102話『探偵二人』
冗談抜きに数時間後、アユムは店員との死闘の末にシインの買おうとしていた化粧品と洋服を数点購入し決着する。
「あ、アユムさん私が…」
「いや…これはあの店員に負けた俺の戒めだから気にしないでくれ…」
「そ…そうですか…」
ひとしきりチャンマルという名の少女と店内を見て回って冷静になったようで申し訳なさそうに買った物が入っている袋を手に縮こまっている。
いつもの依頼報酬で得ていた収入だったら顎が外れ目が点になり失禁してしまいそうな値段であったが、玄武を討伐した報酬があったおかげで無事会計を済ませる事が出来た。
「またのご利用を!」
「…覚えてろよ…!」
また再戦する事を胸に誓い、店を出ると先に会計を済ませていたチャンマルと謎の男が待っていた。
待っていたのはチャンマルの方だが…
「自己紹介が遅れたッスね!ボクはチャンマルッス!お師匠様の忠実な部下ッス!」
チャンマルは中性的の人間にかなり近い容姿だが頭に付いている耳や尻尾を見る限り獣人のようだった、片耳は少し欠けているが耳と尻尾から狸の獣人らしい。
「お師匠様?」
「…チャンマルがそう言っているだけだ、気にしないでくれ」
男は身長が高く黒髪で片眼鏡をしておりハット帽に更には首元にマフラーを口元が隠れるまで巻いており外見は良く分からないが、目元だけ見ると30代後半だろうか。
「キン、探偵をしている」
「俺はアユム、開拓者です…こっちは…」
「シ…イン………です……」
チャンマルがいるからかシインの受け答えは比較的ちゃんと出来ている、目は合ってないが許容範囲だろう。
苦笑していると視線を感じ目を向けるとチャンマルがキラキラした目でアユムを見ている事に気づく。
「なんでしょう…?」
「開拓者!もしかしてエレファムルの方ッスか!」
「え、えぇ」
何でアユムがエレファムルから来たのが分かったのか、少し警戒し見えないよう指を構えるが…
「凄いッス!ここ辺りは冒険者だらけで開拓者いないんス!だから一か八かエレファムルのと思ったっスけど…本当だなんて!」
と斜め上からの言葉にズッコケそうになる、確かに一番人間の手が入る王都周辺などは開拓者の仕事は少ない。
冒険者のように振舞えばいいがそれなら冒険者になればいい話であり開拓者でなくてもいい、その為仕事を求め開拓者は辺境の地や開拓最前線の一つエレファムルに集まる。
それ等を踏まえて当てたらしい。
「ボク誰も見たことない景色や誰かの役に立ちたいと思ってて開拓者に憧れているんです!お師匠様過保護だから開拓者にさせてくれないんスよ!」
「…お前はまだ未熟だ、その程度では足手まといになるだけだと言っている」
「ははは…まぁ危険な仕事ではあるんで…」
開拓者をしてたら吸血鬼と戦ったり使徒と戦ったり四魔獣と戦う事になる為おすすめ出来る職ではないのは確かである。
「ちゃ…チャンマルちゃんも探偵なの…?」
「ボクは探偵…ではなく助手なんだよね、探偵って言えたらカッコいいんだけど…」
「助手さんでも凄いよ…!」
「そっかなぁ照れるな~」
微笑ましい女子トークを眺めながらアユムはキンを見る、探偵はアニメやマンガでは派手な事ばかりだが実際は派手さは無く地味な仕事が多いと聞く。
しかしここは異世界、某子供探偵よろしくド派手な仕事なのかもしれない。
「キンさん少し聞きたいんですけど探偵ってどんな仕事してるんですか?」
「…迷子探しや逃げたペット捜索だ」
「(じ、地味だー!)」
異世界でもイメージ通りのなのに夢も希望もないが逆に言えば平和なのだろう、そう考えていると日が沈みかけ夕日が眩しく思わず目を細める。
「流石にそろそろ帰らないと心配かけちゃうな…シイン帰ろう」
「え…あ…その…」
と、シインはチャンマルの手を握ったまま離れそうにない。
よほど同じ趣味の友達が出来て嬉しかったのか人見知りとは思えない真剣な目を向けられるとアユムも少し申し訳なく感じる。
「シインちゃんここで永遠のお別れじゃないんスから心配しなくてもまた会えるッスよ~!」
「ほ、ほんとう…?」
