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2-14 王宮のお茶会

 それから2年が過ぎました。今日は月に一度の母上のお茶会お作法チェックの日です。この日は貴族子女としてクレアかエディも参加することになっています。嫌がってますけどね、特にエディが。


 今日のお客様は姉上と僕とクレア。「お先にどうぞ」と二人に押し出された僕が「お招きありがとうございます」の挨拶をしようとした時に、まだ仕事中のはずの父上が白い封筒をヒラヒラさせながら現れました。


「王宮からのお茶会の招待状を持ってきたよ」


メイドが父上の分の席とお茶の用意をし、父上が母上の横に座りました。


「あら?第二王子のガールフレンド選定お茶会かしら?」

「破滅の第一歩だ、と君が言っていたお茶会だよ?」

「私たちが元気で二人の対面が迎えられて良かったわね」

「ザベスがフレーミイ王子に君の面影を見て執着する事は無いと思うけど、手は回したつもりだよ」

「あら 素敵ね」


父上と母上の意味不明の会話を僕と姉上はお手本通りの微笑みを浮かべて聞いていましたが、姉上がその微笑のまま首だけを父上の方に向けてからコトリと首を傾げます。


「お父様、お茶会で主催者を独り占めするのも、主催者がゲストを置いてけぼりにするのも、マナー違反だと思っていたのですけれど……」


姉上はチクリとというよりも、ほぼストレートに不満を口にします。


「ああ ごめんごめん、説明するね。クレアとエディも聞いてくれるかな?」


父上はお茶で喉を潤すと口を開きました。


「王家では王子が王立学園に通う前年に貴族達の令嬢を招いてのお茶会を催していたよね。まあ婚約者候補を探す為の顔見せみたいなお茶会だよ。でも2年前のフレミング王女のお茶会からは令嬢だけでなく子息も招いてのお茶会になったんだ。王子や王女が重要な役職に就く貴族の子供達と面識がある事は無駄にはならないからね。もちろん令嬢の居ない貴族たちは大喜びだよ。令嬢としては人数が増えた分、王子と話をする機会が減ってしまったと不満の声が出るかと思ったら、普段付き合いの無い貴族令息との出会いの機会だと意外に評判がいいんだ」


母上が 親指を立てて微笑んでいます。この親指を立てる仕草はネイビー伯爵家のみで行われる”よろしい”と褒めるとかねぎらう時のサインですけど、父上が王家のお茶会の参加資格の変更をさせたって事でしょうか?


「そして今年最後のお茶会の招待状がここにある」

「わたくしとビイの二人が招待を受けているという事でしょうか?」

「招待されるのは十歳から十三歳だからね、ビイが一緒に行けるように最後のお茶会まで招待を引き延ばしたんだよ。わが家の娘は大変奥手で、義弟おとうとがいないと挨拶も出来ません。ってね」

「奥手ですか?」


姉上は不満げに父上を睨みますけれど、父上は知らん顔です。クレアがの親指がほんの少しだけ上がっているように見えますが誰に向かってでしょうか?





 いつもの仕立屋に仕立ててさせて紺を基調としたシンプルなドレスとスーツでお茶会に参加します。装飾品も少なく少し幼く見えるようしています。なるべく王子の目に留まらない方が良い、なんて考える参加者は僕たちくらいでしょうね。


 あ、子供たちの前にフレーミイ王子が侍従を二名従えて現れ、騒めきが静かになります。


「皆、今日はよく来てくれた 楽しんでくれ」


王子によく通る声に、子供達は一斉に貴族の礼をします。王子の輝く金の髪は確かに母上の髪そっくりです。王子の瞳は王族らしく金色ですが、もしも、母上を失っていたら姉上はこの王子に心惹かれていたのでしょうか。


「ふーん ヒビキの方がずっと素敵よ」


フレーミイ王子を見つめる僕に何を思ったのか姉上が周りに見えないように膝の上で親指を少しだけ立てながらささやきました。


「ありがとうございます」


 少し高くなった場所から、ぐるりと一同を見回した王子の目が姉上のところで止まりました。

しばらく姉上を見つめてから、横に居るぼくにも目を止め不審げな顔になりました。僕は養子なので王子の方に情報が行っていないのかもしれません。


 そろそろ僕達の方から王子にご挨拶に行かなくてはなりません。僕と姉上も挨拶の列に並びます。


「お招きありがとうございます。お初にお目にかかります。エリザベス ネイビーでございます」


王子の横に控えている侍従が王子に何かささやき 王子が頷きます。


「お招きありがとうございます。お目にかかれて光栄です。弟のヒビキ ネイビーでございます」


再び 侍従が囁き 姉上の時と同じように王子は頷きました。


「楽しんでいってくれ」


爽やかな笑みを浮かべる王子に、僕たちは二人でピッタリと揃った貴族の礼をして次の子供に順番を譲りました。次の子の挨拶が終わってからも王子の挨拶の様子を僕はしばらく観察していました。


