4-6 僕はずるい のです
リックの部屋じゃなくて 洗面所へ連れて行かれた。
「顔 洗おうぜ?」
鏡には情けない顔の僕が映っている、その隣でリックはバシャバシャと顔を洗う。
「ほら!」
リックから櫛を渡されて 髪も直す
「自分で身づくろいできんだよな」
「当たり前」
服の乱れも直して、鏡の中の自分に笑いかける。母上みたいな優雅な微笑みの自分に、素でない自分の顔に少し落ち着いた。
「お茶入れて持っていくから、先に俺の部屋で待ってて 分かるよな?」
「ん、分かる」
**
ルビー侯爵家にもリックの部屋にも何回か来たことはあるから リックの部屋はもちろんわかる。
日当たりの良いリックの部屋で、本棚の本を一冊手に取る。
何回も読み返されて、書き込みが沢山ある。幼い字が上からぐしゃぐしゃと消されて、違う書き込みになっていたり、メモが挟まっていたり……
リックは参謀向きだと思う。実践力も有る参謀。無敵だよね?素敵だよね?
それなら やっぱり、学園の騎士科を出て、軍師にでもついて勉強する方が良いと思う。
けれど、僕は、リックが学園を辞める方向に背中を押した。
『ビイ、お前は一生懸命にやったんだから それで負けたんだからしょうがないよ。ちっとも悪くない しかも リックの希望だしな』
また、囁き声が聞こえる。
罪悪感と後悔の気持ちでいっぱいになって、僕は、両手に顔を埋めた。
トントントントン
「入るぞ」
自分の部屋なのにノックをして入ってきたリックは、器用に片手にお茶のトレイを持っている。
僕は慌てて涙を拭いて、ドアを開ける手伝いをする。
「ありがとな」
お茶のトレイに気を取られているリックは 僕の顔を見ないでトレイをテーブルに置く。
「ビイ これ好きだよな?」
「うん ありがと」
リックが淹れてくれたのはローズヒップのちょっと酸っぱい赤いお茶。
僕の前にカップを置いて、リックは自分のカップを持ちながら僕の真向かいに座る。
「ビイ、大丈夫か?」
「うん、もう 落ち着いた」
「いや、お前、本当に嘘が下手!貴族として失格!全然、大丈夫そうじゃない」
僕は力なく笑ってリックを見る
「ごめん、もう帰ろうかな?」
「泊って行けば?」
「え?」
「で、俺が学園をやめないように、説得しろ!あ、そうだ、これをお前にやってほしい事にしよう!」
「は?」
「だから 俺を説得しろって!」
リックがいう事が分からない。僕、今リックと一緒に居たくないのに、泊まれって?
それで 説得? 誰を? 誰が? 何の?
事態が呑み込めないし、僕は返事もしていないのにリックが立ち上がって部屋のドアを開ける。
「アリス!!ヒビキ殿は今日お泊りだから、万事ヨロシク!」
「ぼっちゃま!」
「オネガイシマス」
急いで、でも、静かにリックがドアを閉めた。手にはクッキーの入ったカゴ
「これアリスが持ってきた」
カゴを置いて 正面から僕を見る
「お前が俺を説得しやすいように俺はこれから独り言を言う。独り言だから突っ込むなよ!」
リックが人差し指を振りながら僕を見て、それから ソファの背に身体を預けて天井を見ながら”独り言”を言いだした。
「ビイが勝負を提案した時、勝ってやろうって思わなかった。むしろ、負けようかとも思ったんだ。学園を続ける言い訳になるって」
え?学園、続けるつもりだったの?それなら僕はなんて事をしたんだ?ぐるぐる回る世界の中でリックの言葉を待つ。
「でも、ビイが勝負に出た時に、俺は本気になった。力が正義ってビイが思ったなら、ちゃんと力を出そうって思った。それでも、本気になったのに、最後の最後には冷静になれた。相手を叩きのめすんじゃなくて、勝負をつけるだけで終われた。俺が勝ったんだから、俺が正しいんだよな。」
あ、僕が”力が正義”って判断基準に頼ったのもリックにバレてる……
「あれ?じゃあ なんで俺、迷うんだ?」
これは 本当に独り言だね。そうだよ、リックが勝ったのになんでこんな僕を助けてくれようとするんだろう……
thanks 読んで頂きありがとうございます
アリスさん、ご記憶でしょうか?




