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約千文字の三題噺

量子力学の天才は今日もえんぴつを削る

 早朝、自分が所属する研究所に入る。きょうは同期の中で私が一番乗りだったようだ。


 自分に充てられた机に向かい、英字新聞を読む。ここにも私の研究成果が一面を支配していた。認められた嬉しさ半分、小っ恥ずかしさ半分、と言ったところか。


 読み終えたところで研究資料に眼を通す、前に。


 奥にある箱型の鉛筆削りを取り出し、筆箱のえんぴつ三本をグルグルと尖らせていく。


 これが私の毎朝のルーティーン。あの頃から常に怠らなかった脳を仕事モードに切り替えるある種の切り替え法だ。


 小学生の頃、鉛筆削りから大量の削り屑と黒鉛の粉を捨てようとゴミ箱まで持っていった時、ふと疑問に思った。


 このえんぴつから出た小さな黒い粉。これをさらに細かく砕いていったら、どこまで小さくなるのだろう。


 気になって仕方なくなった私は図書館でそれっぽいものを読み漁り、目には見えない原子や分子、素粒子の存在を知った。


 これ以上分解できない小さなものが引き起こす現象。私はその魅力に取り憑かれた。


 量子力学を専攻することにしたのはこれがきっかけだった。


 当時はまだシャープペンシルの所持が認められていない時代だったので、必然的にえんぴつを使うことになり、そしてその度に削り、黒鉛の粉よりも小さな粒子のことを考え続けた。


 大学に入ってからはシャープペンシルの所持が禁止されるようなことはなかったが、ずっと使い続けてきた影響でえんぴつが手に馴染み、それ以外の筆記具で書く発想が無意識のうちに何処かに投げ飛ばされていた。


 他の人は宿題を終えた後に鉛筆削りを使うそうだが、私の場合は逆だった。宿題の前だ。削って量子力学への興味を膨らませ、そして勉強へのモチベーションを上げていた。量子力学を学ぶには前提となるたくさんの知識が必要だったので、少しでもやる気を上げる手段が必要だったからだ。


 今日もえんぴつ三本削る。


 よし、よく尖っている。


 筆箱に今使わないものをしまい込み、一本だけ手に持ち、もう片方の手で研究資料のページをめくる。


 既に脳は仕事モードに切り替わっていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] かっこいい!と思いました。 本当に一言ですみませんっ
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