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男が聖女っておかしいでしょ?  作者: 豚肉の加工品
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聖女って何をすればいいの?という第二話

良く言って豪快、悪く言ってしまえば考え無し。

いや、適当と言い換えてもいいし……もっと言えば馬鹿と置き換えてもいい。


「さぁ、一杯食べろ!」


幾つも設置されたテーブルの上一杯に置かれた数々の料理たちは、さながら食の海と言ったところだろう。

まだ湯気立つものもあれば、食べている最中に完成させる類のものまで数は様々だ。

だが、忘れてはいないだろうか?


「これ……朝食ですか?」


「当然だ」


あぁ、もう無理だ。

この国王は正真正銘の馬鹿だ。


「多くないですかね?」


「何を言ってるか、男が三人もいるのだぞ?」


いや、お前がなに言ってんだ?


「いやぁー助かりましたよ。俺たち朝ごはんまだだったんで」


そういえばお前も馬鹿だったな、エヴァ。


「それじゃ、頂くとするか!」


たった三人。

でも胃袋は二人で百人分といったところだろうか。積み重なる皿の量が尋常じゃない。

かく言う俺も、作って貰った物を粗末にすることはしない。

頑張って食べるというのもおかしなことだが、後ろに立っているメイドや料理人たちが食べている姿を笑顔で見ているというのに「もういいです」と笑顔を失わせる一言は言えなかった。

そして料理がなくなり食後のデザート(最後の地獄)が届いたころ、ようやく本題が始まった。


「して、カグラは……」


「……は、はい?」


「本当に〝聖女〟なのか?」


「そっから!?」


「いや、だって男だしなぁ」


「……確かに、簡単に信じられることではないですよね。何せ、これまでの歴代の〝聖女〟と呼ばれる方々は皆等しく女性(・・)でしたから。聖女様だってそれくらいは知っているでしょ?」


