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4-5 勝ったら正義なのです…が

「ねえ リック、僕と勝負しない? 僕に負けたら、リックは学園を辞めちゃ駄目だよ」


正しい方が勝つなら この勝負で勝った方が正しいんだ。

リックが勝つなら リックは自分の思いを通して、学園を辞めればいい

つまり、僕がリックにやめて欲しいと思っているのなら、僕は負ければいい。

反対に僕が勝てば、リックは学園に残る。リックは学園に残っても絶対に姉上に手を上げたりはしない。僕がそれを信じられるなら、絶対にリックに負けられない。

僕の中のどちらの僕が勝つだろうか?どちらが”正しい”んだろうか?


「ふーん じゃあ俺が勝ったら?」

「え?」

「俺が勝ったら……そうだな、ビイは俺の言う事を一つ聞く」


リックがそんな事を言うとは思わなかったけれど、僕だけが条件を出すのは不公平だよね。


「絶対に一つ、だからね」


渋々、了承する僕に リックがニヤリと笑って頷いた。


 僕はもちろん 動きやすい服装で来たけれど、リックも剣の練習着に着替えた。

気合が入っている。まさか、僕に無理難題を押し付けるつもり、ではないよね?

リックの事だから少し心配だ。そんな事を考えて 緊張を解く。

実力ではリックの方が上なんだから、緊張なんてしていたらますます勝てるわけがない。


**


 二年ぶりの侯爵家の練習場は、屋内だからか学校の練習場よりも少し小さく感じる。あの時、エディと試合をした剣の先生が立ち会ってくれる。


「GO!」


すぐにリックが上段から攻めて来る。

リックの剣は上級クラスの中でもトップだ。流石、三歳から剣を握っているだけの事はある。

僕だって、2年だけど練習量では負けてないし、エディに厳しく指導されているし、作戦だって考えて来たんだ、勝算無しに挑んだ訳じゃない。ハズなのに、リックの重い剣に押されるばかり。

でも今日のリックは鋭さに欠ける、まだ本気になって無いのだ。それなのに僕は防御するので精いっぱいだ。このまま僕が負けてしまったらリックは学園を辞めてしまう。そんなの嫌だ!!

習った事を全部使って前に出る。

左剣なら僕はアーサーに勝った事が有るし、リックと引き分けたことも有る。だから、リックが本気になる前に!起死回生の一発を狙って剣に左手を添えて両手で持ち、それを左手に持ち換えてそのまま一気に攻める。


め!」


僕の左胸にリックの剣が当たって、ない。

夢見と違ってリックの剣は僕の胸の前ギリギリで、触れる程度で止められている。


僕、負けたんだ……

最初の位置に戻って お互いに礼をする。もちろん、立ち会ってくれた先生にも。


「ビイは、意外に、ギャンブラーなんだよなあ 左剣は勝利か死か だぞ」


息を切らしながらリックが言う。

僕は同じように息を切らしながら、差し出されたリックの手に使っていた模擬剣を渡す。そして、ベンチに座って片付けに行ったリックが帰って来るのを待つ。


僕は負けた。それは リックを信じ切れなかったから?リック、学園をやめちゃうのかな?僕が勝てなかったから?リックが辞めたら僕は嬉しいの? 安心するの? 僕は本当にそれでいいの?

考えが纏まらない。


「ビイ、部屋に戻ろうぜ」


リックの声が降って来て、僕はぼんやりとリックを見上げる。


「ビイ、落ち込んでるのか?お前 確かに上手くなったよな。ま、俺に本気出させたんだぜ。立派なモンさ。 ………… ほら!」


立ちあがりもしない僕に差しだされたリックの手を反射的に握ると、ついっと簡単に立ち上がらされる。

力も、経験も、技も、何もかもリックの方が数段上だ

『負けてよかったな ビイ、こんなに強いエリックをエリザベスの近くから、学園から排除できるぜ』

そんな囁き声がする。


「いくぞ?!」


返事もしないでリックを見ている僕の手をリックが引いて歩き出した。


「ビイ 何があったんだ?」


「……」


説明できない僕は黙ったまま歩く。


「夢見か?」


誤魔化す事が下手な僕はビクリと手を握ってしまう。


「ああ、そうなんだな?」


僕は今度は反応しなかったはずなのに


「言えないんだろ? 聞かないよ」


二人とも黙ったまま、手を繋いで歩いていく。


「そうだ!ビイに何をしてもらおうかなあ」


楽しげな声にビクリとして 立ち止まってしまったのをリックが振り返って笑って、またグイと手を引いて歩き出した。


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