古びた神殿
笑い種に教えて貰った神殿には、2日後の夕方頃に辿り着くことができた。
あの後、山脈を2つほど越えて、更に道なき荒野を歩いたと考えれば速い方だとゼロは思っている。
「神殿探索は明日にして、今日も野営かな」
流石は噂に聞いていただけあり、北の大地には人の気配がなく、食べそうな物や飲み水すら見当たらない。
食料は常に1ヶ月分は持ち歩いているが、この調子では残り10日ほどしか探索できないだろう。
「考え直さなくちゃだめかもしれないなぁ」
襲い掛かってくる野良の亡霊は、南の大地にいる野良の亡霊と大して強さは変わらないので脅威ではない。それだけが唯一の救いだ。
ゼロは今日も味気のない夕飯を簡単に済ませて、早々に寝入ってしまった。
~・~
「やった! 清水がある。それに木の実や魚までいるなんて!」
神殿探索を始めて数時間経つが、この場所はまさに食料の宝庫だった。
神殿内に設置されている湧き水は、地下に浄水装置でもあるのか、簡易的な水の検査をしてみると飲んでも害がないと結果が出た為、空の水筒に入れた。
他にも、別の湧き水には魚が泳いでいたり、果実のなっている木が生えていたりと、当分の食料には困りそうもなかった。
久しぶりの果実は、甘くて歯応えのある赤い実ーーリンゴだ。
「他の部屋には何があるかな~♪」
当初の目的を忘れて探索を楽しんでいるゼロが次の扉を開けると、そこは大きな聖堂になっていた。
2階建ての宿屋2つ分ほどの大きさで、奥の方には金色の凝った細工が施された台座が置かれている。
ゼロは足音を反響させながら台座の方へ向かった。
『どなたですか?』
「!?」
声のする方を向くと、そこには青いローブを身に纏った二十代前半くらいの美しい女性の亡霊が立っていた。
『すみません、驚かせてしまいましたね』
「お姉さんは?」
『私は、青の巫女と呼ばれている者です』
「青の巫女……」
もしかしたら、彼女が笑い種の言っていた巫女だろうか。彼女は不安気な眼差しを向けていたが、ゼロの持つ錫杖に巻かれている黒の布生地を見て、ハッと顔色を変えた。
『それは……』
「ここへ来る途中に出会った人から託されたんだ。この神殿にいる巫女に渡して欲しいって」
錫杖の先を青の巫女の亡霊に向けると、彼女は黒い布生地に手を伸ばしたが、すぐに両手を合わせて自身の胸へ押し付けた。
『……ごめんなさい』
「何があったのか聞いても良い? お姉さんは亡霊だから、除霊術士の僕は君を成仏させなくちゃいけないんだ。だから君の未練を教えて欲しい」
ゼロが真っ直ぐな視線を青の巫女の亡霊に向けると、彼女は悲し気な顔のまま俯き、そのまま顔を縦に小さく振った。
『……そう、ですね。私がお伝えできることはとても少ないと思いますが、話しましょう。私や、この神殿に何があったのか、そして私の未練を………』
青の巫女の亡霊はポツリポツリと言葉を漏らした。
語りたくはないが、それが自分の使命と言わんばかりにーー。