3-5 売られたケンカ…… 買いたくないなあ
「ビイ!ザベス! おはよう」
「あ リック おはよう」
「あら おはよう。リック」
入学式の翌日、姉上と並んで教室棟へ向かっていると後ろからリックに声をかけられた。
少し 立ち止まり 三人で歩き始めようとした時
「おーい、エリック」
更に後ろからリックに声をかけた者がいる
「おう アーサー おはよう」
僕は 頭の中の名簿からアーサーという名前を見つける。アーサー カーマイン侯爵令息 Bクラス所属
彼は 僕を一瞥したくせに 僕には挨拶もしない
「リック、こいつか?運がいいだけの、ニセモノ伯爵令息は?」
「アーサー?!」
リックが咎める様な声を出すけれど
「おい ちょっとオレにもツキを分けてくれよ」
アーサーが僕の胸を触ろうと、というより、突き飛ばそうと手を伸ばす。
ああ これ 知ってるヤツ……既視感
「やめとけ」
リックがいう頃には 僕はこちらに向かって来る手を掴んで、ひねっていた。
リックが あーあ と言わんばかりに 片手で額を押さえて首を横に振っている。
「痛い!卑怯者」
ねえ またコレですか?
リックの方をチラリとみてから、手を放して離れる。
リックが困ったような顔をしてアーサーの肩を抱くけれど、アーサーはなぜか臨戦態勢でいる。
「アーサー おやめなさい 見ていましてよ」
声の主は赤い髪の背の高い女生徒、クレナイ公爵令嬢。近くに来ると 僕よりも頭ひとつ位大きい。
「ビビアン様」
「アーサー、あなたが先に手を出しましたね?」
「ビビアン様、 コイツは男爵家出身の癖に、伯爵家に入り込んだ、実力もない、偽の伯爵令息で――」
突然、後ろから僕とアーサーの頭が掴まれた。
ビックリするやら 痛いやら… 振り向きたくても上から掴まれているから頭が動かない
「君たち、通行の邪魔になっているから 早く教室へ行きなさい」
大きくはないが、きつい口調での注意が上から降って来て、頭が解放される。
声の主は体格の良い男性、多分 学園の関係者だろう。
「他の者も 立ち止まらないで行きなさい」
僕達は、それから周りに出来ていた人垣も崩れて、動き出した。
先頭をビビアンとその友人らしき女性とが並んで歩き、その後ろを リックとアーサーが何やら話をしながら続き、そして 最後に僕と姉上が並んで 教室棟へ向かう。
リックとアーサーが何を話しているのかが すごく気になるけれど、周りが騒がしくて聞こえない。
「ビイ 気になるの?」
「ええ 突然ケンカを売られたようなものですからね」
「ふふ 男の子はケンカをして仲良しになるんでしょ?」
「さあ どうでしょうね? フィルとはケンカなんてしていないけれど友達ですしね」
僕は出来ればケンカなんてしたくないんだけどなあ。
***
公爵令嬢にケンカの仲裁をしてもらったのだから、いくら学園の中とはいえ、そのまま済ませる訳には行かない。
「ビビアン様、 先ほどは、ありがとうございました。
ヒビキ・ネイビーと申します。
王家の庭園でお会いして以来となりますが、痛―」
「エリザベス・ネイビーと申します。
昨日は新入生代表としてご挨拶頂き ありがとうございました。」
姉上が途中で 僕の足をヒールで踏みながら半歩前に出て、僕を黙らせ、僕の言葉に自分の名前を重ねてしまった。
昨日 壇上の姿を見ているのだから「以来」と言ったのは僕の失言だ。
「あら そういえば お二人とも王家のお茶会でご一緒しましたわね」
ビビアンは僕の失言には気が付かない事にしてくれたらしい。
「ええ、あの時は 僕はとても緊張してしまって……、王城に入るのも、王家の方にお会いするのも初めてでしたので、フレーミイ王子の姿を追うのが精いっぱいでした。他の方々とお話できなかったことを後でとても後悔しました。」
そう、リックにも指摘された、僕の黒歴史。
「まあ そうでしたの」
ビビアンが口元に手を当てて微笑む姿は、大人びていてとても同級生とは思えない。
「ビビアン様、これからはクラスメイトとして よろしくお願いいたします。」
姉上ともう一度 礼をしてその場を離れる。
「姉上 ビビアン様って、とても大人っぽいですよね?」
「ええ 3の月のお生まれだから ビイよりも一年近く早いお生まれというのもあるでしょうけど、
私達がちょっと幼いのだと思うわ。 4歳までは子供らしくとかお父様がおっしゃるから」
「そうか、リックは三歳から剣を、僕はペンを持っていたのに姉上だけは遊んでいたんだもんね」
「しょうがないでしょ 家の方針なんだから」
「そうですね 父上のせいですね」
姉上が口をとがらせる。
そういう所が幼いんだと思うなあ もちろん とても可愛くて僕は大好きな表情なんだけれどね。
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