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文明開拓のすゝめ  作者: パル
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117話『命令以上使命未満』

親代わりにはなれない、そう考えながらキンはチャンマルを連れて帝国を出てシュードル王国にある王都に来て10年経っていた。

王国を選んだ理由はまだ王国と帝国の溝が深い状態が続いている今なら簡単に不法入国が可能だった為だ。


「チャンマル、腹は減ってないか」

「大丈夫ッス!ボクはおかな減りにくいので!」


と、強がるが腹が鳴る音が聞こえキンは苦笑しながら荷物の中にあるパンを渡す。

最初は戸惑いパン手にオロオロするチャンマルだったが腹ぺこなのもありパンを頬張る、その姿を見ながら苦笑し今までの苦労を思い出す…子育ての経験がある筈もなく何故チャンマルが泣くのか分からず右往左往した時や魔法の才を見出し覚えさせた魔法で仮宿が崩壊した事…


「…ククッ…」

「?どうくぁしましたふぁ?」

「口に物を入れながら喋るな、行儀が悪い」

「ふぁい…」


チャンマルはすくすく元気に育って行った、反抗的になったりもしたが慕ってくれている事は変わらず今では笑いの種だ。

現在の隠れ蓑にしている探偵職でも雑務をこなす事もあり頼りになる、預けた小遣いで甘味を買い過ぎて虫歯になったりもあった。

キンは1度だけ自身のしてきた事を、狂気で蓋をしていた事を思い出し苦しみチャンマルに自身が憎いかと聞いてしまった事もあるが


「ボク今とても幸せッス、お母さんと皆が殺されちゃった事は忘れられないッスけど…それでもお師匠様がボクを助けてくれたんスから憎む訳ないじゃ無いッスか」


その言葉にキンは少しだけ救われたような気がした、だがそれでもチャンマルの家族を仲間達を殺したようなものであるのは変わりない…そんな事が心の片隅にずっと残っている中でとある話がキンの耳に入る。


「…死体だと?」

「そうッス、なんか噂になってて今丁度隣のおばちゃんから聞いたんス」

「…何処の話だ」

「裏通りッスね、それもかなり奥の」

「…どうせウィードの奴らだろう、アイツらは暴れるのが好きな奴が多い」

「ボクもそう思ったんスけどなんか話が違うっぽくて」


買ってきた食材を下ろしながらチャンマルは思い出すようにしっぽをブンブン振る。


「殺されたの貿易の管理職の人らしいんスよ、ウィードが殺るにしてもちょっとおかしくないッスか?」

「…ウィードは貧困層の集まりだ、ましてやそんな奴が裏通りに行く訳がない」

「きな臭くなって来ましたね」

「…調べるぞチャンマル、こういうのは何か裏がある」

「はいッス!」


探偵であるのもあるがキンとしては何か妙な胸騒ぎがある、チャンマルと共に様々な調査を重ねるが裏通りはウィードの縄張り…下手に入って問題を起こすと後々が面倒であり中は迷路のようになっている、入るに入れなく入れても裏通りの浅瀬だろう。

