4-20 ふたりだけの秘密の話。
姉上がクレアに箱の中を見せると、クレアは御者側の椅子の中からから何かを取り出そうとこちらに背を向ける。チャンス!
僕は姉上にだけ聞こえる位の声で言う。
「姉上 僕が隣に座った方が食べやすいと思うんだけど?」
「そうね こちらにいらっしゃい」
姉上に招かれて 姉上の横に移動する。
クレアがピックやお手拭きをトレイに乗せてこちらを向いて、顔をしかめて何か言いたげにしたけれど、僕は肩を竦めてやり過ごした。
アルのおやつを食べながら、お菓子の感想や、今日の昼間を話をする。今は、後夜祭の話はしない。
馬の蹄や車輪の音が変わった気がして、僕の側のカーテンを開けて外を確認する。夕闇の中の景色はもう市街地ではない。
「夕闇が綺麗ねえ、こんな景色わたくし初めて見るわ」
姉上が口元を拭い、僕越しに窓の外を見て静かに微笑みを浮かべる。この微笑みは……
「ねえ、ビイ、それからクレア わたくしに何か隠していることがあるのではなくて?」
姉上が小首をかしげながら、僕、クレアと順番に視線をくれる。
直ぐ隣に居る姉上の、その少しだけ怒りの感情が入った紺の瞳の美しさに僕は見とれる。
クレアが姉上の視線を避けるように、アルからのランチボックスやありもしない座席のゴミを片付け始めた。姉上はふうっと息をついて、僕と向き合えるように身体の向きを変た。
「ビイ、わたくし、いくつか不思議に思う事があるのよ。」
姉上は真直ぐに僕の目を見る。
「まず一つ目は、先ほどの後夜祭でのビイの行動。王子からの言葉は突然だったのに、ビイは落ち着いて対処したわ。しかも、わたくしに反論の暇を与えず会場を出たわね?
二つ目、なぜこの馬車はパーティが始まって間もない時間に、わたくしたちが帰って来るのを知っていたかのように待機していたのかしら? しかも たかが屋敷まで帰るだけのはずなのに、クレアとエディも控えていたわ。
三つ目、エディが持って行った書類は、アルが貸してくれたわたくしたちの行動履歴よね?それを今日、用意してあったのも不思議だわ。そういえば アルが何故 あの書類を貸してくれたのかも不思議だけれど……
そして、 この馬車は屋敷に戻らず、郊外を走っているけれどどこに向かっているのかしら?」
姉上が一つ、二つを指を立て、僕に質問して、最後にクレアの方に首を回してクレアにもニッコリと笑いかけた。
僕が何から、どこまでを姉上に答えよう? と考えていると、馬車の後ろから叫び声が聞こえて来た。
「あ!エディが追いついたよ クレア 一度馬車を停めさせて!」
クレアがホッとしたように御者席の方へ向かい、馬車は速度を落として道の端によって停車した。
僕が窓を開けると騎馬のエディが寄って来た。
「エディ ご苦労様 首尾は?」
「上々!」
エディが二っと笑って、親指を立てた。
うん、これで糾弾劇の後始末も終了かな? クレアの方を振り向くと、クレアもほっとしたような顔をしている。
「クレア、 エディ休憩しない? 少し暗いけど良いよね?」
「まだ明るさは残っているから、少々の休憩は問題ないでしょ?」
エディは僕の返事を待たないで馬の向きを変えた。
「クレア、準備してある飲み物と食べ物から好きなの選んでよ。もちろん御者と護衛の分も好きなだけ持って行って!」
ほらっと僕が座席の下から食料の入った木箱を引っ張り出していると、エディが馬車に戻って来た。
「エディ、祝杯は後でだからお酒はダメだよ」
小さい声で言うとエディは肩を竦めた。
それから、僕の横に並ぶと 木箱から食料を取り出して、そこにあったピクニックシートの上に並べる。
クレアがエディの横、僕と反対側にしゃがんでエディに何かを訴えている、というか、もしかしなくても、言いつけてる?
姉上は、シートに座ったまま、片手に扇をもって僕達の方をじっと見つめている。
「不思議に思っている事」をまた増やしているのかもしれない。
ふたりだけのひみつのはなし、です。あの隠れ場所の二人から、随分成長しました。




