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男が聖女っておかしいでしょ?  作者: 豚肉の加工品
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三日でダメかもしれないという第一話

王都とは、王城を中心に円形に広がっていた巨大都市のことである。

北側には武具を生産する地域である工房区。

西側には自分の〝職業〟を磨くための学園区。

南側には王都外に存在する農業村から仕入れた新鮮な食物を売買するための商業区。

東側にはこの世に存在する神々を讃えるために建築された聖教会がある。

ここで一番広いのは商業区で、王都以外からも輸入輸出をしているのと冒険者たちが集う〈ギルド〉もあるために人の数は尋常ではない。

そんな人の流れを観察して三日(・・)が経過した。


「ここには慣れました? 聖女様」


「…………」


「これから王に会いに王城まで行くんですよ? 緊張してるんですか? 聖女様」


「…………」


「大丈夫ですって! ヴァンス国王は良い人ですから、そんなに緊張しなくても良いと思いますよ。ねっ、聖女様」


「――――……聖女聖女うるせぇわ!! 俺はまだ認めてねぇんだよ! お前も面白がって連呼すんなよ!」


「そんなこと言われても面白いですもん。というより困りますって、神託が決められたことでしょう? 俺たち人類がどうこう言ったところで結果なんて変わらないんですから」


「…………だってよぉ、俺――――男だぜ?」


「それでも〝聖女〟でしょ。ほら、行きますよ」


「なんで俺の護衛はこんな奴なんだよ……」


あれから三日間はあっと言う間に過ぎて行った。

王都に連れてこられて、聖教会で寝泊まり。

これと言って何かをしていたわけではない……というよりも〝聖女〟としての役割が分からなすぎて神父とシスターに流されていたら三日間が経っていたというのが正しい。

教会の掃除に両親を亡くしてしまった孤児たちの世話。

挙句の果てには教会の厨房に立たされて料理を作らされた。


それで二日目の朝に、こいつが俺の部屋の床で寝ていた。


名前はエヴァ・クローン。

年は同い年の十五歳。神託がある前から結構有名な剣士だったらしく、月に一度ある闘技大会では何度か優勝したことがあるほどの実力だそうだ。

そしてこいつは王都では有名な戦闘一家の次男らしく、なんでも職業は『黒騎士』というものらしい。

闇魔法と両手剣を操る生粋の〝戦闘職〟でありクローン家でもその力が認められて、聖女の護衛という任務が下ったということだった。


「そう言えば、聖女様は王都に来たことってあるの?」


「あんまり。俺がいた農業村では子供が多かったからな、年上組で面倒見てたからそんな時間なかったよ。何回か経験として来たけど商業区しか回ってないな」


「へぇー、そんなら王城の行き方とか知らないって感じ?」


「あぁ……いや分かると思う。確か石畳で造られた道を歩いてれば着くんだっけ?」


「そうそう。あってるよ」


大通りに必ず通っている石畳で造られた道。

それは全て王都の中心である王城に繋がっている。


「まぁ、そこらへんはお前に任せるわ。俺のことをちゃんと案内してくれ」


「はっ、お任せ下さい! 聖女様」


「――――ぶん殴っていいか?」


とは言っても、東側にある聖教会から王城に行くのはとても簡単なことである。

聖教会から真っすぐ王城まで石畳が引いてあるからだ。

そもそも他の地区と違って東側には何もない。見上げるほど大きな教会が存在するだけで、目立ったものはそれ以外には存在しないのだ。

だからこそ王城の外観を一直線に見る事が出来るし、きっとカグラ一人であっても道に迷うことはなかっただろう。


「あ、カグラ!」


エヴァと共に外に出ると、大量の洗濯物を干している最中の若輩シスターに声をかけられる。


「どうした? ミリア」


彼女はミリアといって『シスター』の職業を持った者である。

礼儀も言葉使いも完璧。聖歌を歌う彼女の透き通るような高音は巷では有名で、聞きに来る熱狂的なファンもいるほどだ。

だが、それでも少し残念なところがある。


「私、今日はハンバーグが良いわ!」


「いや……俺今日は忙しいんだって。今から王城に行かないといけないんだぞ」


「ならお昼じゃなくていいわ! 夜ね!」


「晩御飯のこと考えるには早すぎるだろ! まだ朝だぞ!」


「献立を決めるのは早い方がいいでしょう? 取り合えず頼むわよ!」


それはおいしい物に目が無い所だ。

俺が初日に振る舞った料理が気に入ったようで、あれから毎日料理を作らされている。


「あいつ……言いたいことだけ言って仕事に戻りやがった」


「あ、俺は唐揚げがいいですね」


「お前には聞いてねぇ。てか勝手にメニュー増やすな」


「よし! そうと決まれば早めに用事を終わらせましょう。買い物の時間が必要ですからね」


「話しを聞いてくれ……」


人の話を聞かない奴らに囲まれているわけではない、むしろ教会にいる人たちは物腰柔らかで優しい人が多い。ただそれでも中を覗けば複数人いるという話だ。

そして言わせてもらいたい。


(王都って変な奴多いなぁ……)


その答えも、すぐに分かることになるカグラだった。




見上げるほどの城壁に囲まれた先に見える城。

その前に二人が到着すると、既に人が待っていた。

門番のような恰好をしているわけではない。

明らかに王様であるかのような赤いマントと王冠を被って立っている人物がいたのだ。


「おいエヴァ……なんか変な人がいるけど――――」


「待っていたぞ!」


「ヴァンス国王、聖女様連れてきました」


(え?)


「よく来てくれたな! 儂がヴァンスだ!!」


「ど、どうも、カグラと申します」


「知ってるわ! 儂は国王だぞ!!」


現国王ヴァンス・ファフニール。

かつて王国を巨悪から守り、そのまま姫と結婚。

そして王になった――――御伽話の英雄みたいな人物である。

実際に数々の御伽話が存在し、王都に住んで三日目にしてカグラは創作品をいくつか見聞していた。


「〝聖女〟というのは国を豊かに……そして人を笑顔にする職業だ。丁重にもてなすぞ!! 来いッ!!」


マントを翻し城内へと足を進め始めるヴァンスの背中を見つめるカグラの表情は、真顔であった。


「うぉ! なんて顔してるんですか……ほら、行きますよ」


「エヴァ……俺はもうダメかもしれない」


ただでさえ濃い三日間だった。

生きている中で、これほどまでに色々な人間がいるものなのかと強い衝撃を受けた三日間だった。

なのに更に衝撃を与えてくるというのか――――神よ……。

〝聖女〟という職業に就いてから、初めて祈りを捧げたカグラだった。

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