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文明開拓のすゝめ  作者: パル
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12話『流行病』

あまり動き過ぎるともし探しに来ているアミーラ達とすれ違いになる可能性があった為、アユムとリサはその場で留まって話をしていた。


「今から少し前の話だ、私の村では50程度の吸血鬼と人間が大勢いた」

「人間…」

「はるか昔に罪人として流れ着いたのを私の祖先が拾って共存関係になったらしい…私はその村で人間で言う村長の娘で、いつもと変わらない日の筈だった」


そう言ってリサはポツリポツリと話を始める。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「起きなさいリサ、今日は畑の手伝いに行く日だろう?」

「んぅ…分かってる…」

「まったく」


男は困ったような顔になるがリサが被っていた毛布を剥ぎ取り、余計に丸くなるリサの肩を叩く。


「遅れるとまたご飯が抜きになるよ」

「…それはやだ」


ガバッと起き上がったリサは伸びをして欠伸をしなから男の方を見る。


「おはよう、父さん」

「おはようリサ…まぁ私はもう寝る時間だけどね」


男はリサの父親カルソン、髭がそこそこ生えておりどこか育ちが良さそうな中年くらいの姿でその口から僅かに牙が見える。

カルソンが吸血鬼であるという事がよく分かるだろう。


「げっ!?もうそんな時間なのかよ…!」


この日は人間の村にある畑の収穫の手伝いに行く予定があり、リサは大慌てでいつもの赤いドレスに着替える。

吸血鬼が身に着ける為、特別な布で作られた服は汚れを寄せ付けない…半端な服より作業に向いているのである。


「行ってくる!」

「気をつけて行くんだよ」


部屋から飛び出し廊下を突っ走り階段を降りる、道中ある代々受け継ぐ骨董品が置かれてる場所を横切った時…リサの耳に何かが聞こえる。


「ん?今…これか?」


骨董品の並べられた物の中で音がした方に目線を向けると…いつからあるのか分からないくらいからある黒い箱があった。

箱と言っても開けれる構造は無く何の素材で出来てるか分からない奇妙な箱。

カルソンの話ではこの村にいる吸血鬼全員が恐れる家宝が眠ってるとされてると言うが…


「…?今日は掃除くる人も来ない筈なんだが…っていけねぇ遅れる!」


考えてる暇は無いとリサは家の扉を開け外に飛び出す、吸血鬼の村…山の中にある大きな洞窟を切り崩し広げた太陽の光が届かない安全な場所。

今は全員が寝ているのか警備をしている者以外は吸血鬼の姿は見えない。

かなりの速度で走ってリサは洞窟の出口に向かっていく…



☆★☆



「あ、リサだ!」

「遅いよリサ!」

「あらリサちゃんいらっしゃい」

「おばちゃんごめん遅れた!」


小さな男の子と女の子が勢いよく走ってくるリサに反応し、それに気づいたその子供達の母親と父親が作業を止めて集まってくる。


「お疲れさん、ほれ水」

「ぜぇ…ぜぇ…ありがとう」

「リサ聞いて聞いて!私ね帽子作ったの!」


父親から貰った皮で作った水筒を貰い水を飲んでると女の子が被っている不格好だが形にはなってる麦わら帽子を見せてくる。


「お、上手く出来てるな!1人で作ったのか?」

「うぅん!お兄ちゃんと!」

「ぜーんぜん難しくなったんだよ!」

「そうかそうか、凄いぞお前ら!」


2人を抱き締め持ち上げぐるぐる回転すると2人は嬉しそうに叫ぶ。

それを眺めていた母親は腰から何に引っ掛けていた物を取る。


「はいこれ、貴方の分」

「え?私に?」

「この子達がどうしてもリサちゃんの分作りたいって聞かなかっのよ」

「リサいつも眩しそうにしてたから!」

「から!」

「おー、ありがとうな!サイズもピッタリだ」


抱っこしてる為手が離せなかったが女の子が母親から受け取りリサに被せてくれる。


「お、ピッタリだ…ありがとうな〜」

「それじゃそろそろ再開するぞ、今日は早く収穫しなければ」

「あいよー、ほら頑張るぞ」

「うん!」


子供達をおろして各々作業に入ろうとすると、遠くから異様な集団がやってくるが見えた。

全身布で覆っておりマントと高そうな帽子を被っており、1人が大きな日傘を持ち1番前に歩く男の上を覆っている。

道なりに進み畑の近くまでくると親子達はその集団に気づいて頭を下げる。

リサは頭を下げずにいると集団は畑の前で止まり先頭の男はリサを見る。


「ふん…カルソンの所の出来損ないか、土まみれのその姿はお似合いだな」

「うっせぇよガル、また人間達にこんな頭下げさせる真似させてんのかよ!」


ガル、と呼ばれた男は親子達をチラッと見て鼻で笑う。


「私は吸血鬼で、そいつらは下等な人間だ…何も間違いはあるまい」

「同じ事言わせんな!人間と吸血鬼は共存しなきゃやってけねぇんだよ!父さんにも言われてるの忘れたのか!ほら頭上げろ、あんな奴に下げなくていいんだよ」


頭を下げる子供達に下げるのを止めさせながらリサはガルを睨む。


「なんだその目は、クックック…純血じゃない吸血鬼のお前如きが私に楯突くとはな…まぁいい今回は収穫状況を見に来ただけだ、せいぜい我々の為に働くといい」


そう言ってガルとその一行は歩き始め畑の前から消える。

緊張していたのか父親と母親は息を吐き浅い呼吸をする。


「何度会ってもガル様には慣れないねぇ…」

「うむ、ガル様達が見に来たという事は他の収穫も始めてるだろう、急ごうか」


いそいそと道具や素手で野菜を収穫する2人、子供達はリサの両サイドに来てリサの手を握る。


「なんであの人達リサに悪口言うの?」

「嫌な吸血鬼ー!」

「はは…まぁそうだな…私が吸血鬼と人間から生まれた半端者だからだろうな」


リサの父親は吸血鬼だが、母親は人間だった。

半吸血鬼な為ほかの吸血鬼が出来る事が出来ないが、太陽の光を浴びても無事で聖水も効かない…吸血鬼は血を1日飲まないだけで乾きを感じるがリサは1度飲めばしばらくは飲まなくても大丈夫であった。


