2-10 久しぶりに夢を見ました
ネイビー家に来て 初めて夢見帳を書きます。ヒビキ ネイビーって表紙に書かれたノートを出して羽ペンと誕生プレゼントに貰ったインク壺を出します。
”エリザベスとヒビキが遊んでいる。大きな輪の中に入って、身体でグルグルとまわす遊び”
姉上が回せない事は、書かなくていいと思いますので書きません。書き終わってから閃きました。「この輪遊びを 姉上へのプレゼントにしよう!」
この家に来て初めて、父上に夢見帳を父上にお見せします。
「ヒビキ・ネイビーの初の夢見だね。夢見の真実は調査しないと分からない場合も沢山ある。そして調査してみたら国の機密事項に関係する場合もあるんだ。ヒビキはこれからは夢見について簡単に人に話してはいけない。これは、約束」
「はい、父上」
僕はいままでは夢見帳を兄さまや姉さまにも見せていましたがこれからは軽々しく見せてはいけないんですね。
輪遊びについては見たことを実際にやってみたのですが、輪が無いのに身体を動かしているのってなんだか変です。伝わっているでしょうか?夢の中では楽しかったのですけど、しかも 子供の遊びなんて夢見でしょうか?報告する意味はあったのでしょうか。忙しい父上の邪魔をしてしまっただけでしょうか?父上はガッカリしていませんか?
「うん これは面白そうな発明だね」
真面目な顔で頷いた父上にほっとします。
「試作品を作ってみよう。夢の中でヒイは上手に回せたんだね?」
「父上、これを姉上への誕生プレゼントにしたいのですが…」
「これを?ふむ、それは素敵だね。ヒビキ・ネイビーの初夢見を実現化してプレゼント。これ以上のプレゼントはないねすぐに手配しよう」
父上は後ろで聞いていたルディも呼び、三人で”輪”と”輪遊び”について 話し合いました。
数日後父上に呼ばれ、執務室へ行くと父上からいくつかの輪を見せられました。
「ビイ 試作品が出来たけれど、どうかな?」
「試してみていいですか?」
執務室は子供の僕が輪回しをするには十分な広さがありますが、夢の中でしかやったことのない遊び、上手にできるでしょうか?
最初は、2-3回で落ちてしまいましたけれど夢の中の僕を思い出して回している内にだんだん回せるようになってきました。輪の中に入って輪を回す僕を父上とルディは興味深そうに見て、ルディは絵まで書いています。流石ルディ、とても上手です。
打合せを何回も繰り返して、職人のところへも連れて行ってもらいました。職人は子供の僕の良くわからない言葉をよく分かってくれてすぐに新しい試作品を作ってくれました。
「ねえ、ビイ、最近何かわたくしに隠していることないかしら?」
「え?」
「わたくしに隠れて、よくお父様の書斎へ行ったり、この間はルディと二人でどこかへ出かけたのじゃなくて?」
姉上にばれています。どこまで知っているのでしょうか?えっと、でも、夢見については人に話してはいけないって言われてますし……困りました。誰か、助けて~
「あら、仲良しね。今日は何の相談をしているのかしら?」
「ビイが何かわたくしに隠していることがあるのに教えてくれないのです」
「あら、隠し事」
母上まで興味深々って顔になりました。二人から責められても僕は口を割ってはだめなのです。母上は僕のほっぺたを両手で挟んで僕の顔をじーと見ます。目をそらさなくっちゃ
「わかったわ」
え?母上、今ので何が分かったんですか?
「エリザベスには話してなかったかしら?ビイがなぜうちの子だって分かったのかって」
「聞いています。夢見が出来る子だから、です」
「よく覚えていたわね。では、ビイは今その夢見のお仕事中です」
「……あ、分かりました。もう、聞いたりしません」
「よく出来ました」
輪は姉上の誕生日の一週間ほど前に完成しました。完成したことによってぼくの夢見は父上に認められました。しかも 父上の「ユメのお告げ」と母上の「知識」によると、”輪遊び”は単なる遊びでなくて身体に良いらしいのです。
そんなことよりも、今日は姉上の誕生日です
「姉上おはようございます。 入っていいですか?」
いつもなら姉上が僕の部屋に来てくれる時間に、姉上の部屋のドアをノックします。夢見の中では返事が来ることが無かったドアの向こうで、パタパタと気配がしてクレアがまず出てきました。
「お嬢様は お支度中ですので、お待ちください」
あ!一番にお祝いを言いたかったのに クレアに先を越されていますね、残念です
「ビイ いいわよ!」
ドアが開かれました。
「姉上、お誕生日おめでとうございます!!」
新しいワンピースを着た姉上にリボンのついた輪を渡します。
「ありがとう ビイ、でもコレは一体なにかしら?」
コテンと首を傾げる姉上はとても可愛らしくて、この顔を見られただけでも輪を作った価値があります。
「楽しそうですが お散歩に遅れてしまいますよ」
クレアに促されて僕たちは急ぎ足でテラスへ向かいます。
「お嬢様 お誕生日おめでとうございます」
会う使用人が口々に姉上を祝います。いつもならこの時間にはいない使用人も見かけます。
姉上にお祝いを言いたくて待っていたんだと思います。姉上は一人一人立ち止まってお礼を言うので使用人は恐縮しつつ嬉しそうで、姉上も嬉しそうで、そんな姉上を見る僕も嬉しくなって、ちっとも先に進みません。
僕達が食堂に着く前に父上と母上がお迎えに来てくれました。
「ザベス 誕生日おめでとう!」
「ザベス 7歳のお誕生日おめでとう!」
父上と母上からの祝福の言葉です。姉上は今日から僕より一つ年上です。
「これはこの輪の中に身体を入れて遊ぶんです。夢の中で姉上と僕が遊んでいたのを見て現実化しました。これを使って遊ぶのは姉上が世界で初めてなんですよ。」
もちろん 夢見でみたことだと姉上に知らせることは、父上の許可を取ってあります。大丈夫です。ぬかり有りません!
「ビイの夢見はこれだったのね!これが予知夢で見たおもちゃなの?予知夢の中でも私たち仲良しだったでしょ?ステキ」」
姉上はとても喜んでくれました。あの夢見の通り僕と姉上は仲良く遊び始めました。そして夢見の通り姉上はあまり上手に回せなくて……
「わたくし 今日はもうおしまいに致しますわ」
姉上は輪を近くにいたリンカに渡しました。部屋でこっそり練習するのだと思います。姉上はけっこう負けず嫌いのところがありますからね。さあ、僕も姉上を追いかけましょう
「ヒビキ様は、ビビではないのですか?」
後ろからクレアの声がしました。何故、クレアがその名前を?クレアの方を振り返りながら思い当たりました。クレアは王都の男爵家の長女です。『ビビって呼ばれていた田舎者だってことを忘れるな』僕にそう言いたいのかもしれません。
クレアは…僕の敵、なのでしょうか?奥歯をぐっと噛みしてから”きょとん”とした隙だらけの表情をつくってクレアの顔を見て、姉上のようにコテンと頭を傾けてみせました。
「ビビってば、分かってるのよ。あなた転生者でしょう?」