それは、聖教会に到着した初日に嫌になるほど聞いた声だ。

聞こえるか聞こえないかくらいの声音でコソコソと会話されていた、これまでの歴史。


神は勇者を両性から選ぶが、聖女は幸福を生み出す女性に以外に選ぶことはない。


精民(エルフ)族。

鍛人(ドワーフ)族。

鬼人族。

獣人族。

魔族。

魔人族。

竜人族。

人族。

この八種族が協力して世界は守られている。

それぞれの種族から等しく〝勇者〟と〝聖女〟が生まれ、世界を安寧へと導くのだ。

つまり、〝勇者〟と〝聖女〟というのは国を代表する者のことを示すと言っても間違いではない。

王とは違い、神に見初められた選ばれし者。

この重要性は計り知れないものがあるだろう。


「当然だ。何回も目にしたし耳にしたからな」


「……一番信じられてないのは自分だと思うけど、それ以上に周りは信じてくれない。特に女性ならね」


聖教会の男女比率はカグラが暮らすには酷いものだ。

男一人に対して女が五人ほど。つまり日常的に五人の女性たちからあれこれ言われて三日間というわけで、更に言えば皆が〝聖女〟に仕える『シスター』である。

男が〝聖女〟ということに不満がないわけがないのだ。


「うむ……仕方ないことだな。前代未聞の出来事であり、安易に信じ切れるものでもないからな。だが、儂はカグラが〝聖女〟であることを信じよう」


「どうしてですか……」


「何となく」


「何となくって」


「まぁ、神託が嘘だったことは過去未来になかったしな。いつまでも半信半疑なことよりも、人族に〝聖女〟が誕生したことを祝ったほうが気持ちがいい」


「……聖女様であることを示せたら一番簡単なことなんですがねぇ」


「確かに! おいカグラ、何かしろ!」


「何かって言われても、出来ることが分からないですって。俺は魔法とか分からないですし」


聖女の伝説は無数に存在するが、その中でも一番多いのは魔法による伝説だ。

欠損した体の一部を復活させたとか、死にかけた兵士を蘇らせたとか、聖属性魔法で数多の悪を滅ぼしたとか……言ったら切りがない。

そして残念なことに、これらの全ては俺に全く該当しない。

魔法は使ったことないし、魔力があるのかも分からない。

いつも外で遊んでいただけの〝戦闘職〟を望んだ普通の子供だったんだから、分かるわけもないのだが。


「なら試してみますか」


「何を?」


「〝聖女〟と言ったら〝勇者〟! そう! 〝勇者〟を探しに行こう!!」


「はぁ? 勇者なんて大層な職業が見つかったらとっくの昔に分かってることだろ。わざわざ探すまでもないんじゃねぇの?」


「ならどうすればいいんだよ!」


「お前の選択肢少なすぎるだろ!!」


「それなら……冒険者ギルドに行って依頼を受けてみればどうだ? 戦えば何か見つかるものがあるかもしれんぞ。儂もそうだったし」


「た、確かに……俺も戦っている時に見出すものが多かったですね」


「――――俺は見つからないと思うよ?」


二人が馬鹿な事を頭の片隅に置いていても頭を抱えてしまう問題。

それは、自分が聖女であるという証明だ。

神託を受けて聖女という職業に就いたことは証明と言えば証明になる。だがそれで自分が完全に納得できるのかと言われてしまえば首を振ることはできない。

何故なら、聖女としての価値を知っているのは自分ではなく自分以外の他人全てだからだ。

先程も言ったように〝聖女〟というのは、逆境や絶望をひっくり返すことが出来る存在だ。

でも、カグラにはその可能性が見えない。

しかしこれでは先に進めない。

魔法を使ったことがないから?

聖女なのに男性だから?

そんなことを言っていても、解決しないのだ。


「まぁ、とにかく行動してみるか……」


「おっ! 冒険者ギルドに行ってみるか!?」


「取り合えずは……ですけどね。なんで俺が聖女なのかっていうのが簡単に分かるとは思ってないですし、とにかく色々な経験してみて考えることにします」


「ふむ! 良い心掛けだ!」


「なら早速行きましょうか。朝だから込みますよ? 聖女様」


「言葉には気を付けろ、次は殴る」


「ではヴァンス国王。俺たちは冒険者ギルドに行ってきますね」


「道中に気を付けろよ。もしかしたらもしかするかもしれんからな」


(……言葉って難しいな)


気を付けろよ。これで終わってれば少しはカッコイイ王様でいられたのに、最後のはいらないだろ。

聞いているこっちがこんがらがるわ!


「はーい、行ってきまーす」





二人が去った後、ヴァンスは椅子に深々と座って息を吐いた。

前代未聞とはまさにことのことを言うのだろう……と、改めて事の大きさを感じ取ってしまったから。


「――――どう思った、カグラは」


どこかしらに問いただしたヴァンスの言葉が部屋で反響した数秒後、ヴァンスの背後に女性が現れた。


「優しそうな人……それだけ」


「ふふっ、聖女としてやっていけると思うかと聞いたんだだがな」


「……いけるんじゃない? 少なくとも、私の()には〝聖女〟として映った」


「そうか――――お前が言うならそういうことだな。ではテライヤを起こしてきてくれ、ミラ」


「お母さんはまだ爆睡中……というより、この時間から起きてるのは私とお父さんだけだよ? いつも仕事ギリギリまで寝てる」


「ならドランも起きてないな」


「お兄ちゃんもぐっすりだね」


「…………儂たちは仕事を始めるか」


「それが賢明。じゃ、私は行ってくる」


「カグラを頼んだぞ――――ミラ」


そして、ミラと呼ばれた女性は静かに姿を消した。


「全く……妻も息子も娘も、マイペースにも程があるわ」


その言葉は部屋に反響して微かにリフレインした気がする。

まるで、人に言えるのか? と言わんばかりに――――


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