4-19 学園を出た馬車の中では……
「ビイ様は、あちらへ」
僕が渋々、姉上の向い側の席に座ると馬車は動き出した。
「ねえ、ビイ、いったい何だったのかしらね?」
姉上が閉じた扇を頬に当てながら僕を見る
「フレーミイ王子は大きな声で、わたくしが嫌がらせをしたとか?謝罪する機会だとか言うけれど、リリって?あの王子の傍らに居た方のお名前よね?フィルたちが言っていたピンクウサギというのがあの方なのよね?」
姉上は数理の宿題をやっている時の様な顔になっている。
「フレーミイ王子に その質問をすれば良かったですね?」
今年に入ってから、フレーミイ王子とリリはその熱愛ぶりで学園中に話題を振りまいていたらしい。けれど 僕達は王子達とは違う方向で興味を持たれてたから、その注目から逃げるのに忙しくてリリに関わる暇などなかった。姉上に至ってはその名前さえ認識していない。
「そうね それなのにビイが割り込んでこなかったらそうしたわ」
姉上は頬に当てていた扇を半分開いて口元を隠す
「ねえ 今頃 学園では皆 わたくしのことを何て言っているのかしら?王子の想い人に意地悪する伯爵令嬢?」
姉上の瞳が光るのは、怒り? 姉上が隠したいのは怒りの感情?僕は 姉上の扇を優しく 奪い取る。
「姉上 入学してすぐに 僕がアーサーに絡まれたことを覚えてる?」
「ええ 覚えているわ」
「僕が運よく 伯爵家の養子になれたというのは本当だけど――」
姉上が何か言おうとするのを奪った扇で遮る
「僕がその上に胡坐をかいている。なんていうのは、真実ではない、悪意のある噂。
あの時にリックが 噂は早めに消さないとって言ってたでしょ?悪い噂はさっさと消さないとダメなんだ。もう 姉上がピンクウサギに意地悪した、なんて噂は消えている頃ですよ」
「え?もう?」
「だって 会場を出る事には大概の生徒は姉上の味方のようだったよ。姉上がそんなことするはずないって知っていたみたいだよ。ほら、姉上が一昨年の卒業パーティで踊って足を踏みまくっていた男子生徒とか園遊会(アルの茶話会)で優しくされた男子生徒とかは 姉上が意地悪なんてするはずないって大きな声で言ってた。それにアーサーや武の一族、グリーン公爵家に連なる家の生徒達が不敬覚悟で王子の行為を非難していたのが聞こえたよ。まあ、あのピンクウサギとアルの護衛のロマンスというのは予想外の展開だったけどね」
最後は呆れたように言うと 姉上は驚いたような顔をした。
「ロマンス?って?」
「姉上は 気が付いていなかったかもね。
あの 園遊会の日にね、大きな水音がして、僕やビビア嬢、何人かの生徒がが水音の方向、噴水の方を見たら、ピンクウサギが噴水からびしょぬれで上がって来たんだけど、次の瞬間にはアルの護衛がピンクウサギを横抱きですごい勢いで連れ去って行ったんだ。
そのまま退場したんだろうけど、妄想好きな生徒たちはラブロマンスに発展させたみたい。姉上の話よりも、そっちの方が面白いよね?」
「そうね ふふふ」
姉上がやっと笑った。
「アルフレッド殿下からの お手紙と”差し入れ”だそうです」
静かに、僕達を見守っていたクレアが僕に箱を差し出した。
「いつの間に?」
「私共が お迎えの支度をしている時に見えられました」
”差し入れ”は 見覚えのある いつものアルのランチボックス。手紙は宛名も封印もないけれど アルの字だ。
"きょうは久しぶりににあえて楽しかったよ。 また会うのが楽しみだな。
フレーミイの事は任せておいて
ザベスへ 花束は小さいけれど、僕を見つけたらブーケトスしてよ!”
姉上に見せて、二人で首を傾げる。
「ブーケトス?」
「ああ、ルバートの風習じゃないでしょうか? なんでも投げられたブーケを受け取ると幸せになるとかいう」
クレアって色々知っているけど、それは転生者の知識なのかな?それとも、大人の一般教養?
「クレアって本当に色々と詳しいのね」
箱を開けると、ランチというよりは、アルの好きなお菓子やスナックが入った”おやつ箱”。
小さな青と白の花束も入っている? あっけにとられている僕を他所に姉上が花束をシートの上に置いた。
「パーティでご馳走を食べ損ねましたものね?」
姉上がクレアに箱の中を見せると、クレアは御者側の椅子の中からから何かを取り出そうとこちらに背を向ける。
チャンス!
日頃の行い!大事です。




