3-10 大根役者OR千両役者?
リックがグラスを空にする。
「ビイに対しての悪意のある噂の出どころを俺なりに探ってみたんだけど、よくわからなかったんだ。まあな、噂なんてそんなものなんだろうけどさ。」
ああそうか 何処からともなく出てきた噂が独り歩きしたり、勝手な想像で悪意を持たれたり、下手をしたら「正義」の名目で攻撃されることも有るんだな。
壁際にある椅子に移動しながら そんなことを考える。
途中で 新しいグラスを手に取り 椅子に腰かけた姉上に渡す。
「武の一族の一年生全員の前でアーサーに謝らせる、というのは、ビビアの考え」
リックが鼻にシワを寄せる。
姉上は以前リックが両親と共にわが家を訪れたことは知っているが その後の詳細は知らない。
「俺は上手くいかないって言ったし、まあ 上手くいかなかったけどさ。
俺ら結局”力が正義”だからな。 ビイが勝つとは思っていたけど、ちょっとやりすぎたからヒヤリとしたぜ。
ルールを守ると言うのも俺たちにとっては重要なコトだからな、ザベスのおかげで助かった。」
リックは姉上に軽く頭を下げ 姉上は肩を竦め、僕はグラスを弄ぶ。
「僕 止められているのがよくわからなかったんだ」
「まあなケンカとか勝負だと夢中になるから、人の声が聞こえない事ってあんだよな」
自分も覚えがあるのか リックはちょっと遠くを見る目になってから、僕を見る
「あとさ、いくら格上の家に養子に入ったって必ずしも幸運じゃない。本当に羨ましがることなのか?て事を知らしめたほうがいいってい言ったのはフィル、あれで上手くいったかな?」
ちょっと考えてから 僕は頷いた。
自分たちの弟や妹の話になった時には怯んでいたから、初めて真剣に考えたんだろうな?
そう思わせられたなら上手くいったんじゃないかな?
「ビビア嬢は 即興なのかしら?」
「俺も ビビアも即興」
「それは凄いね 二人とも役者を目指す?」
ビビアに関しては 教室での令嬢風と一族を前にしたときの、覇者のような立ち居振る舞いやオーラが違いすぎて驚いたけれど、どちらも ビビアン・クレナイなのだろう。
「は?バカ言うなよ」
「そうねえ わたくしはあれではちょっと難しいと思うわ?」
「特に リックがね」
クスリと姉上が笑うのをきっかけに 三人で声をたてて笑った。
これからも僕は出自で 何かを言われることはあるのだろう。
僕はアイスブルーの出自や家族の事を恥ずかしいとは思わない。贅沢は出来なかったけれど幸せな子供時代だった。
今、伯爵家子息としてだって まだまだだけれど努力してきたから他人から何か言われる筋合いは無い。
実の息子として、愛してくれる家族も、出自など関係なく僕に仕えてくれる者達も居る。
それに 僕をきちんと認めて理解してくれる友人達も居る。
だから 僕は卑屈になることは無い、堂々としていればいいんだ。
ただ、守ろうと思っている姉上に守られているという現実にちょっとだけ落ち込む。
もっと成長して 何を言われても負けないくらい強くなって 姉上を守れる人にならなくちゃ。
「解散の前に 知らせがある」
突然 ビビアの声が響き渡る
「我の家の侍女の家からも一人、目出度く入学を果たしたものが居る。紹介しよう」
ビビアに呼ばれて 一人の少女がビビアの横に立つ。
ビビアよりも 頭一つ小さい茶色い髪と目の少女。
「名をココという。
武の一族の者ではなく平民ではあるが、一族同様に平等に扱って欲しい 特にCクラスの者は頼むぞ」
ココがぎこちないながらも 貴族の礼をする。
「「お任せください」」
声を上げているのはCクラスの学生なんだろうな。
リックが僕達にだけ聞こえるように声を潜める。
「ビビアの父親とか兄さま方が一人娘のビビアの為にって見どころのあるココに受験させたんだよ
学園に侍女の一人もいないんじゃ心配なんだってさ 娘には甘いんだよ」
「リック 詳しいのね?」
「まあ 近い親戚だからな」
「あら それで ビビアって呼ぶのね?」
「まあな 小さいころからの付き合いだからな」
リックと姉上の囁き声を聞きながら、僕は ビビアの横に居る小柄な少女に注目する。
そういえば 昨日もビビアと一緒にいた子はこの子だった。
Cクラスや平民の情報が手に入る伝手になりそうだな。
「ビイったら ココに興味があるの? ふーん」
姉上が探るような目で、僕を見る。
「ええ 興味がありますね(Cクラスや 平民とのつながりが持てる事に)」




