水滴
ホラー企画のためにかいてみました!
いつもの電車。いつもの車両に乗る。そしていつものつり革に掴まった。通勤・通学ラッシュで、押しつぶされそうになりながら、電車に揺られる。この人たちの大半は、いつもと変わらない一日を過ごすのだろうな、と思う。
今日は何か、特別な日だった気がする。何の日だっけ?こんな場所で考えていたって出てきやしない。僕は諦めて、目的の駅までひたすらに耐えることを決めた。その時。
ぽた、と、つり革を掴む手に何かが落ちてきた。……水滴?次から次へと、ぽたぽたと落ちてくる。雨漏りではなさそうだ。今日はあの日と違って、雲ひとつない晴天である。
恐る恐る手を離し、顔に近づけてみると、それは透明な水滴だった。だが、それは徐々に赤くなっていく。赤黒くなっていく。気づけばそれは、そのまま固まっていた。猛スピードで時間が進んだ、そんな気がした。不思議と怖くはなかった。
次の駅に着いた。そこでは人は降りて少なくなるどころか、その駅からたくさんの人が入ってきた。もうつり革すら掴めない。赤く染った手は、何となく拭いてはいけない気がして、そのまま。すると今度は、頭に何か落ちてきた。多分また、水滴。
このままだと全身に水滴が行き渡ってしまう気がする。そういえばほかの人は大丈夫なのだろうか?周りを見渡しても、誰も不思議そうな顔をしていない。何も気が付かずにスマホだったり本だったり新聞だったりを見ていた。よくこんな場所でできるな、と考えていると、隣にいる人に睨まれた気がしたので辞めた。
――痛い。水滴がついた所が溶けてしまうように痛い。手も頭も腕も肩も全部痛い。多分気を抜いたら消えてしまう。叫ぼうとしても声が出ない。でもただただ痛い。痛い。
急カーブに差し掛かったところで、僕の我慢は限界に達した。僕は水滴を他の人に擦り付け始めた。こんなことしても意味はないことは分かっているけれど。
でも、その人たちはおもむろに目を閉じた。そして、涙を流し始めた。どうしてだろう?分からない。思い出せない。思い出したくない。やめてくれ。
次の駅に着いた。僕は電車を降りた。
今日はあの日とは違う、雲ひとつない晴天。ようやく僕はこの駅に辿り着けた。僕のために、涙を流してくれて、ありがとう。