動きにくい状態で少しずつ調査し3人目の犠牲者が出た時キンはある事に気づく。


「…殺す場所は素人だが殺した奴は素人ではない」

「どういうことッスか?」


3人目の犠牲者が出たと聞きキンとチャンマルは現場に来ていた、場には騎士団の姿もあり調査に乗り出したのか騎士団団長ロニが目撃者と話している。


「一瞬だが犠牲者の傷が見えた、断面が綺麗すぎる…素人が殺したのなら切れ味の悪い包丁で野菜を切ったように荒く断面が汚くなる…被害者と犯人の他に最低でも1人いる」

「うーん、ただの快楽殺人とは違うッスよね…」

「何かしらの目的があって動いているのは間違いない……少し強引だがこれ以上犠牲者が増える前にこちらで始末する」


そう言いキンはチャンマルを引き連れその場を後にする。







その後夜に不審な2人組を発見したキンとチャンマルは追跡し、裏通りに入る寸前で誘導していた方を『潰す』。

響き渡る悲鳴、そして逃げていく被害者予定だった人物の後ろ姿を眺めながらチャンマルはキンの顔を覗き込む。


「なんであっちだとわかったんスか?」

「…動きも気配も素人だが喋る時の目の動き手の動きが明らかに入れ知恵をされてる動きだ、間違いないだろう」

「なるほど…これでもう被害者は出ないッスね!」

「…いや、分からないぞ…バックにいる奴がどうするかだ」


その後4人目の被害者としてキンが殺害した潰れた人物が通報され見つかるが既にキン達はそこにはおらず、目撃者と違う殺害方法に混乱を極めた……そして


「…師匠!あれ!」

「…やはりか」


数日後、建物の上から王都を見ていたキン達が見たのは裏通りに誘導している女とアホそうな男…あの時と同じ状況が行われていた。


「相手は大量の手駒がいるらしいな」

「ど、どうしますか師匠!このままじゃあの人…」

「何をしたいか分からないが、見ないふりは出来ない…行くぞチャンマル」

「はい!」


5人、6人、7人…殺しても殺しても現れる者達、ただ殺すだけではなく素性を調べ捕まえたりしたが全員共通点も無く捕まえても何故か突然死んでしまう犯人達にキンは手を焼いていた。

だがそれでもキン達は犯人達の中に『貴族』が関わっている事が分かりはした、それでも特定が出来てないのもあり苦戦している。

殺しても殺しても終わらない…そんな日が続き25人目を始末する。


「師匠、言われた通り今回パーティーに出る勇者と冒険者と開拓者を調べたッスよ」

「どうだった」

「んー、特に変なところは無かったッスね…強いていえば勇者ともう1人がなーんも分からないくらいッス」

「勇者…たしかまだ公表されてないカミノウチユリだったか…もう1人はどんな奴だ」

「確か名前が…トミタ二アユムッスね」

「トミタニアユム…か…」


警戒していた方がいいだろう、そう頭の片隅に置いていた。

だが警戒していてもどうしようもないことがある…それは偶然そのトミタニアユムと遭遇した事だった。

どうしたものかと考えるがチャンマルが相手側の少女と仲良くなってしまいどうしようもない状態になる…そしてキンは長年の研ぎ澄まされた感覚でアユムを見て『危険』な香りがしたような気がした。

それは遭遇してはいけない野生のドラゴンのようにどことなく感じる本能的な畏怖…キンは考え友好的にする事を選ぶ。




調査の結果で今回の件に深く関わっている事が分かったイエローという貴族を始末する為キンとチャンマルは王城に潜入し待機していた。

王国騎士、勇者…そして警戒対象のアユムがいる事を踏まえかなりの緊張があったがキンは順当に奇襲を成功させイエロー男爵を暗殺する、即座にその場を離脱し逃げるが当然と言えば当然か勇者とアユムともう一人が追跡してくる…キンとチャンマルは苦戦しつつもどうにかこちらのスキルが見破られてないアドバンテージで退散する事に成功する…


