手紙
「いい加減にしてください!」
ぱちーん。学園内に大きな音が響く。
周りにいる誰もが目を疑った。
おとなしいことで有名なサリーが王子を叩くなんて信じられなかったのだ。
「サ、サリー?」
叩かれた王子本人も信じられないのだろう。
サリー=モンタールはモンタール公爵家の長女にして、この国の王子の婚約者だ。
王子と婚約をしてからというもの、王子の1歩下がったところから王子を支えていくつつましやかな女性だ。
そんなサリーが王子を叩くなんて思いもしなかったのだろう。
「いつまでもグチグチと鬱陶しいんですよ」
「鬱陶しいだと?」
「そうですよ。いい加減諦めたらどうですか」
「諦めるなんてそんな……」
「もうキャシー様はこの学園にはいないんです」
「そんなことわかっている。それでも……」
「いいですか? キャシー様はご実家に帰られたのです」
「嘘だ! そんなの俺は信じないぞ!」
「これを見てもまだ言いますか!」
はーっと大きなため息をつきながら、サリーはカバンから1枚の写真を取り出した。
そこにはウエディングドレスを着た1人の女性がタキシードを着た男性と仲睦まじい様子で映っていた。
「嘘だ。キャッシーはうちに来るといったんだ」
「それはあまりに王子がしつこかったからでしょう」
「そんな……」
「いい加減諦めてください」
今にも泣きそうな顔をしている王子と王子を叱るサリー。
2人は婚約者というよりはまるで姉弟のようだ。
「キャッシー様は王子のお誕生日にはこっちに来てくれるそうです」
「それは本当か?」
「キャッシー様からのお手紙に書いてありましたから」
サリーが持っているキャッシーからの手紙をうらやましそうに見る王子。
「王子もキャッシー様にお手紙を書かれたらいかかです?」
「キャッシーは俺とも手紙を交わしてくれるだろうか」
「喜ぶと思いますよ。キャッシー様は王子を息子のように可愛がっていらっしゃいましたから」
「そうか!」
花が咲いたような笑顔をする王子を見て、周りの人間はみな一様にほっとする。
この学園の誰もが王子のことを心配してたのだ。
キャッシーへ
元気にやっているか? 俺は元気だぞ。
キャッシーの作るごはんが食べられなくなって少しさみしい。
だから、絶対に俺の誕生日には祝いに来るんだぞ? いいな?
「ふふふ」
「どうしたんだい、キャッシー」
「見て、あなた。王子からお手紙をいただいたの」
「なんだって?」
「私のご飯が食べれなくて寂しいですって。そう言ってもらえて嬉しいわ」
「王子は本当にお前のことを気に入ってくださってたんだな」
「ええ、これでも王子に宮廷料理人に誘われたぐらいよ?」
「そんなお前を嫁にもらえて俺は幸せ者だな」
「あら、あなたったら」
「もう着いたかな?」
「そろそろ着いた頃だと思います」
「そっか。返事楽しみだなー」