仮眠症
「どういうことですか!」
真っ白な部屋にある男の怒号が響いた。
「落ち着いてください」
「落ち着いていられるわけがないでしょう! もう一度検査してください!」
「何度やっても同じです。あなたは仮眠症なのです」
「そんな……」
怒りに満ちていた男の顔は覇気を失っていった。
「休めば治りますよ」
「いつ治るんですか?」
「それは個人差がありますので」
「2か月後は受験なんです。俺は、俺はこのためにどれだけ勉強したか……」
「あまり思いつめないでください」
「これじゃ、外出どころか勉強すらできやしない。もう終わりだ……」
仮眠症。
それは、突然眠りに入ってしまう病気だ。
眠る時間は人それぞれ。5分の人もいれば2時間眠り続ける人もいる。
だが、仮眠症にかかる人の1回の睡眠時間は仮眠と同じぐらい。
これが仮眠症の名前の由来だ。
それだけなら、なんら問題はないだろうと思われるかもしれない。
だが、1日に何回も起こるのだ。
その人の以前の睡眠時間と同じ時間の睡眠をとるまでに何回も。
どんな状況であろうとも、患者の意思は関係なく。
仮眠症が発見された当初は、患者は多くなかった。
全体の人口の1%ほどだった。
それから10年経った今、患者は全体の人口の60%以上。
仮眠症にかかったことがある人は既に80%を超えていた。
仮眠症になる原因、それは過度な睡眠不足だった。
睡眠が足りなくても、睡眠をとらない。
そんな日が続くと、体が勝手に睡眠をとるようになる。
それが仮眠症だった。
仮眠症を治すには、ただ寝ること、休むこと。
それしかない。
むしろそれさえこなせばすぐに治ってしまうのだが、まあそんな簡単ではない。
仮眠症にかかる人物は、ストレスが多い生活を長い間送っていたため長時間眠ることができない。
途中でどうしても起きてしまうのだ。
また、休むことができない。
何かをやらなければいけないという義務感を持っているものが多い。
何かは仕事だったり勉強であったり。
患者たちは休息をとりたがらないのだ。
患者たちは突然眠ってしまうため外出許可は下りない。
わが国では、感染症と同じ扱いなのだ。
仮眠症の初期の者は自宅療養が許されるが、重度の者は病室から1歩たりとも外に出ることはできない。
重度になってしまうと治癒することすら難しいのだ。
「次の方どうぞ」
真っ青な顔をして、付添人に支えられながら向かってくる。
きっと彼も仮眠症患者なのだろう。
私は今日も患者たちを診療する。
皆さん、睡眠は大切ですよ。
睡眠不足になると仮眠症になってしまいますからね。
え、私は仮眠症にならないのかって?
そんな心配ならいらない。だって私の睡眠時間は16時間。
診療中以外はほとんど寝ているのだから。