「さ、収穫するぞ!1番多く収穫出来た奴には今度菓子を持ってきてやろう」

「やったー!」

「僕…こほっ…も頑張るよ!…こほっ…」

「ん?」


2人の手を引っ張り収穫物の所に向かおうとした所、男の子の方が咳をする。


「風邪か?喉の痛みは?」

「ちょっと…」

「最近村で風邪が流行ってね、うちの皆ちょっと前までかかってたんだがその影響だね」

「そうか、無理するなよ?」

「うん」


大丈夫だと判断してリサ達は畑の収穫を始める。

その作業は夕方まで続き、リサは親子達と収穫した物を村まで運び村を後にし貰った麦わら帽子を抱えながら帰宅する。



☆★☆


帰宅して起きてきた父親と食事を取っていると、1階の玄関を叩く音が聞こえてくる。


「父さんも遅刻してたとか?」

「まだ時間じゃ無いはずだが…何かあったか?」


リサは席を立ち1階に向かう父親について行く、こんな時間に誰かが来る事は始めてだからだ。

まだ鳴り響く玄関を叩く音に不思議に思いながら開けると複数の吸血鬼が立っていた。

そして1番前にいた初老に見える吸血鬼が口を開く。


「カルソンさん大変だ!」

「ど、どうしたんですか?まだ集会の時間ではないですが…何かあったんですか?」

「何かあった所の騒ぎじゃない!カルソンさん、落ち着いて聞いてくれ…」


興奮気味の吸血鬼を宥めながらカルソンとリサは何事かと初老の吸血鬼を見る。

吸血鬼は1度息を整え意を決したかのようにカルソンを見る。


「人間の村で流行病だ、もう既に半分以上が死んでる」

「な、なんだって…!」

「それだけじゃない、もう残っていた元気だった筈の人間も死にかけだ…ドクターが言うにはもう…」

「う、嘘だろ…」


人間達が流行病で死んだ、その言葉にリサは何故?という言葉しか思い浮かばない。

収穫した野菜を届けた時は村人達もあの家族も元気だったのに。


「お、おい!本当に全員…なのか…?あの家族…も…」

「リサ…あぁ、全員もう…それとガル達がこんな時に若い衆集めて何かしておるんだ、あいつらを止めれるのはあんたしか居ない」

「ガル達が…?分かった、リサここで待ってなさい」

「…いや、私も行く」


家に居ても仕方ない、そう思いついて行く事にする。

カルソンは頷き2人とやって来た吸血鬼達は吸血鬼の村の集会場に向かう。



☆★☆


「ならん!」


机を破壊する程の威力で叩きつけられた拳が机に叩きつけられ大きな亀裂が出来る。

対面に座っていた男は何事もなく涼しい顔をしている。


「カルソンさん、私達は今危機的状況なのは分かってる筈だが?」

「分かってる、だが人間の住む町を襲うのは間違っている!」

「我々は吸血鬼だ、偏見に塗れた人間達によって外の世界に出て狩られた同胞の話はご存知でしょう?」


カルソン、そしてリサが畑にいた時に来た集団の先頭に立っていたガル。

その2人が集会場の机を挟んで対面していた。

ガルの話は人間の村が壊滅した為、東に向かった所にある人間が多くいる町に攻め入り全ての人間を攫い奴隷にするという考えだった。

その準備として若い吸血鬼を集めていた。


「お前達の言い分は分かる、今血が補給出来ないという事は私達の死活問題だ…だがそれをしてしまっては我々吸血鬼全体が殺されてしまう、人間の憎しみを軽く見てはいけない」

「ハッ!貴方も落ちぶれにものだ、偉大なる我らが祖に申し訳ないと思わないのか?不甲斐なさに私は涙が出そうだ」


話は進まない、カルソン達穏便に解決したい少数派と吸血鬼こそ至高の絶対支配者として君臨したい大勢…


「…ガル、ひとつ聞いていいか?」

「おやおや…何かようかな?」

「……今回の件あんた何も関係してないんだよな?」


あまりにも早過ぎるガル達の準備にリサは疑いの目を向ける、他の者も同じ目を向けるが…ガルは一笑する。


「今回の事は私も予想外でしたが…まぁ都合良かったですねぇ?」

「こいつ…ッ!」

「このまま話していても老害達の硬い頭は柔らかくならなそうですので、捕まえなさい」


合図を出した瞬間、突然入口から大勢の若い吸血鬼達が入ってきて武器を片手にカルソン達を囲む。


「ガル!」

「大丈夫ですよ、上手くいったら月に1度くらいは血を分けてあげましょう…行け!」

「皆走れ!」


カルソンの言葉を合図に、少数派の吸血鬼達は一斉に壁を蹴破り外に脱出する。

この狭い吸血鬼の村で争いが発生しようとしていた。

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