4- 9 男同士の会話 かもしれない!
「ねえ、リック、今から僕、リックを説得するからよく聞いて」
「おう」
リックも僕と同じようにして、僕と向かい合う。
「学園では平等って言いながらも、必ずしもそうじゃないよね。ましてや学園を離れたら、僕達は身分制度の中で生きていく。
リック達が強いのは正義って言うように、身分が高いのは正義、ってなることも有るよね。
フレーミイ王子とリックだったら、力だったらリックが強いけれどフレーミイ王子には逆らえないでしょ?
リックは強いから僕達を守ってくれるって言ったけど、それには物理的な力だけじゃなくて、身分とか社会的な地位、という強さも必要になる。その強さを得る為には学園の騎士科を卒業する事が近道だと思うんだ」
僕はずるいので、フレーミイ王子のこともちょっぴり入れておく。
「回り道っぽいけど、やっぱり、それが近道なのかなあ?」
「いろんな力をいっぱい身に着けて、弱い僕達を守る、国一番の騎士になったリックを見せて欲しい」
「いろんな力、かあ」
リックがポスンと頬杖を崩して、僕の方を向いたまま枕に頭を落とした。
「ねえリック、自分の為だけじゃなくて、僕や、ビビア嬢の夢の為にも、騎士科へ進んで学んで欲しい。あと3年あったら、学園の武の一族の扱いや、一族の生徒自身の考えだって変えられるよ?その後で市井の不良騎士を排斥しても遅くはないんじゃないの?」
リックが体の向きを変えて天井の方を見る。僕との距離が少しだけ広がる。
「なんか、眠くなった……おやすみ ビイ」
リックがまた回転して僕に背を向ける。
「うん、おやすみ リック」
そう言いながら、僕は薄暗がりに浮かぶリックの赤い髪を見つめる。
武の一族の生徒達は赤髪が多い。
多分、悪いことをしても目立つ(アーサーに絡まれた時だってすぐに先生が来た)でも、良い事をしてもやっぱり目立つのだ。
今 少しずつ変わっている 武の生徒達。
「武の生徒は正義感が強くて、優しくて強い」そういう目で見られ、頼られれば他の学年に所属する武の一族の生徒達だって悪い気はしないし期待に応えていくだろう。
ビビアは 学園の武の一族の行動を”公爵家”の力に頼る事でなく、自分の行動で変えていく、そして変える事が 騎士の地位の向上につながると思っているのだろう。
夢のエリックは、フレーミイ王子につき従っていたようだけど、この世界のリックにはビビアを支えて欲しいなあ。
そこまで考えた時、小さなアクビが連続で出て瞼が重くなった。
***
翌朝、僕が起きた時にはリックはもうベッドに居なかった。
”朝の訓練に行く。 部屋で待っていて”
走り書きのメモと うちから届けられた僕の制服一式と登校セットがベッド脇の机の上に置いてあった。その中に姉上からのメッセージカードが入っていた。二つ折りにされて封筒に入れられたカードには一言
「ビイばっかり ずるい!」
と 書いてあった。
姉上、ごめんなさい。母上にサフラン侯爵家か、わが家での女子お泊り会でもお願いしてください。だって、リックのベッドに三人は無理だと思うし……
リックを待つ間、リックの部屋の本棚を眺める。一番下は子供向けの絵本やおとぎ話が収められている。兵法の棚はよく見たけれど、おとぎ話の棚は見たことが無かったなあ。小さいころのリックは、どんな顔でこれらの本を読んだんだろう?
僕はその棚の中で一番ボロボロになっている本を取り出す。
”海竜とお姫様”という聞いたことのない絵本。海辺で貝を拾って遊んでいる赤毛の姫。その姫に襲い掛かろうとする海竜、姫を守ろうと剣を抜く赤毛の騎士。その騎士を姫が押しとどめて、歌を歌って姫と海竜は友達になる。最後には騎士も一緒に踊りだす。という 戦わない騎士の絵本。
こんなにボロボロなのは 気に入ったからじゃなくて、納得できなかったから、なのかな?
それとも 自分と同じ赤毛の騎士とビビア嬢を思わせる赤毛のお姫様のお話だからかな?
僕はリックが戻ってくる前にその本を元に戻して、その横の豪華な絵本を取り出す。こちらは、僕も読んだことが有る姫を竜から守る騎士のお話。
その朝はルビー家から、リックと一緒に登校した。
でも、昨日のリックと僕の勝負の話も、ベッドの中での話も話題にはならなくて、左剣のメリットとデメリットとか、双子の薬草畑の為にフィルが苦労するだろうって話とか、姉上の教科書の片隅にかかれている絵の話とか……そんな話ばかりしていた。
予期せぬお泊まり会でした。それを聞いた時のザベスの心情は?!




