3-32 卒業式前夜にサイレント(無声)な夢見 をした話
明日は 卒業式、そして卒業パーティだ。 僕はベッドの中で何回目かの寝返りを打つ。
ピンクウサギは相変わらずフレーミイ王子に纏わりついている。けれどグリーン公爵令嬢はもうそれを咎める事はしない。
それでも彼女が婚約者候補である事は変わらないし、グリーン公爵令嬢は卒業生代表でもあるのだから、卒業パーティはフレーミイ王子がエスコートされるのだろうか?
僕はもう一つ寝返りを打つ。
そして、フィルがランチを食べながらぼやいた事を思い出す。
「最近のピンクウサギ大胆だよな、馬車の降車場で王子を待ち伏せしてるらしいよ。
グリーン公爵家に連なる家の生徒達はピンクウサギをあからさまに無視してるけど
ピンクウサギは気が付かないらしいんだよね。 頭の中どうなってんだろ?」
僕の前ではピンクウサギの話はしないって言うのが暗黙の了解になっているから 双子や姉上に睨まれてフィルは口を噤んだ。僕としてはむしろ聞きたいくらいなんだけれど、フィルの話はそれで終わった。
僕は 今度は真上を向いてみる
そんなことよりも、姉上の明日のドレスだ!
なんだか心配で憂鬱な卒業パーティだけれど 姉上のドレス姿だけは楽しみにしている。
僕はアルにあわせて制服だけど 姉上は僕の髪色に併せて銀のドレスを仕立てたって聞いている。
もちろん姉上は何を着ても絶対に似合うと思うけれど僕の髪色にあわせてくれたというのがすっごく嬉しい。
姉上はリリの名前も知らないし 王子の事なんて何とも思っていないから何事も起こらないはずだ。よし大丈夫
覚えのある浮遊感に目を開ける。
あ ここは…… 僕は王立学園の講堂の天井近くを漂っている。
卒業記念パーティだ 夢見…なのかな?
まだ ダンスははじまっていないのかとても静か……ん?違う 音が無い
それも違う 僕の耳、何も聞こえない。
生徒たちは動いているのに 扇の音も衣擦れの音も足音さえ聞こえない。
生徒たちは互いに話し、首を振ったり頷いたりしているのに 一言の囁き声さえ聞こえない。
生徒達の集まりの中心がポカリと開いているのに気が付いた。生徒たちが遠巻きにしているのは……
左手にリリを抱きしめたフレーミイ王子、そして 対峙しているのは黒いドレスの女生徒?姉上?
否、あれはエリザベスだ。何で黒いドレス?黒いドレスは、王族以外は着てはいけないのに?
僕が混乱している間にも 王子は動いている。
王子が右手の人差し指をエリザベスに突きつけると エリザベスが黒い扇をこれ見よがしに広げて嗤う
怒りに顔をゆがめた王子が振り返り 後ろの誰かに何かを言う。誰が居るの?えっ?リック?
王子の言葉に何か答えたリックが鞘を付けたままの剣を姉上に振りかざす。なんで校内で帯刀してるの?
あれは姉上じゃなくてエリザベスだけど、でも、それでも、こんな予知夢は叩き壊す!
僕はエリザベスの元に飛び降りる。エリザベスを右手で抱きしめて左手でリックの剣を掴む。
でも、リックは凄い力で押し返してくる。
「左剣は、左胸のガードが出来なくなるでしょ?」
エディの声が聞こえた気がした。
***
夢? 意識が戻る。ここはいつものベッドだ
夢見だ 知らせなくちゃ 誰か!!でも 身体中が重い、苦しい、目が開けられない。
右手をサイドテーブルに伸ばして手探りでベルを探す。水差しが落ちて ガチャンと大きな音を立てる。手の先に触れたベルを鳴らす。
「何があった?」
父上の声が飛び込んできて、僕を抱いて、僕の口元に耳が寄せられた。
「卒業パーティ……エリザベスが 黒い服で 王子に……ぼく、守れたかな?」
僕の部屋に何人もの人が入ってきた気配がする、父上の声も……僕はまたどこかに落ちていく――
真っ暗闇
何も見えない何も聞こえない。誰かが引き上げようとしてくれるけれど、浮上出来ない。
thanks




