2-3 新しい家族 です
翌朝、着替えようとクローゼットを開けてみると服が沢山かかっていました。アイスブルーから着てきた服はどこにもなくて、ベッド横の椅子に上着だけがかけられていたのを見つけたのでクローゼットの引き出しにしまいました。靴も履いて来たものはもう無くて新しい靴が用意されていました、サイズもピッタリです。流石 伯爵家です。
トントントントン
「はい!」どうぞ」
誰でしょうか?ノックの音に緊張して答えると、扉が開きました。
「おはよう!ヒビキ 朝の散歩に行けるかしら?」
「朝の散歩?」
お嬢様です。赤いワンピースがかわいらしいです。
「わが家では毎朝 散歩をしてから朝食なのよ。いらっしゃい」
赤いワンピースの裾がお嬢様といっしょにクルリと回り軽やかに階段を降りていきます。
テラスでは伯爵と母上が待っています。
「庭を案内するよ すこし早く歩くけど、早かったら言っておくれ」
「さあ 行きましょう!」
四人歩き始めました。すこし早くってどのくらいなのかと思ったのですがあまり早くないです。大丈夫です。
「ヒビキ、トリアに聞いたのだけれどトリアの事を母上と呼ぶんだってね」
「え?」
「え?」
ぼくの声とお嬢様の声が重なります。ビクトリア母様の愛称はトリアというのですね。
「ほほほ…だって私はヒビキの母親ですもの、当然ですわ」
母上が勝ち誇ったように笑いながら歩いていますけれど、なにがそうさせているのでしょうか?
「…羨ましい!」
「ずるいですわ」
今度は伯爵とお嬢様の声が重なります。羨ましい?ずるい?何がですか?お二人とも歩きながらぼくの方を見てますけれど前を見ないと危なくないですか?ああ、毎日歩いている庭ですから大丈夫なんですか?ぼくは初めての庭なので前を見ながら歩かせていただきますよ。
……ああああ 視線が痛いです。なんでぼくの方ばかり見ているのでしょうか?
「あの…」
「なんだい?」
「なにかしら?」
「いえ…」
お二人からなんだか睨まれた気がして黙ったぼくの頭を母上がふわりと撫で「脅さないの!」と誰かに呟いたようです。
「ヒビキこの辺りで右に行きましょう。あっちにサルスベリの花がさいているのよ。私が、いえ母上が大好きな花なのよ」
母上は嬉しそうです サルスベリの花がよほどお好きなのでしょう。ああ本当に見事ですね。王都は北部のアイスブルーよりも暖かいから花が大きいとかあるのでしょうか?
「アイスブルーにもサルスベリはあるのかしら?」
母上は上機嫌です。でも伯爵とお嬢様はどこか不機嫌そうです。顔は笑っているのですけれど……もしかして、ぼくは何か悪いことをしたのでしょうか?何が悪かったのでしょうか?
戻って来たテラスには朝食の用意が整っていました。庭を眺めながら朝食なんて初めてです。
「ねえ ヒビキ 僕の事はなんて呼んでくれるんだい?」
座るなり伯爵がぼくの方を向いて聞きました。
「え?伯爵は伯爵とお呼びし――」
「伯爵…!?」
「ふふふヒビキ、伯爵じゃあだめでしょ?あなたの父親なのですもの」
母上に言われて なぜ伯爵ががっかりしたような顔をしてのかにやっと気が付きました。
「あ、そうですね。えっと……ち ちちうえ、でしょうか?」
「そうだよね。うん、いいなあ父上か、父上って呼んでくれるんだね」
伯爵、ちちうえ、顔が赤いです、ぼくも多分赤いです。
「…はい ちちうえ」
「うわ もう一回」
「父うえ」
「旦那様 お行儀が悪いです」
立ちあがった伯しゃ、父上がルディに叱られて慌てて座りました。
「ヒビキ! わたくしは?」
今度は 隣に座っているお嬢様がぼくの方に迫ってきます。
「えっと、お嬢様?」
「姉上でしょ!!」
「お嬢様 お静かに」
今度は姉上がルディに叱られます。すいません、ぼくが悪いんです。ごめんなさい、ルディを見ると、笑って頷いています。ぼくの父上、母上、姉上、それからルディもぼくの家族です。
毎朝、朝食の前には家族で庭を散歩して、朝食の後で父上をお見送りしたら姉上と一緒に母上からマナーを教わります。
昼食の後は姉上は家庭教師の先生と学習タイムですがぼくは部屋に戻ります。部屋ではアリスが貴族としての基本的な生活一般の指導をしてくれます。アリスはルディの奥さんで、前は姉上の乳母でした。もう引退していたのですがぼくのお世話と指導の為に屋敷に戻って来てくれたのです。
ルディは子爵位を持っていますからアリスは子爵夫人です。ぼくの指導をしてもらうのは申し訳ないですが、母上がアリスが一番の適任者だからと決めてくれたのです。




