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2-5 仲直り です

 次の朝には熱も下がったのでベッドから出られるようになりました。

散歩はダメだけど一緒に朝ごはんを食べてもいいってアリスに言われたので、ひざ掛けに包まれて家族が戻って来るのをサンルームで待ちます。


「おはよう ヒビキ!」

「うわ!!!ビックリした!」


なぜか後ろから姉上に抱き着かれ、父上と母上の笑い声が聞こえました。


「ごめんなさい ヒビキ」


抱き着いたままの姉上の声が耳元で響いてすぐに離れました。何事も無かったかのように、ぼくの隣の席に座っている姉上の顔が赤いのを見たらぼくまで顔がほてってきました。

 今日はちゃんと朝ご飯を済ませて父上のお見送りも出来ました。母上のマナーレッスンも 姉上と一緒に受けました。でもアリスとの学習はお休みです。


トントントントン トン


「姉上ですか?」


ぼくはドアに走り寄って開けます。


「はい ザベスです」


姉上が答えるころには、もうドアは全開です。


「アリスは?」

「クレアは?」


いつも一緒にいる侍女のクレアが居ないのを不審に思って聞いたぼくと、アリスに会いたかったに違いない姉上が聞いたのは同時でした。分かっていますが、ぼくよりもアリスに会いに来た事に気づいてちょっとがっかりしました。


「すいません アリスは今、居ないんです」

「それは 良かったわ」


姉上がニヤリと(初めて見る顔です!)笑いました。


「あのね、クレアはまいて来たの。秘密の場所を教えてあげるからいらっしゃい!」

「今日は部屋でおとなしくしているように言われているんですけれど…」

「大丈夫よ。秘密の場所なら見つからないんだから、急いで!」


あの…どこに居るかが見つからなくても、ここに居ない事が分かったら意味ない、というか余計に不味いと思うのですけれど……


「何か着てきます」


姉上と秘密の場所に行くなんて素敵な誘惑に勝てるわけないのです。

ぼくは 上着を探しに行くのももどかしくて使っていたひざ掛けを肩から羽織って姉上から差し出された手を取りました。





姉上の隠れ家は サロンの横の角を曲がってすぐの所でした。何本も有る大きな葉っぱの木の真ん中の一本の下に姉上がぼくの手を引きながらもぐりこみました。


「ね 素敵でしょ?こっちの木の下に隠れたら外からは見えないのよ」


姉上が大きな葉を一枚ぎゅっと引っ張ってから放すと影が楽し気に揺れました。


「すてきです 森の中を思い出します」

「森?まあ、その話は後でいいわ わたくし大事な話がありますの」


あらたまった姉上に、悪い予感がして胸がギュ―となって、頭もくらくらします。何を言われるのでしょうか?


「ごめんなさい」


ぼくの目の前で木の根元に座った姉上が頭を下げています。


「え?姉上?顔を上げてください。」

「許してくれる?」


ぼくの前には姉上のつむじが見えます。


「はい 許しますから 早く顔を見せてください」

「ぷは」


顔を上げた姉上は頭に血が上ったのか顔が赤らんでました。大変です!


「大丈夫ですか?」


姉上は頷きます。


「姉上は朝、謝ってくれましたよ?」

「ちゃんと謝って許してほしかったの。本当にごめんなさい。わたくしは伯爵令嬢だから、自分よりも小さいもの、弱いものは守らなくちゃいけないってお父様に言われたの。本当はわたくしはヒビキが羨ましかったの。わたくしよりも可愛がられている気がしたの。でもね、ヒビキはわたくしよりも小さいのに今までのおうちを離れて来てくれたんだから、知らない家にいるんだから、アリスが居ないと迷子になってしまうかもだから、お父様やお母様や姉上のわたくしが守らないといけないのに、わたくしがずるいとか言ったり、八つ当たりしたらヒビキはここにいるのが辛くなってしまうって もうこの家のことも嫌いになってしまうって、それなら、ヒビキは元のおうちに帰った方がしあわせかもしれないって、お父様はヒビキを元のおうちに帰しちゃうかもしれないの…ヒビキ、帰らないで、どこにも行かないで!ここに居てちょうだい!お願いだから」


 姉上が、向かい合って木の根元に座っているぼくの手を握ります。ヤツアタリはよく分かりませんけど、ぼくは小さくないですし、ここに居させて欲しいのはぼくの方なのですけれど?ぼくは何と言っていいのか分からなくて姉上を見つめたまま黙ってしまいました。しばらく見つめあっていると姉上の瞳から涙が一粒流れました。え?なんで?どうして?姉上を泣かせたりしないために、ぼくはここに来たはずなのに?ぼくは慌てて、立ち膝になって姉上に近寄ります。


「姉上、泣かないでください。ぼくはここに居たいです。姉上のことも、この家のこと嫌いになったりしません。ぜったいに!」

「絶対に?」

「ぜったいに、です」

「よかったあ!」


姉上の顔がぱあっと笑顔に変わって、姉上が両手を広げてぼくをぎゅっと抱きしめました。ぼくも負けないくらいにぎゅって抱きしめかえします。ぼくはずっと姉上のそばにいます。


「この家が、姉上が大好きです」

「わたくしも ヒビキが大 大 大好きよ」


嬉しいです。ぼくは姉上に大好きって言いたくてここに来たんですからね。こんなにすぐに言えるなんて思いませんでした。しかも まさか姉上からも大好きって言ってもらえるなんて……幸せすぎます。頭がクラクラします。


「さっき、森みたいって言ってたけれど、ヒビキは森に行った事があるのかしら?」


ぼくはアイスブルーの事を話していいのでしょうか?忘れなさいって言われたけれど、忘れられないぼくの故郷。木の根元に膝を抱えて座りなおします。


「どうしたの?」

「ぼくの…… 前の家の事なので 忘れないといけなので…」

「どうして?」

「父さまが忘れなさいって…」

「お父様が?そんなことを?」

「あ、父上じゃなくて、あの、前の父さまです」

「まあ!ひどい!!」

「ひどくないです。多分その方が良いって、父さまは思ったんです」


ぼくの頭がどんどん下がって膝にぶつかりました。父さまは悪くない、でも忘れたくない。でも、でも、でも……


「じゃあ、わたくしとヒビキ、ふたりだけの秘密にしましょう」

「ひみつ ですか?」

「ええ、この秘密の場所での秘密の話よ」


ぼくは顔を上げます。秘密なら、良いでしょうか?しかも姉上との秘密、素敵です。



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