3-9 余興?は どこからどこまで?
「なあに大丈夫だ、心配するな。
ヒビキ殿が養子に入ったのは4歳だと聞いている。7歳なら十分であろう?
身体が小さい?わが家で鍛えれば 身体は大きくなるぞ?我を見よ!
イチイ男爵の反対? 養子に入るのに本人や格下の家の意思など尊重されると思うか?
クレナイ家のご当主の希望となれば そのような理由は通りはしない。そのくらいは分かるであろう?
お前たち子爵 男爵家の娘が公爵家の娘になるのだぞ これ以上の幸運が有るか?」
言い訳を片端から笑い飛ばすビビア。
リックの声もする。
「ほかに妹や弟を売り込みたい者はいないか? 後悔するな!機を逃すな!」
会場が静かになり、離れたところに居る僕にも ビビアとリックの声がよく聞こえてくる
「なぜ 誰もおらぬのだ? ああ アーサーお前にも弟がいるな?」
「居りますが ご存知のようにあまり丈夫でなく…」
「遠慮することは無いぞ 公爵家の養子になるのだぞ。
伯爵家の養子になったことを単なるツキだと、幸運だと妬んだのだろう? そのツキを分けて欲しいと言っていたではないか? 喜べ、伯爵家ではなく公爵家だぞ?」
それでも アーサーは黙ったままだし、他に名乗りを上げる声も聞こえてこない。
静かになった会場に まるでビビアを慰めるようなリックの声が聞こえる
「なあ ビビア、爵位が上の家の子供になる事がその子供にとって、必ずしも幸運ではない。という考え方もあるよなあ?」
僕の所からは まるでビビアとリックが芝居でもしているかのように見える。
「うむ その考え方も判るぞ。我も家族と離されるとなれば、たとえ王族でも辛く思うかもしれぬ。
その上、妃教育というのも 我にとっては修行よりも辛そうだ。
しかし アーサーは、いやアーサー以外にも、ヒビキ殿がただ転がって来た幸運をつかんだだけと羨み 偽の伯爵令息と陰口を言っていた者がいるのだろう?少なくとも 彼らは幸運だと考えているという事ではないのか?」
リックと話をしていたような体のビビアが 首を回して一同を見回す。見回された方の幾人かは項垂れている。
「リック お前から見てヒビキ殿はその幸運の上に胡坐をかいているように見えるか?」
「いいや。俺が知る限りは武の家だからと所作を疎かにしていた俺よりも、よほど貴族らしい所作を身に付けている」
「ふふふ まあ お前の所作は侯爵家には足りぬな。まあ 我も人のコトは言えぬか?」
パチン!
ビビアが両手を打ち鳴らした。
「まあよい。余興は終わりだ。残りの時間親睦を深めあおうぞ。」
「「「「おう!」」」
僕はまだペタリと床に座り込んだまま この芝居の様なやり取りを他人事の様に眺めていた。
ふと隣に姉上が同じように床に座っているのに気が付き、慌てて立ちあがり姉上に手を差し伸べて立ち上がらせる。
「姉上 ありがとうございます。危なくアーサー殿に怪我をさせるところでした。」
「そうねビイ わたくしが居るのに目に入らないようだったわよ 失礼ね」
「申し訳ありません」
姉上がわざとらしく怒って見せるので 僕は姉上に頭を下げる。お詫びと感謝の気持ちを込めて……
立ちあがった僕達の周りに 数人の生徒がやって来て、謝罪の言葉を口にする。
自主的に謝ってくれているのだが、見ず知らずの同級生から悪意を持たれていたのかとショックを受ける。
いっそのこと それぞれの心の中にしまっておいてくれた方が僕のダメージが少なかったような気もするけれど 武の人たちにはそれはそれで「ずるい事」になってしまうのかな?
「さあ 我に聞きたい事がある者はいないか?今日ならなんでも答えよう」
前方からのビビアの声に、興味本位から僕の周りに居た何人かが ビビアの方に移動する。
姉上と二人になってふうと息を吐く僕の目の前にグラスが二つ差し出された。
「俺たちって 赤が縁起の良い色なんだぜ」
リックと姉上と三人で、赤い葡萄ジュースを飲む。ゆっくりと飲んでいると、不思議に心が落ち着いた。
「随分と大掛かりなお芝居だったわね?リックが考えたの?」
「いや ほとんど偶然。 茶会の連絡なんて 昨日の夜だったし。でも 結果オーライかな?」




