキル『魔の手』…魔力を使い空中に俺の手に連動する見えない手を出すことが出来る、魔の手を霧散させることでその場から移動できる」

「王城から消えたのもそれか…」

「アユムさんは何が出来るんすか?」

「俺か?…うーん…物消したり…氷出したり出来る」

「物消したり?」

「言葉にするのが難しいんだが…」

「…今はその話は後でもいいだろう、到着だチャンマル」

「は、はいッス!」


スキル『消滅』をどう説明するか悩んでいたが運よく、下を見ると王城の壁が見えチャンマルの魔法によって重力の方向が正常になり地面に着地する。


「とと…さて、ここにも落ちて来たらしいが…ここ辺りじゃないっぽいな」

「…恐らく中だろう、最悪ほとんど全滅している事を想定してなければならない」

「…行こう」


気を引き締めアユム達は開けられている門を通り抜け城内部へと入っていく、視線を周囲に向けると所々で血が飛び散っており窓や装飾品が破壊されているなど酷い有様であった。

だがそれと同時に様々な事が判明する。


「…遠くで戦ってる音が聞こえる、騎士団か兵士だろう」

「ど、どうするッスか?」

「騎士団か兵士達が戦ってるなら合流するのが良いだろうけど…」

『アユムあれ見て』

「あれは…」


ヒスイの向ける指の先にはおびただしい量の不気味なサソリのような小型の黒い化物、だがその姿はただの甲殻ではなく妙な模様があると思い近づくとその甲殻は人間の皮で出来ていた。


「趣味悪いな…ここに落ちてるって事は兵士達でも倒せるってことか」

「…!あれを見ろアユム」


今度はキンの声が聞こえキンの指が向く方へと目を向けると恐ろしい光景が見えてしまう。

それは窓越しの中庭にいた、まるで小型の化物をそのまま大きくしたような巨大なサソリのような化物…その頭部に当たるところからは無数の触手がうねっており背中からどんどん小型の化物が這い出てきており、這い出てはアユム達とは反対の方向へ向かって行きその巨大な化物を守るように無数の小型が集まっていた。


「あれが落ちて来たもので間違いない…な」

「…この小型の化物は耐久力はないようだが…数が多い」

「ボクがまとめて倒しましょうか…?」

「いや、まだあれだけじゃない可能性がある…魔力は可能な限り温存しておきたい」

「それじゃどうするんスか」

「…俺が気を引く、その間にアユムとチャンマルの攻撃で片付けろ」

「分かりました、それじゃ…」

「ッ!避けろ!」


気づかれないように移動しようとした瞬間、突然キンの大声にアユムは前方に転がる。

するとアユムが立っていた場所に硬い拳が振り下ろされ地面を砕きながら何者かがその場に立っていた。


「よぉ、また会ったなぁ!」

「ナマリ…!」


一度は戦い決着がつく間もなくその場から消えたナマリが立っておりアユムは薙刀を構えようとして…キンの手で押さえられ薙刀を抜けないでいた。


「…アユム、ここは任せてくれないか」

「キンさん?」

「…過去の決着は自身で付ける、チャンマルと共に行け」

「……分かりました、行こうチャンマル」

「え…ボ…ボク…は…」

「チャンマル」

「……」

「これは俺の問題だ、お前は関係ない…分かったな」

「…分かったッス」


強くキンに言われ、チャンマルは大人しくアユムと共にその場を離れキンとナマリだけが残る。

キンを置いて中庭の化物を討伐する為位置取りをしに移動していたアユムだったがふと立ち止まったチャンマルに気づき足を止める。


「チャンマル?」

「…あ、アユムさん…その…」

「………」

『…あ、そういえばさ?アユム水筒何処やったの?』

「え?あ!やっべどっかに落としたかも!」

『もーおっちょこちょいなんだから、さっき避ける為に転がった時に落としたんでしょ?』

「しまったな、氷の力使うのに水分必要だってのに…チャンマル取に行ってくれないか?」

「え…?」


突然アユムとヒスイが三文芝居を始めチャンマルは目が点になるが…真意に気づき拳を握りしめる。


「…分かったッス!見つけたらすぐに追いつくッス!」

「あぁ、気を付けて」

『いってらっしゃーい』


その場を駆けていくチャンマルの背を見送りアユムとヒスイはお互いを見る。


『1人になっちゃったね~』

「何言ってんだヒスイがいるだろ」

『キャー!2人で1人なんてベタなんだから!』

「言ってないよね?」

『はいはい、後ろは任せてね』

「頼んだ」


薙刀を手に取りアユムは中庭に行ける出入口を探しに廊下を走る。



──────────



お互い睨み合い動かないナマリとキン、何もしてない訳ではなく僅かに動きお互いに牽制し合い逆に動けなくなっているのであった。


「…てめぇの呪いはやっぱ解かれてたか」

「…知ってたようだな」

「そりゃな、あのソフィアが生きてたんだからなぁ…俺の知らない解除方法があるってのは分かってた」


手を構え、腰の短剣を抜きお互い臨戦態勢になり…一気に動き出す。

全力のキンとナマリの動きは常人には目に追えない程の速度に達していた、攻守を繰り返しお互い傷つくことなくスキルを武器を振るいギリギリの間合いを保っていてた。


「引け腰だなぁ!キン!」

「………」

「そりゃそうだよな、呪いをモロにくらったお前なら傷一つ追いたくはないと考える…だがそれがお前の弱さだ!」


咄嗟に避けた瞬間、キンの体が突然引っ張られる感覚があり視線を向けるとナマリの短剣を持ってない手がまるで何かを引っ張るように引いており…まだ完全には判明してないとはいえ分かっていた事に引っかかってしまい歯を食いしばる。

最悪呪いに侵されようと少しならば動ける筈である、そう考えあえてナマリに向かって行くように体を捻り手を構える…自身の命を引き換えにナマリの命を道連れにする為に。








だがいつまで経ってもキンとナマリの攻撃が当たらず、キンとナマリはまるで磁石の反発作用のように別々の方向へ吹き飛びナマリは地面を転がりキンは誰かにキャッチされる。


「……これは俺の問題と言ったはずだ、チャンマル」

「…ボクの問題でもあるッス、師匠があの時ボクとお母さんを見逃そうとしなければあの男に命を狙われなかったッス」

「それは俺が…」

「それがこれがも無いッス!!!」

「チャンマル…」


その頬には涙が流れており、地面に数的落ちていく。


「…家族を助けたいって思うのは駄目ッスか…?師匠…」

「……いや、そうだな…チャンマル」


慰めるようにキンはチャンマルの頭を撫でる。


「…俺と戦ってくれないかチャンマル、この壁を乗り越えるにはお前の力が必要だ」

「…!はい…はいッス…!」

「…話は終わりか?」

「…待ってくれるとは優しいんだな」


起き上がっており待っていたナマリにキンは笑いながら言う。


「最後の言葉を言わせてやろうっていう優しさだ、遺言は言っておくか?あぁどっちも殺すから意味ねぇな」

「…必要はない、お前の墓は必要だがな」

「言うじゃねぇか…んじゃ行くぞぉ!!!」


迫力ある咆哮と共に走ってくるナマリにキンとチャンマルは手を構え臨戦態勢を取る。

その因果を断ち切るために

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