「ぐ…」

「し、師匠!?」


王城から出て城壁の外まで来た二人だったがキンは膝をつき腹部から大量の血が溢れていた。


「い、今治療するッス!」

「頼む…」


チャンマルは鞄からポーションを取り出し円状に出来た傷口に振りかける…が、傷は治らず血が止まることなく溢れ続ける。


「ど、どうして…こうなったら…!」


傷が治らずチャンマルは右手と左手を合わせ…キンの傷口に流し込むように手を当てる。

その瞬間キンの体内で渦が発生し流れ出る血液一つ一つがゆっくりと本来の通るべき血管へと繋がり血は外で出ては来なくなる。


「ふぅ…応急処置ッス、ただポーションが効かないなんて…」

「…助かったチャンマル」

「いえいえ、お役に立てて嬉しいッスよ」

「………チャンマル」

「?」

「……いや…なんでもない」



──────────



激しい拳の連打でキンの鼻の骨が折れ歯が折れ意識が朦朧としてくる。


「オラオラどうした!まだ寝るのは早いぜ!」


何かに捕まれ引っ張られナマリの近くに移動させられ拳を叩き込まれる、もうキンに抵抗する力は無くただ殴られるサンドバッグ状態であった。



キンはチャンマルを自身から遠ざけようと考えていた、今やデス・チェイサーと呼ばれキンの近くは危険になってきており勇者とアユムが調査に乗り出しているという事を考えての事だった。

だがチャンマルは言っても離れないだろうとも分かっていた、だがこのままだとキンの仲間として捕まってしまう…現にナマリに捕まり危険な状態になってしまっている。

自身の甘い見通し、決断の遅さにキンは鈍る痛みを実感しながら揺れているとナマリは一旦満足したのか拳を止める。


「しかしよぉ、お前には感謝してるんだぜ?キン」

「………」

「最初何処の誰が下っ端殺したかヒヤヒヤしてたが…潰されて殺されたって聞いてピンと来たぜ?そんでもってお前ならその後の奴らも殺すってよ…お前が出来るのも知ってるのも殺しだけだからなぁ」

「……」

「まったく旦那には困ったもんだぜ、王都に恐怖を蔓延させろってよ…だがお前のおかげで手間が省けたぜ?感謝したいくらいだ」


そう言いナマリは腰に付けている謎の布で包まれた何かから布を取った瞬間短剣が見え、周囲に禍々しい空気が漂い明らかにただの短剣ではないのが分かる。


「だがこれの試運転をもっとしたかったが…お前で試せばいい話だしなぁ」

「ゴホッ…!」


ただの短剣、そう思っていた矢先突然全身の殴打されぱっくり割れた傷が血が乾き塞がっている筈がとめどなく血が溢れ口の中も血が流れ咳き込むと血が飛び散る。


「ヒュ~、我ながら恐ろしいおもちゃを貰ったもんだぜ」

「何…が…これは…腹部と同じ…」

「これは旦那から貰ったもんでなぁ…魔神とか言うのが作った一つで『呪い』を撒き散らしてるらしいぜ?傷が塞がらず致死量の血が流れても死なず苦しみが長時間続くって代物だ」


笑ながらナマリは短剣をキンの右腕に切りつけ短いキンの悲鳴の後腕の傷からおびただしい量の血液が流れ激痛が走る。


「ぐ…ぁ…!」

「ガハハハハハハ!苦しいか?つれぇなぁ?…だがまだ楽にはしねぇから覚悟しな…お前のせいで俺は暗部を解任され命を狙われて旦那に拾われるまではクソみてぇな日々を生きてたんだぞ!てめぇのせいで俺の人生はめちゃくちゃだ!」


傷口を狙い鋭い蹴りをキンにぶつけ骨が砕ける音と激痛でキンの悲鳴が響く。

何度も何度も入念に恨みを晴らすように…そして暫くしナマリはキンを手放しキンは支えを失い地面に倒れる。


「てめぇにはもっと苦しんでもらうぜ、そうだな…例えばあのガキをこの短剣で切り刻んでいつ死ぬか試してみるか?ウィードのソフィアって奴が一ヵ月くらい生きてたらしいがこいつはどうだろうな」

