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2-8 キンシン です

  翌日も来たお医者さんは、念のために薬は明日まで飲む事、それから手や首の傷は出血は派手だったけれど命に別条は無いし痕も残らないって言いました。


「ネイビー伯爵家は家族仲もいいし、使用人との関係も良好で就職先としても人気があって、悪い話は聞かなかったんだけどねえ。迎えた養子の扱いがひどすぎるよ。君みたいな子供を心労で寝込ませたかと思うと自傷行為だなんて可哀そうに。実家に帰りたくないかい?正直に言ってごらん、何とかしてあげるから」


白衣を脱いだお医者さんは、アリスに出されたお茶を飲みながら何でもない事のように言って、後ろでアリスが顔を引きつらせています。


「先生、ありがとうございます。でも、ぼくの家はここなんです。これからもお世話になると思いますけれど、宜しくお願いします」


先生の顔をしっかり見て言ってから頭を下げます。


「ネイビー伯爵家の子供は二人とも礼儀正しくて良い子だね。アリスお茶ありがとう、美味しかったよ」


先生は笑って、カップを置くとアリスに連れられて部屋を出ていきました。



 キンシンもあと2日です。父上にも母上にも、姉上はどうしているのかを聞いたのですが 姉上も罰を受けているとしか教えて貰えませんでした。姉上は本当にぜんぜん悪くないとお話したのですが父上も母上も困ったような顔で笑うだけでした。寝室のすぐ隣は姉上の部屋なので、壁際でじっと耳を澄ませてみたのですがコトリとも音がしません。もしかしたら姉上に風邪をうつしてしまったのではないかと心配です。


 今日でキンシンも終わりだからとにアリスに髪を整えられて、首の後ろがスースーします。毎回の食事はもちろんお茶の時にも誰かが来てぼくに付き合ってくれたし、勉強もアリスが教えてくれたので、キンシンと言っても少しも罰になってないなあって思います。

 

 お風呂とトイレへ行く時だけは部屋の外に出る事を許されていたのですが、使用人の中にはぼくを待ち伏せして、謝ってくる者も居ました。あの包帯をあちこちに巻いて髪もバラバラに切れているぼくを見たり、血の付いたシャツを洗ったりした使用人は反省したみたいでした。


トントントントン トン


 このノックは姉上です!


「今、今行きますから、お待ちください。でも、どうぞ」


ドアまで走りますがぼくがドアに付くよりも早くドアが開きました。


「おはよう ヒビキ!」

「おはようございます」


姉上です、お元気そうです。ぎゅっとぼくを抱き締めて、それから、少し離れてぼくを見て目を見開きました。もしかしてぼく、少し大きくなりましたか?

 食堂までの廊下で見かける使用人や食堂での給仕に見覚えのない者がいます。ぼくは夢を覚える必要があるので目に映るモノを覚えることは得意なので間違いありません。

 前と同じように庭を散歩したら、だいぶ涼しくなったような気がしました。それから咲いているお花も変わっています。


「姉上 使用人が変わりましたね」


テーブルに着いてから隣の席の姉上に囁いたのに返事をしたのは父上でした。


「主人の大切な者を害する使用人はいらないからね」


いつものように優しい微笑みを浮かべながらぼくたちへ、というよりもその部屋にいる使用人達へ言っているようでした。


「ヒビキ その髪型も素敵よ、似合っているわ」


食後のお茶を頂きながら姉上が褒めてくれました。姉上が似合うと言ってくれるなら、兄さまのように背中に垂らすのは諦めましょうか。


「ヒビキのお見舞いに行けなくてごめんなさい。でも、わたくしも大変でしたのよ」


クレアが姉上に何か渡そうとしましたが姉上はクレアに首を振って応えています。


「クレア?」


クレアは朝からずっとぼくの方をチラチラと見ているのです。


「ヒビキ様 実はお嬢様がヒビキ様にと―」

「もういいの!!」


遮ろうとした姉上の手をよけて、クレアからぼくに何かが手渡されました。何でしょうか?きれいな袋を開けてみると、あ!綺麗に刺繍がされたリボンです。


「もう必要ないでしょ!」


姉上がぼくの手から取り返そうとしますが、取られないように胸に抱きこみます。


「いえ 髪はすぐに伸びますからいただきます。ありがとうございます」


姉上からの初めての贈り物です、しかも姉上が作ってくれたんです。髪を切ったのは昨日ですから、姉上はぼくの髪がこんなに短くなったとは知らなかったのでしょう。だから姉上はぼくの為に髪を結ぶリボンを作ってくれたのですね。一生の宝物にします。




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