「ビイ 王子に見とれているの?」

「え?」

「あの髪はお母さまみたいに綺麗だけど、私はビイの髪色も好きだから元気出して!」


慰められてしまいました。何故そうなったのでしょうか?その場でもう少し王子の様子を見たかったけれど姉上に手を引かれてケーキの用意されたテーブルの方へ連れて行かれてしまいます。


「あら?ビイ 顏が赤いけれど、気になる女の子でも居たのかしら?それともフレーミイ王子?」

「え? いいえ 緊張しているだけです」


見当違いの方向にぼくの赤面を指摘する姉上に正直に答えるます。姉上は緊張させているのが自分だとは気が付いていないようです。


「ほら、ビイの好きなベリーのタルトがあるわよ」

「姉上 気づいていたのですか?」

「ええ お茶の時にでたら必ず一番に食べていたでしょ?それに扇の木の下で話してくれたじゃない?」


参加者全員の挨拶が一通り済み 王子は侍従と共に会場内を歩き数人のご令嬢と言葉を交わすなどしていたようですが、僕と姉上には近づくことはありませんでした。





「ザベス、ビイ、今日のお茶会はどうだった?」


夕食の席に着くとさっそく父上が姉上に聞きました。


「ええお母さまのような金の髪が綺麗でしたわ」

「あら王子様と一緒なんて光栄だわ。 それでお近くでお会いしてどうだったの?」

「スカーフの刺しゅうがとても綺麗でした。わたくしも あのくらい上手になりたいですわ」


姉上、視線が近くに寄りすぎじゃないですか?


「フレーミイ殿下は話題も豊富な方らしいが 何かお話はしたかい?」

「いいえ 挨拶した後は近くにいらっしゃっることも無かったので……むしろ クレナイ公爵 やモエギ公爵の御令嬢方がビイの事が気になるらしくて話しかけたそうにしていましたけれど」


ええ?全く気が付きませんでした。王子じゃなくて僕に興味がある御令嬢?姉上の思いちがいだと思いますけれど?


「あらあらあら、ビイは素材もいいけれど所作も洗練されていものね。流石、公爵を名乗る方の御令嬢だわ。見る目が有るわね」


うんうんと頷き嬉しそうな母上を姉上が呆れたように見ています。姉上の気持ちわかります。

僕なんかに興味を持つ人間がいるわけないですからね 公爵令嬢方が話しかけたかったのは ネイビーの箱入り娘と言われている姉上だったと思いますよ。あれ?奥手?でしたっけ?




その後で、父上が僕の部屋を訪ねてきました。


「今日のお茶会の話を聞こうと思ってね。ビイの目から見てどうだった?」

「お茶会では参加者が各々王子に挨拶を致しましたが挨拶の前から王子は姉上を探していたように思いました。挨拶の折も姉上の事は侍従に紹介される前から分かっていたようです。でも、何故か僕を見た時は驚いた様子でした」

「王子とは挨拶以外に何か他に話はしたかな?」

「他にもなにも……挨拶以外は言葉もかけられませんでしたよ」


父上は満足そうに笑うとソファから立ち上がりかけてから、もう一度座りなおしました。


「ああ そうそう クレナイ公爵令嬢 モエギ公爵令嬢ってどんな方だったんだい?」

「え?クレナイ公爵令嬢?モエギ公爵令嬢? 申し訳ございません。王子と姉上にばかり目が行ってしまって…」


そうです、これでは貴族名鑑を覚えただけで何の意味もありません。クレナイ公爵モエギ公爵に御令嬢が居る事は知っていました。その方々が今日いらしたことを姉上が知っているという事は紹介も受けたのでしょう。貴族の繋がりを持つことも大事だというのにチャンスを――


「えっとビイ?多分、君が想っているようなコトを僕は期待していないよ?君もそろそろ世間の女の子に興味を持ったりして、僕と男同士の会話とか出来たりしないかな?なんて思っただけだからね。でも、まだ早かったみたいだね」


父上は落ち込む僕の頭をポンポンと撫でて 部屋を出て行きました。世間の女の子に興味はありませんし、男同士の会話と言われてもピンと来ません。すいません、父上のご期待に応えられないようです。


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