「このチャンマル嘘はつきません、なんならうちの拠点の場所教えとくので暇な時来てくださいッス!大体いるんで!」
「…わか…た…」
渋々手を放すシインは子供っぽく年相応とは言わずともそれらしい様子で後でユリ達に教えようと思いながら目を閉じ集中すると、アミーラの反応が城に向かっているのが分かりあちらもアユムが勝手に戻ると考え先に戻っているらしい。
「それでは」
「チャンマルちゃんまたね…」
「また会いましょう!」
お互い別れを告げ別々の方へと歩き始める。
「また会おう、『富谷歩』」
「?」
名前を言われ背後を振り向くがもうそこにはキンもチャンマルもいない。
「…俺フルネーム言ったっけ…」
「…?アユムさん?」
「あぁいや、何でもない…行こう」
疑問が残るがあまり深く考えずアユムとシインは人混みを避けながら王城へと向かって行く。
アユム達が城へ向かって行くのを眺めながらキンとチャンマルはマントを身に纏う。
「お師匠様、本当なんでしょうか?あの人が魔獣を…失礼ですけどそこまで強そうには」
「…見た目で判断するなチャンマル…油断はするな、警戒に越した事はない」
「わ、分かりましたッス!」
「行くぞ」
マントで姿を隠す二人だが周囲は気にする様子は無くそのまま二人は人混みに紛れていき何処にいるかも分からなくなっていく…
──────────
早速アユムは城で合流し食事を済ませた後にユリとサリアの元に向かい外出中にあった事を話す。
「…めでたい」
「シインに友が出来た…喜ばしい事だが少し信じられないのが本音だ」
「凄い意気投合してたよ」
「そうか…あのシインがそこまで言われるほどに」
「…今度私達も行く?シイン連れて」
「いいかもですね、今後旅をしていくのも考えて仲を深めるのは良いことですから」
そう話す二人の表情は穏やかだ、こう見ると最初の強張った顔だった頃とはだいぶ変わったとアユムは考えているとユリが突然アユムの二の腕を軽く殴る。
「…それよりいつの間にアユムはシインと仲良くなったの…?」
「確かに、あまり接点は無かったように思えるが」
「そりゃかくかくしかじか」
「うまうま」
ユリとサリアにダガリオと同じような説明をする、カルロス王との会話をどうするか悩んだがサリアがいるのもありダガリオの時と同じようにぼんやりとぼかしながら話すとサリアが考えるように腕を組む。
「王の考えは分かる、私も同じことを考えただろうから」
「ダガリオと同じこと言ったな…」
「だがアユムは魔獣を討伐したと言っても勇者ではない、強制力は無い…危険な事もあるだろうからというカルロス王の配慮がよく感じる」
「…王様結構優しい」
「確かに、俺もそう思う」
どことなく王族らしからぬ行動や言動があるが親しみやすい良い王とも言えるだろう、アユムを異世界人ではなく一人の人間として見てくれている。
「…まぁ明日を迎えたらどんなに王様が色々してくれても忙しくなるけどね」
「あぁ明日か授与式」
「それもあるがユリ様が勇者として本格的に発表されることになるんだ」
「あー…そういえば…」
「四家の事が無ければ楽だったが四魔獣の討伐、これがあればしばらくはとやかくは言ってこれまい」
勇者の子孫、その子孫が枝分かれで増え四つの子孫が自分が本当の勇者のと争っているという話を思い出しアユムはげんなりする。
かなり面倒そうな話な上にユリを召喚した事を考えれば王側もかなり厄介に思っているようだ。
「…けど私が一人でやったわけじゃないし、アユムが居たから討伐したからアユムが勇者に相応しい」
「話がややこしくなるでしょうが」
「ユリ様自信を持ってください、ユリ様は勇者として私達を守ってくださってくれてましたし今後厄介な敵が現れてもアユムがいます…そうだろうアユム?」
「いやまぁ居たら手伝うけどいなかったら自分達で頑張って?」
「…ガバラマド教国には瞬間移動の方法が確立されてるらしい」
「行けと?瞬間移動で???」
就寝時間まで雑談しアユム達は自室へ戻っていく、明日は忙しい日になるだろう…憂鬱になりながらアユムはベットに倒れこむように寝っ転がり薄れていく意識の中で思うのであった。