その日の夜汽車
汽笛の音が届くと、列車はがたがたと揺れながら走り出した。ぼんやりとした照明で薄暗い車内。
車掌が来た。向かいに座った男の切符を見てちょっと驚いた顔をして、でもすぐに何でもないような顔で行ってしまった。
どこまで行くの?
――遠い遠いところさ
何しに行くの?
――ある人に会いに行くのさ
どんな人?
――大事な大事な人さ。今日は特別な日だから会いに行くのさ
特別な日?
――うん、特別な日だ。そうだ、何か願いごとはないかい? いや、何でもいいよ。ここに書いてこっちにつるしておきなさい。きっとかなうよ
ここにつるすだけでかなうの?
――もちろん、君が本気でかなってほしいと思えばかなうさ。それは私と同じだから。ああ、もう下りないと
それだけ言うと男は出て行ってしまった。ふと自分の手を見ると、いつの間にか細長い紙と笹を握りしめている。
窓から外を見上げると、天の川には大きな星かひとつ輝いていた。