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2-11 てんせいしゃ

クレアは、隙だらけの顔の僕にニヤリと笑いかけ、僕の事を呼び捨てにして訳のわからない事を言います。


「は?」


敢えて僕は何も言わないで、隙だらけの表情のままでいました。


「だから 誤魔化さないでいいって! 絶対に他にもいるって思ってたんだあ」


勝手に何かを決めつけてクレアは嬉しそうです。もしかしてテンセイシャってどこか他所の国や敵対勢力からのスパイの事でしょうか?


「ふーん、クレアは絶対にいるって思ってたんだ?」


僕はクレアの言った事をただ、繰り返します。クレアのいう事は一言も聞き漏らしません。

姉上に害をなすようならなんとかしなくてはいけません。


「うん 思ってた。だから会えてうれしい!それでビビは誰押し?ヒロインにも会ってみたいけど、ザベスも可愛いよねえ。私ずっとお世話しているからさ、悪役令嬢になんてさせたくないのよね 手を組まない?」


ダレオシ ヒロイン アクヤクレイジョウ???何処の言葉?不明な言葉も気になったけれどクレアの態度も気にいりません。勝手に姉上をザベスって呼ぶな。僕は隙だらけの笑顔を消してクレアの手首をしっかりと掴みました。



「ねえクレア、ダレオシとかヒロインってどこの言葉なの?」


クレアの顔からさっきまでの楽しそうな笑みが消える


「僕の事をヒビキって言った事は今回は許してあげるね。でも姉上の事を軽く扱った事は許さないよ。これからルディと僕と三人でお話をしようよ。クレアが知っていること全部教えてね。教えてくれないならどうなっちゃうのかな?」


僕はクレアがどこからか送り込まれたスパイだと確信しました。僕の力なんて大人のクレアは振りほどけるはずだけど、クレアは立ったまま逆らいません。


僕とクレアの間に何か感じたのかアリスが向こうからやって来ます。アリスは信用できます。…ちょっと前までは、クレアも信用していたのですが…


 姉上も僕達に気が付いてリンカと共にこちらに向かって来ます。ぼくは笑顔をつくって姉上に手を振りながらアリスに囁きます。


「姉上に心配かけないようにしながらクレアをティールームへ連れて行って。それからルディも呼んで!」

「クレア 貴女にお願いしたいことが有るの」


アリスは 姉上にも聞こえるように大きな声でいいながらクレアと一緒にティールームヘ向かいます。勿論 姉上が来るのとは逆方向です。


「姉上!母上と一緒に、後でダンス室で輪遊びをしましょう!」


姉上に叫び大きく手を振ってティールームへ向かいます。これで姉上は輪遊びの練習をするはずです。




ティールームでルディに事のあらましと、クレアはどこかのスパイではないかという僕の考えを話しました。


「ヒビキ様、クレアの言う転生者 推し ヒロイン 悪役令嬢これらの言葉はネイビー伯爵家およびミントン家にとって大変重要な言葉です。」


 ルディはクレアの方の方へ柔らかい視線を向けました。意外です。クレアはスパイじゃないかも知れません。僕の身体から少し力が抜けました。


「クレア、心配することは無いよ。けっして悪い様にはしない。解雇などしないよ、ただし正直に答えて欲しい。いいね」


ルディの言葉にクレアは緊張した顔で頷きます。いつものクレアの顔ではありません。男爵家令嬢のクレアが侍女のお仕着せを着て姉上に仕えているという事はそれなりの事情があるのでしょうから、ここをクビになるというのは僕が思っていたよりもクレアにとっては困る事なのかもしれません。それでも ぼくはクレアを脅したことを間違えていたとは思いません。誰よりも 優先すべきは姉上ですから。


「クレア 君は転生者なのかな?」


クレアが 青い顔で頷きます。


「ヒビキ様、転生者というのはこの世界と似ているけれど違う世界から来た者のことです。彼らはこの世界の”あるかもしれない未来”を知っています。ですから転生者が夢見の伯爵家の中に居るということは伯爵家にとってとても幸運な事なのです。

 ただ、転生者がやたらにこの世界のことに干渉するのは混乱の元だと当伯爵家では考えておりますのでその存在を知るのはごく限られた人間のみにさせて頂いております。わかりますね?」


ルディが僕を見ます。つまり僕はクレアの知る未来を知ってはいけない、ということですか?「でも」と言おうとしますが


「決してヒビキ様を軽んじるわけではございません。しかし成人するまではこの件にはかかわることを禁じさせていただきます。」


これは決定です。とルディの顔が言っています。なんだか仲間外れにされているような気がしてもやもやします。


「奥様がダンス室でお待ちでございます。お急ぎください」


ノックの音に続いて、アリスの声がしました。ルディがティールームのドアを開けて僕に退出を促し、ドアの外ではアリスが待ち構えていました。その場にとどまることも許されず僕はアリスと一緒にダンス室へ向かいました。



「お待たせしました 母上」


ダンス室のドアを開けると、母上と姉上が輪遊びに熱中していました。いつの間に大人用の輪が完成したのでしょうか?母上は乗馬服に着替えてやる気十分です。


「ビイ!遅いわよ。早く母上に見ていただいて!」


同じように乗馬服姿の姉上に輪を渡され、僕は輪を回し始めました。夢中になって回しているといろいろ考えていたことが消えて行きます。輪遊びが身体に良いってこの事でしょうか?


「すごいわね ビイ!」

「ね!お母さま!凄いでしょ?」


母上と姉上に褒められて、パチパチと拍手されて心も晴れてきました。まだマナーさえなっていないぼくが伯爵家のブレインに加われるはずありません。この国の歴史さえおぼつかないぼくが転生者の世界のことまで考える余裕はありません。僕は僕がやらなければならない事を一つ一つやっていくしかないのです。




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