「…や…めろ…」

「あ?なんだって?ちゃんと言ってくれねぇと分からねぇな?」


まだ残っている腕でナマリの足を掴むキンだがナマリに振りほどかれ腕を踏まれる。


「やめ…ろ…」

「聞こえねぇな…?誠意ってもんがないんじゃないか?あ?」

「やめ…てください」


プライドなど何度だって捨てる覚悟はキンはあった、チャンマルを守る為ならその命すら投げ捨てれるほどに。


「そうか…そこまで言われちゃ俺も良心が痛むってもんだ」

「……!」


霞んでいる視界の中キンは顔を上げた…瞬間頭に強い衝撃が走り地面に叩きつけられる。

頭蓋骨から嫌な音が聞こえ視線を上に向けるとナマリの足が見え頭を踏まれているのだと分かる。


「だが俺は命令を守れない奴は俺が始末するって決めてんだ、おい動けないようにしておけ」

「なに…を…」


周囲で待機していたナマリの部下達は縛って動けないチャンマルを地面に押さえつけ…猿ぐつわを外す。


「し、師匠…」

「チャン…マル」

「せっかくだからな、最後くらいは見せといてやるよ」

「や…やめろ…!」


その場にキンだけ残しナマリはチャンマルの方へ向かう、殺す気であるのは明確であるがキンにはもうどうすることが出来ない。

多少動けるが動けたところで何の解決にもならない…残った力でスキルを使おうとするが上手くいかない。

その時、チャンマルと目が合い…チャンマルは泣きそうな顔をしていたが…キンを見て微笑む。

まるで安心させるように


「頼む…!やめてくれ…!殺すなら俺に…俺にしろぉぉぉ!」


絞り出すように声を出すがナマリは止まる気配が無い、止めれない事に無力な自分にキンは自分の命を削るように声を出す。







ふと、急に寒気がしてナマリは足を止める、季節は冬だ…寒いのは当たり前…だがそれでも異常な寒気にナマリは周囲を見ると…広場の端に誰かが立っている。

平凡な顔だがその特徴的な長い槍のような武器を手に立っている男にナマリは見覚えがあった。


「よぉアユム!よくここが分かったな、こいつらがデス・チェイサーとその仲間だぜ」


立っていた男はアユムでありキンの淡い希望も消される。

アユムはデス・チェイサーを捕まえるように言われ生死を問わずとも言われている、言わば敵である。


「まさかお前と一緒に探していた奴がデス・チェイサーとは思わなかったよな、マヌケだな!ガハハハハハ!」

「……………」


アユムは何も言わない…だが次の瞬間ナマリは何かに気づき素早くその場を離れるが部下達は反応できず…地面からせりあがった氷に捕まり…


「え?う、うわあああああああ!!」


せり上がった氷の上を滑ってチャンマルとキンがアユムの元に移動させられる…キンの傷口が氷の膜で塞がれ出血が止まった事と起こっておる事が理解できずキンは言葉を失う。


「…おいアユム、どういうつもりだ?」

「…どう、とは」

「お前の下された命令はデス・チェイサーの捕獲か始末…だろ?なのにお前のしている行動はまるで…そいつらを助けるようだな、あぁ?」


一歩、ナマリが近づいた瞬間その近くから氷の槍が発生しナマリは止まる。


「…ナマリさん、その手に持っている武器は何処で手に入れたんですか?」

「あぁ?そんな事聞いてどうするってんだ?」

「出所を聞きたかっただけです、まぁ最悪は聞けなくてもいいです」

「…拾ったんだよ」

「なるほど」

「…おいアユム、お前がしている事は命令を無視しているようなもんだが…お前も俺の『標的』になりたいってのか?」

「……前に話した命令の話、そういえば答えて無かったですね」


そう言うとアユムは薙刀を手で回し周囲に更に冷たい冷気を発生させ、自分の領域を広げていく。


「俺は命令は従う方ですよ、社会とかで上の指示は従った方が回りやすいので」

「………」

「…だが例外はある、俺が従うのは実際の所は1人…いや1神だけだ」


薙刀を構えた瞬間キンとチャンマルを守るように氷が発生しアユムはナマリを睨む。


「破壊神の使徒としてその『異物』を破壊する!」


頭痛と上がっている身体能力、目に前にいるナマリが握っている短剣から前文明の異物の反応がある以上アユムの優先順位は明白であった。

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